基本的に主人公が精神的に追い込まれたり、トラブルや犯罪に巻き込まれたりするドラマは好物だ。今期はこの手の受難系主役が意外と多い。大概は味方がいたり、家族が心の支えになるのだが、ひとりだけボッチな主役がいる。登場人物のほぼ全員から脅迫されたり、叱責されたり、馬鹿にされたりだまされたり疑われたり。しかも病身の妻と愛娘からも愛想を尽かされて、邪険に扱われる。「グレイトギフト」の反町隆史だ。口を閉じてたたずむだけでかっこいいのだが、放っておくと無駄にかっこつけちゃう反町が、今回は猫背気味&伏し目がちでうだつの上がらない病理医を演じている。カメラ目線はほぼなし。人と目を合わせられない内向性を表現。終始、斜め45度下を向いた主役は珍しい。

 もうひとつの主役は、体内に入ると心不全を起こして、宿主を死に至らしめる球菌だ。宿主の頸部に嚢胞を作り、かすかな黒点を残すものの、球菌そのものは消滅。行政解剖されたとしても「N.P.(Not Particular)」で処理される。死因は急性心不全としか診断されない。この菌を飲み物に盛れば、邪魔な人間を容易に殺せる。

 そんな超お手軽な殺人球菌(ギフト)は、そもそも元首相(山田明郷)の遺体から検出。ヤバい新種発見に沸き立つ反町だが、相談する相手を間違える。初動ミス。

「金と権威にこびて患者を無視する医療を改革する」と奇麗事を語っていた心臓外科医の佐々木蔵之介に託したものの、蔵之介は大学病院内の権力争いにギフトを悪用。横暴な理事長(坂東彌十郎)をまんまと殺害。心臓の手術待ちで入院中の反町の妻(明日海りお)をネタに、反町を脅迫&顎で使う。ぼんやりした昼あんどんだが、病理医としての倫理観はある。妻を救うために、蔵之介の脅迫に屈し、暴走を黙認するしかない反町。

 報われないのは妻と愛娘(藤野涼子)からさげすまれている点。家庭運営に対する長年の無関心が夫婦間・親子間に深い溝を作ったようで。

 それだけじゃないのよ。同期の医師(津田健次郎)からさげすまれ、事務長(筒井道隆)からは無駄に嫉妬され、目ざとい後輩(盛山晋太郎)からも金目当てで脅され、政財界の悪しきVIPが集うクラブのオーナーで元総理大臣の愛人(倉科カナ)からは鎌かけられ、洞察力の鋭い元刑事(尾上松也)からは探られて、協力を要請されたりもして。全方位から完全包囲、にっちもさっちもいかなくなっているわけよ。

 自分が見つけて培養した菌で、次々と人が殺されていくことに耐え難い苦痛と罪悪感を覚える反町。確かに3話までで、権力争いと無関係の患者も含め、5人も殺されとるし。ここまでくると、脳内サブタイトルは「佐々木蔵之介主演、イケナイ教授は殺人鬼〜もうどうにも止まらない〜」だ。

 唯一味方と思しき人物が。殺人球菌の存在を知った検査技師(波瑠)は、半ば強引に協力を申し出てくる。しかも反町に「好きです」と謎の告白。いや、それどころじゃねーから。空気読めや。

 というわけで、反町が顔を上げて前を見る日は来るのか? 目線の行方を追う。

吉田 潮(よしだ・うしお)
テレビ評論家、ライター、イラストレーター。1972年生まれの千葉県人。編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。2010年より「週刊新潮」にて「TV ふうーん録」の連載を開始(※連載中)。主要なテレビドラマはほぼすべて視聴している。

「週刊新潮」2024年2月15日号 掲載