再婚する人たちが増えている。再々婚の話題も少なくない。つい先日も女優の熊谷真実さんが3度目の結婚をしていたことを公表した。ともさかりえさん、岡田美里さんなども再々婚組。もはや一度結婚したら生涯添い遂げなければいけないといった規範をもたないほうが生きやすいのかもしれない。

「僕もつい最近、再々婚したんです。離婚したあとに誰かと知り合って再婚なら、がんばるねえと笑って祝福もされるんでしょうけど、僕の場合は不倫からの離婚、不倫相手と結婚が続いたので、あちこちから不評を買っているようです」

 松川隼平さん(45歳・仮名=以下同)は顔をくしゃくしゃにして笑った。いかにも人のよさそうな、女性に警戒感を与えないタイプと一見してわかる。そしてこういう男性が、実は女を夢中にさせてしまうのだ、おそらく。どんなに愛しても愛されている手応えがないがゆえに、女は彼にのめりこんでいって悲惨な結末を生む。そんな恋をしてきたのではないだろうか。

「いや、逆じゃないかなあ。僕としては愛情を結婚という形にしているのに、女性たちはそれを信じてくれない。不倫して、離婚してよと迫られて、わかったと離婚して再婚して、僕は僕なりにいい家庭にしようとがんばっているのに、思ったほどいい家庭じゃない……その繰り返しだったような気がします」

 自分の家庭観がゆがんでいるのか、他人に合わせるのが不得意なのか。はたまた、強烈な女性ばかりと結婚して疲れてしまうのか。自らを分析するのはむずかしいと彼はひとりごちた。

20歳下の再婚相手は「超わがまま」

 隼平さんが3度目の結婚をしたのは2年ほど前。相手は20歳年下だ。世代間ギャップもありそうだが、それより問題なのは彼女が「超わがまま」な女性だったことだ。

「それで初めて気づいたんですよ。最初の妻は我慢強くて、何も文句を言わずに耐える人。それが爆発したとき、とんでもないことになってしまった。次の妻はマイペースすぎて、そこが魅力だったのに結婚後は僕がついていけなくなった。そして3度目の妻はわがまま(笑)。いずれにしても『一緒に家庭を築いていく』実感がもてない。友人は『恋愛で終わらせておくべき相手と結婚するのが間違っている』というんだけど、僕は好きだからつきあって、そのまま結婚するのが当然だと思ってきた。責任をとるということではなく、好きな人と一緒にいたいという純粋な気持ちだけなんですけどね」

 結局、3度目の家庭生活にも満足できずにいる。

 そもそも彼の育った家庭が複雑だった。今思えば、倫理観みたいなものがない家庭だったと彼は苦笑いする。いや、家庭のていをなしていなかったのかも、と。

「両親ともに奔放というかなんというか。物心ついたときは母がいなくなっていて、父は『おかあさんは他の男を好きになって出て行っちゃったんだよ』と。正直だけど子ども心にはショックですよね。でもすぐに新しい女性がやってきた。彼女はとってもいい人で、おねえさん的存在でしたね。僕は彼女に憧れて、父親に嫉妬していた。弟もできたけどその後、父が帰ってこなくなった。父の後妻さんに言わせれば『おとうさん、別に好きな人ができちゃったみたい』って。正直な人たちだったんでしょうね。当時、僕は中学生になったばかり。父は生活費だけは送ってきたみたいで、継母は血のつながりのない僕を自分が生んだ弟と同じようにかわいがってくれました。高校生のころ、父が戻ってきた時期があったので『自分が好きで再婚したんだから責任をもて。泣かすな』と僕が言ったことがあるんですよ。そうしたら父は『他に好きな人ができればしかたがないんだ。いつかおまえにもわかる』って。そのときは腹が立って父に殴りかかりました。すると継母が『隼ちゃん、いいのよ』と止めたんです。男と女のことは当事者にすらわからないことがあるのと彼女は言っていましたね」

「誰も悪い人はいなかった」

 大学生になると彼は家を出て上京、親との関わりはさらに薄くなった。そのころ父と継母は正式に離婚したが、彼が就職したと報告すると「こっちも再婚した」と父が継母とよりを戻したことを知らせてきた。

「よくわかんないです、あのふたりは。くっついたり離れたり、同居したり別居したりしているみたいですから」

 ただ、彼は生みの母も含め、そんな「身勝手な」大人たちを恨んだことはないという。むしろ、人は正直に生きると世間的にも子どもに対しても肩身が狭いところはあるが、それでもどこか愛おしい存在たり得るのだなと感じていた。

「生んだ母は優しい人だったという印象が強いし、父も身勝手に生きていたけど、母の出奔を認めていたような人だから僕のことも全面的に受け入れてくれていた。継母もまた分け隔てなく育ててくれた。結局、周りには誰も悪い人はいなかったんだなと気づいたのが大学生のころですね。一般的な親の愛情がどういうものかはわからないまま成長したものの、だからといって心をねじ曲げる必要もないな、と。そうやって自分で自分を大人にしていった側面はあるのかもしれない」

社会に出て露わになった「ひずみ」

 ところがそうやって自分で自分を大人にした結果、ひずみが出たのが就職後だ。職場の人間関係になじめなかった。なぜか居心地が悪いのだ。それまでの学校生活でそういった感覚をもったことがなかったから、隼平さんは焦ったという。

「それもあとから考えてわかったんですが、配属された部の部長が家父長的な人だったんですよ。女性や若手を下に見るような発言をしたり皮肉を連発したり……。あるとき同じ部署の女性に『そんなことだからきみは嫁に行けないんだよ』と言ったことがあって、僕は思わず『そういう言い方ってどうなんですかね』という言葉を吐いてしまった。周りに緊張感が走ったのはわかったけど、そんなこと言わせておく周りもいけないと思っていた。当時はモラハラとかパワハラなんていう言葉は一般的ではなかったけど、部長の立場でそういうことを言うのは間違ってると正義を振りかざしました。部署のみんなからはよく言ったと言われたけど、会社的に問題にされたのは僕のほうだった」

 正しいことを言ったのに会社からは疎まれ、上司を攻撃したとして役員たちから注意を受けた。へんな会社だなと思って、即刻、辞表を出したと彼は言う。

「正直者の血が流れていたんでしょうね。ただ、その経緯を知っている先輩が他の会社を紹介してくれたんです。そこは上司と部下の関係もよくて、仕事も楽しかった。その会社で出会ったのが最初の妻です」

結婚したのは「普通の女性」だけれど…“うっとおしい”

 同い年の祐子さんは「ごくごく普通の女性」だった。この人は「自分の基本的な指針となる」人だと彼は思ったという。

「両親と弟との4人家族で、お父さんは有名企業勤務、お母さんはパートをしながらの主婦。お母さんは料理上手で、お父さんはときどきDIYで棚を作ってくれたりする。そんなごく普通の家庭で育った祐子を好きになって結婚しました」

 27歳のときだった。結婚に踏み切ったのは彼女が妊娠したからだったが、そうでなくても彼女と結婚しただろうと彼は言う。結婚を機に彼女は退職したが、それもごく普通のことだと彼は感じていた。

「彼女は娘が生まれるとメロメロになり、数年間は自分で育てたいと。その後はパートで働くから、経済的には大変だけど一緒に乗り切ろうねと言っていました。幸い、当時、その会社は福利厚生が充実していたんです。住宅補助もあったし、社内での食材販売もあってスーパーより安かった。贅沢しなければなんとか暮らせていけました。妻の両親も近くにいて、いろいろ助けてくれましたし」

 何もかもうまくいっていると思っていたが、時間がたつにつれて、ごく普通の生活、常識的な妻に退屈するようになった。妻は腹が立つと黙り込む癖があった。

「わかるんですよ、妻は『夫を立てなければいけない』と思っている。新聞は僕に先に読ませるし、たとえば袋菓子みたいなものでも僕が開けない限り自分は手をつけない。娘にも『お父さんが先よ』とよく言っていた。彼女自身、眠くても夜中まで起きて僕を待っているわけです。僕はそういうことがうっとうしいし、男を立てるような教育は娘にはしてほしくないと言ったけど、妻は自分の両親がそうだったからと譲らない」

 いっそ妻が我慢できずに眠ってから帰ろうと、毎日のように終電で帰り、近所のバーで時間をつぶしていた時期がある。誰かが自分の犠牲になっているような生活がたまらなく嫌だった。

「そのバーで知り合ったのがバーテンダーのユキでした。彼女はかっこいいバーテンダーでね、酔っ払いは門前払いするし、店内で酔った客はごく自然に帰らせてしまう。私語は交わさないけど、いつもかっこいい女性だと思っていました」

強い彼女に惹かれて

 ある晩、珍しく客が途切れてふたりきりになったことがあった。彼がつい妻の愚痴をこぼすと、ユキさんは黙って聞いてくれた。

「今度、食事に行きませんかと誘ったら、彼女は『私の彼氏、ヤバい人だけど』って。ていよく断られたんですが、それ以来、ますます彼女のことが気になって……」

 半年ほどたったとき、ユキさんが「ヤバい彼と別れました」と言った。ヤバい彼は本当に存在したのかと彼が驚くと、「食事に行きましょう」とユキさんは笑ったという。徐々にわかったところによれば、「ヤバい彼」とは、母親の愛人だった。

「彼女は母親と折り合いが悪かったそうです。自立してからはほとんど接触がなかったのに、あるとき母親が愛人を連れて彼女に会いに来た。父親を裏切って愛人を作り、さらにそれを娘に見せびらかしにきた母に絶望したユキは、自ら母親の愛人に近づいたそうです。愛人は母と別れて彼女の部屋に転がり込んできたけど、『コイツが本当にどうしようもないヤツだった』と。ヒモみたいなものだったようです。暴力もふるわれたけど、彼女は空手をやっていたので彼を一発で沈めたこともあるって。彼女は僕よりいくつか年上でしたが、修羅場をくぐっているせいか、腹の据わり方が違っていましたね」

 そんな強い彼女に隼平さんは惚れ込んだ。それは妻と知り合ったころとはまったく違う感情だった。これが恋だと彼は確信したという。

後編【娘に紹介できない女性と3回目の結婚…愛情を結婚という形にしているのに、とにかくうまくいかない45歳男性の女性遍歴】へつづく

亀山早苗(かめやま・さなえ)
フリーライター。男女関係、特に不倫について20年以上取材を続け、『不倫の恋で苦しむ男たち』『夫の不倫で苦しむ妻たち』『人はなぜ不倫をするのか』『復讐手帖─愛が狂気に変わるとき─』など著書多数。

デイリー新潮編集部