◇記者コラム「Free Talking」

 プロ野球の開幕直前、巨人を取材する報道陣へ手のひらに収まるサイズの小冊子が公開、配布された。それは、阿部慎之助監督(45)の信条や指針をまとめた「クレドカード」と呼ばれるものだ。監督方針は、6つのことが書かれている。

 1 勝利のために自己犠牲ができる選手を起用する

 2 成績だけの昇降格はしない

 3 結果が大事だがプロセスを重要視する

 4 トライアル&エラー 失敗から学ぶ

 5 チーム内競争を促す

 6 5つのスキルを備える

 そして、5つのスキルは「素直さ」「謙虚さ」「継続力」「献身性」「思考力」と記されている。まさに阿部巨人のバイブルだ。チームを強くするため、優勝に突き進むため、選手に求めることが明確に示されている。

 自己犠牲は、阿部監督が重視しているものだ。バントや進塁打はもちろんだが、それだけではない。2月23日の阪神とのオープン戦(那覇)で、7―3の3回1死から左飛に倒れた秋広のことを「ホームラン打たれた次の回の初球をポーンと打ち上げて、ああいうのは野球を知らないんじゃないか」と厳しく語ったのもこの指摘だった。このときは直前の守りで、エラーの後、佐藤輝に2ランを浴びていた。「そういうときって流れが悪くなってるときだから、簡単にいってはいけない」。チームのために、じっくりいくべきところと説いていた。

 方針3でいえば、普段からの取り組みも重視するということだろうが、私は指揮官が春季キャンプ中のトークイベントでファンに語ったことも思い浮かべた。そのとき、「ゲームでの立ち居振る舞いを見ておく」と選手に告げたことを明かし、「例えば投手がボコボコ打たれました。悔しいだろうが、こうべを垂れたりしないように。そういう姿を見ていく。そういうところからやっていけばチームは変わると思う」と語っていた。方針4にも重なるだろうが、うまくいかなくてもどう向き合い、どう次につなげていくかも求めているはずだ。

 阿部監督の思いが詰められたこの小冊子には、王貞治さんや原辰徳さん、松井秀喜さんのメッセージや、長嶋茂雄さんの引退セレモニーの名言なども盛り込まれている。全選手にはもちろん、女子野球や今年新設された中学チームのメンバーにも配布し、巨人という組織として共有した。いい取り組みだなと思う。この指針のもと、阿部監督がチームをどう立て直し強化していくか注目したい。(プロ野球担当・井上洋一)