ご飯、ラーメン、ケーキにジュース。分かっちゃいるがやめられない、太る原因「糖質」。だがこれまで好きで口にしてきたと思っていたものが、単なる「中毒症状」に過ぎなかったとしたら……。糖尿病専門医の牧田善二氏が語る、世にも恐ろしい糖質の話。

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 私は糖尿病専門医として、これまで20万人以上の糖尿病患者を診察してきました。その中には「メタボ」や「肥満」に悩んできた方も多くおられます。

 太っている方のほとんどは、ご飯や麺類が大好きと話します。でも、彼らが太ってしまったのは決して食い意地が張って食べ過ぎたからではありません。実は、脳が「糖質」を取らずにいられない中毒状態に陥っているためなのです。

「中毒」などと言うと「そんな大げさな」「私には関係ない」と思う方もおられるでしょう。でも、あなたが「ご飯や麺類を我慢できない」「甘いお菓子やジュースについ手が伸びてしまう」なら、それは立派な糖質中毒。痩せられない理由は、まさにそこにあるのです。

体質や意志の弱さとは無関係

〈いまやダイエットの定番といえる「糖質オフ」。ところが「肉や魚は我慢しなくていい」「ご飯など炭水化物を減らすだけ」と、まるで手軽であるかのように語られるこの方法には大きな落とし穴がある。それが、「どうしても糖質を我慢できない」という、痩せられない人たちの切実な悩みに応えられていないことである。

「炭水化物を減らさなくては」と分かっていても、やめられない。そもそも肉や魚はご飯をおいしく食べるためにあるのだから、肉や魚を食べればなおさらご飯が欲しくなる。そういう人たちにとって「炭水化物を減らすだけ」は、何の助けにもならないのである。

 牧田氏によれば、炭水化物や甘いお菓子を我慢できないのは、体質や意志の弱さとは無関係。原因は「脳」にあったのだ。〉

一度依存すれば抜け出すのは難しい

「中毒」や「依存」と聞いて、皆さんが真っ先に思い浮かべるのはなんでしょう。代表的なものには人生を破壊する違法薬物や、明らかに健康を害するたばこへの依存がありますよね。

 では薬物やたばこにすっかり依存した人に、単に「やめればいい」とアドバイスするのは有効でしょうか。恐らく多くの人は、「それができないから中毒なんだよ」と考えるでしょう。

 さらに、違法薬物やたばこについて「健康に害はない」とか「やめようと思えばいつでもやめられる」なんて話す人がいたら……。あなたは、それらがいかに有害で、依存から抜け出すのがどれだけ難しいかをこんこんと説明するのではないでしょうか。

 実は、糖質中毒もこれと同じ。過剰に摂取すると体に深刻な害をもたらしますし、一度依存すれば抜け出すのは非常に難しい。従って、解決のためには薬物やたばこと同様、「どうして有害なのか」「なぜやめられないのか」を正しく理解するのが重要なのです。薬物やたばこは、そもそも生きるために必要ありませんし、有害性も周知されている。それでも時に人はやめられなくなるのですから、生きるために必要で日常的に抵抗なく摂取している糖質ならなおさらです。

「中毒」はもはや自分の意志ではどうにもなりません。くれぐれも「意志の力でやめよう」などと思わないで下さい。意志に頼ると失敗したときに自暴自棄となり、中毒を悪化させかねません。あくまで科学的な根拠に基づいて糖質を遠ざける。意志は関係ありませんから、失敗してもあなたに責任はありません。リバウンドしてもまた淡々とやり直せばよいのです。

白米も玄米も“ほぼ糖質”

〈糖質と距離を置くための第一歩は、糖質を正しく理解すること。だが、一口に糖質と言っても、砂糖からご飯やパン、麺類などの炭水化物まで、その種類はさまざまである。〉

 栄養学の世界では、炭水化物、タンパク質、脂質を「三大栄養素」と呼んでいます。糖質は、この炭水化物から食物繊維を除いたもの。従って、厳密には「炭水化物=糖質」ではありませんが、炭水化物に含まれる食物繊維はごくわずか。実際には炭水化物は“ほぼ糖質”です。例えば食物繊維が豊富とされる玄米ですら、食物繊維の量は1膳(150グラム)当たりたったの2.1グラム。一方の糖質は約51グラムで精白米と大差なく、やはり“ほぼ糖質”です。

角砂糖13個分

 糖質の働きは私たちの体のエネルギー源になること。体内に取り込まれた糖質は消化の過程で一個一個のブドウ糖に分解され、血液によって全身に送られて体や脳を動かすエネルギーとなります。この時、血液中にどれくらいブドウ糖が存在しているかを示した数値が「血糖値」です。

 血糖値が上がり過ぎると昏倒して命に関わるため、私たちの体は膵臓からインスリンを分泌し、血糖値を下げようとします。インスリンはブドウ糖の一部をグリコーゲンに変えて肝臓や筋肉に貯蔵し、それでも余ったブドウ糖を中性脂肪に変えて脂肪細胞に蓄えます。こうして脂肪が異常に蓄積された状態が「肥満」です。

 ちなみに、ご飯などの炭水化物は「多糖類」と呼ばれ、たくさんのブドウ糖が連なった構造をしています。他方、砂糖はブドウ糖が二つくっついた「二糖類」です。ただ、多糖類も二糖類も私たちの体内で消化するときにバラバラにされて、すべて一個一個のブドウ糖に分解されます。この一個一個のブドウ糖が血糖値を上げるわけですから、ご飯も砂糖も体にとっては同じ。

 例えば、うどんは1玉(250グラム)に約50グラムの糖質を含んでいますが、これを食べることは角砂糖13個をなめることと変わりません。また、500ミリリットル入りペットボトルのコーラなど清涼飲料水に、ご飯1膳分に匹敵する50グラム以上の糖質が含まれていることも多々あります。

依存のメカニズム

 過剰な糖質摂取によって引き起こされるのは肥満だけではありません。糖質を過剰摂取しているとインスリンの働きが弱くなり、行きつく先は「糖尿病」です。糖尿病になると免疫系の機能が低下するため、がんや心筋梗塞、脳卒中、アルツハイマー病などあらゆる病気にかかりやすくなります。さらに血液中に溢れたブドウ糖は血管の壁にくっついて傷を作り、全身に酸素や栄養を送り届ける血液や血管の状態も悪くします。

 いかがでしょう。糖質の過剰摂取がいかに危険で有害か、これでお分かりいただけたでしょうか。

 では、このように危険な糖質の過剰摂取を続けるとどうなるのか。続いては、依存のメカニズムについてお話ししましょう。

 カギとなるのは、やはり「血糖値」です。血糖値は糖質を摂取したときやストレスを感じたときなど、私たちの知らないところで一日中、上下しています。血糖値の変動自体は自然な動きで、一日を通じて70(空腹時)〜140(食後)mg/dL程度で動いていれば問題ありません。ところが糖質を過剰摂取すると血液中にブドウ糖が溢れ返り、血糖値が急上昇するのです。健康診断では何の異常もない若者が、食後に180を超える血糖値を示すことも珍しくありません。

物理的に遠ざける

 急上昇した血糖値を下げるため、膵臓からは大量のインスリンが分泌されます。これによりブドウ糖は一気に分解され、今度は血糖値が急激に下降。低血糖も命に関わりますから、脳がさまざまな不快症状を発して「糖質を取れ」と指令します。この不快症状にはイライラや強い空腹感、冷や汗、動悸(どうき)や震え、吐き気などがあります。糖質中毒者が糖質を欲するのは、まさにこの「脳からの指令」に突き動かされているわけです。

 一方、脳の指令に従って糖質を取ると、今度はドーパミンが分泌され、ご褒美として幸福感を得させてくれます。皆さんも「イライラしてチョコレートをつまんだら満たされた」といった経験があるかもしれませんが、それこそが中毒症状の入り口なのです。

 糖質摂取による幸福感は長続きしません。糖質を取ると血糖値はジェットコースターのように急上昇のち急降下。不快感を覚えて、体は糖質を再び欲するのです。このような「悪魔のサイクル」に陥れば、完全な糖質中毒です。

 時折、「イライラしたり集中力が切れたりするのは、脳のエネルギー不足」と糖質の摂取を正当化する方がおられますが、これは誤り。確かに通常は脳のエネルギー源としてブドウ糖が使用されますが、ブドウ糖が不足したからといって脳が働かなくなることはありません。甘いものを食べないと脳が働かないのは、糖質中毒の禁断症状を起こしているだけ。いわば「ヤクが切れた」状態です。

悪性度ナンバーワンの糖質

 また、血糖値の上がり方は糖質の種類によっても異なります。ご飯やパン、麺類に比べ、ケーキなど甘いお菓子類は血糖値の上がり方がより急激です。最悪なのは清涼飲料水など、すでに液体になっている糖質。これらは消化の必要がほとんどありませんから、血糖値の上がり方はかなり急激で、悪性度ナンバーワンの糖質といえます。

 中には「果汁100%だから健康的」と、フルーツや野菜のジュースを飲んでいる人もおられるでしょう。でもジュースの製造には、そのままで食べる量の何倍もの果物を使い、さらに汁だけ残して繊維質は捨ててしまう。結局、糖質だけを大量に取るわけで、ちっとも健康的ではありません。

 多くの飲料メーカーは、製品を繰り返し口にしてもらおうと「至福点」を計算しています。至福点とは、血糖値の上昇によって脳が幸福を感じ始める分岐点のこと。つまり糖質中毒に陥る糖質量を分かって商品化しているのですから、糖質中毒に陥るのは当然です。

意志ではなく行動を変える

〈想像をはるかに超えた、糖質摂取の重い弊害。すでに糖質と距離を取りたくなっている方も多いのではないか。

 最後は、その「距離の取り方」である。意志に頼らず中毒を脱するには、どうすればよいのか。〉

 糖質中毒は糖質の摂取をやめようと思ってもやめられません。そこで「意志」ではなく「行動変容」によって糖質を絶つのです。

 行動変容とは、文字通り、行動から変えてしまうこと。例えば、禁煙を考えている人がたばことライターと灰皿を常備していたら、その人が禁煙に失敗するのは火を見るよりも明らかです。本気で禁煙するなら、「たばこを買わない」、「たばこ屋に近づかない」、「喫煙OKの店には入らない」と行動を変え、物理的にたばこを遠ざけてしまうでしょう。場合によっては、口寂しさを解消するためにガムをかむなど代替行動を用意したりもします。

 糖質中毒もこれと同じ。お米やパンを家の中に常備しないのはもちろん、ラーメン屋さんやスイーツを買ってしまうコンビニにも近寄らない。日常で糖質を取ってしまうシーンを洗い出し、そこにつながる行動を徹底的に排除するのです。

糖質制限で筋肉は減らない

 ラーメンやスイーツをやめて浮いたお金をため、映画に行ったり、マッサージを受けたり、と自分へのご褒美に使うのも効果的です。また、糖質が少なく食物繊維が豊富なナッツや、ウイスキー・焼酎といった糖質が含まれない蒸留酒を上手に利用するのも一つの手。ただし、人工甘味料を使っている食品はかえって健康を害する恐れがありますから、手を出さないで下さい。

 何より大切なのは、今この瞬間から始めること。禁煙も「この一箱を吸い終わったら」なんて悠長なことを言っている人は大体、失敗しますよね。それから、主体的であることも重要です。糖質を「食べられない」のではなく、あくまで「食べない」のです。

「糖質制限をすると筋肉が落ちる」と心配する方もおられますが、糖質はさまざまな食品に含まれており、仮にご飯をやめても摂取する糖質はゼロになりません。それに、エネルギー源として筋肉が消費されるのはグリコーゲンや脂肪を使い切った後。脂肪細胞を全て燃焼するのには体重70キロの男性で約80日を要しますから、糖質制限で筋肉が減ることはありません。

1日の糖質摂取量を何グラムにすればいい?

 糖質制限の目標は、1日の糖質摂取量を60グラム以下に抑えること。そうすれば1日100〜200グラムずつ体重が減っていきます。ただ、糖質中毒の方が一気に60グラムまで減らすのは不可能でしょうから、まずは1日120グラム以下に。1日の糖質摂取量が120グラムだと痩せはしませんが、これ以上太ることにはストップがかかるはずです。そうして慣れてきたら今度は100グラム以下に、と段階を踏みます。

 注意すべきは、「食品そのものの量」ではなく「糖質の量」で計算すること。例えばご飯1膳は約150グラムありますが、含まれる糖質の量は約53グラムです。主食となる炭水化物や清涼飲料水、甘いお菓子、それからイモ類やカボチャなどを避け、葉物野菜やキノコ、海藻、豆類、肉、魚、豆腐など糖質をあまり含まない食材を積極的に取るようにします。

 糖質制限を3週間も続けられれば、糖質中毒からは脱したと考えてよいでしょう。晴れて中毒を脱し肥満が解消されれば、ご飯やラーメンを口にしても、かつてのように「やめられない」とはならないことが実感できると思います。

「もりかけ」より「天ぷら」

 ただし、現代社会は糖質中毒のわなで溢れています。糖質中毒に陥る原因は「血糖値の急上昇」。従って、常に血糖値の上昇を緩やかにすることを考えておくべきです。炭水化物はタンパク質や脂質と一緒に摂取した方が血糖値の上がり方が穏やかになりますから、「塩むすび」より「生姜焼き定食」、「かけそば」「もりそば」より「天ぷらそば」、「ラーメン」より「チャーシューメン」を選ぶべき。さらに炭水化物は後回しにして、タンパク質や野菜から先に食べるようにします。

 また、「今日は我慢できずにラーメン食べちゃった」なんて日もあるでしょう。そういうときも、食べた直後に運動すれば血糖値を上げずにすみます。おすすめは、時間をかけてゆっくり腰を下げ、ゆっくりと立ち上がる「12秒スクワット」。これを10回も繰り返せば食べた炭水化物は帳消しになります。ただし、食べ始めから15分もすれば血糖値は上昇し始めますから、グズグズしている暇はありません。

 糖質は必要にして害をなす非常に厄介な存在。是非、糖質の正体を知り、ダイエットを成功させて下さい。

牧田善二(まきたぜんじ)
AGE牧田クリニック院長。糖尿病専門医。医学博士。1951年生まれ。北海道大学医学部卒業。ニューヨークのロックフェラー大学医生化学講座など、米国で5年間研究を行う。北海道大学医学部講師、久留米大学医学部教授等を経て、2003年に糖尿病などを治療する「AGE牧田クリニック」を開業。『医療に殺されない 病院・医者の正しい選び方』『医者が教える食事術 最強の教科書』『糖質中毒』など著書多数。

「週刊新潮」2024年4月4日号 掲載