◇19日 大相撲夏場所8日目(東京・両国国技館)

 約8年ぶりに十両に陥落した元小結の遠藤(33)=追手風=が、4場所ぶりの勝ち越しを全勝で決めた。

 戻るべき舞台で遠藤が、関取一番乗りで勝ち越しを決めた。2016年春場所以来の十両から再起を期す中、今場所初めて幕内での一番。時疾風を土俵際の左下手投げで逆転した。

 左四つを許して寄られ、俵に詰まってから下半身に力を込めて粘って、拍手に包まれて「歓声が上がった時、勝ってよかったと思いますね」と自身初のストレート給金。「体の動きは別として、これ以上ない成績。前向きにならなきゃダメ」と支度部屋では珍しく笑顔も見せた。

 幕内復帰への決意は、古傷を抱える膝に表れている。今場所、テーピングをしていない。治ったわけではない。33歳がリスクを負って、リミッター解除。膝を含めた下半身の状態は、序盤の「何とか動いてましたね」から、中盤は「動ければもっとうまくさばけたけどね」と笑いを取ったかと思えば「納得している。これ以上を求めたらダメ」。日を追うごとに前向きな言葉が出てきた。

 師匠の追手風親方(元幕内大翔山)も「膝が悪い中で、今まではセーブする部分があったが、今場所はそこを意識しないで相撲を取れている。『ここでもうひと踏ん張り』という思いが出ている」と、今場所に懸ける思いを感じ取っている。捨て身で、三役経験者の意地を見せている。

 1月の能登半島地震の被災地となった故郷・石川県穴水町の動きにも、背中を押してもらっている。4月には同町と七尾市を結ぶ「のと鉄道」が、全線で運行を再開。町の中心部では、仮設の商店街を整備する動き。明るいニュースは、自然と耳に入ってくる。

 上位陣の取組にも負けない大歓声は、幕内返り咲きを願うファンの期待そのもの。「被災地はもっと大変だけど、一緒に前に進んでいけたら」。能登への思いも力に、さらに白星を積み上げてはい上がる。