美智子さまへ誕生日のお祝いのあいさつに向かう愛子さま。つぼみが混じるゴヨウツツジの花飾りは、次世代の皇室を担う愛子さまに重なる=2023年10月、東京・半蔵門、読者の阿部満幹さん提供

 3月20日、天皇、皇后両陛下の長女愛子さまが学習院大学を卒業した。4月からは日本赤十字社での勤務がスタートする。これまでに日本の古典や文学に強い関心を寄せ、文才の高さを示してきた愛子さま。両陛下はその知性を、どのように育んできたのか。ご一家の写真から、知育玩具の専門家が読み解いた。

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――パパの番よ。そのスティックを抜いて。

「そんな声が聞こえてきそうですね」

 日本知育玩具協会の藤田篤理事長が、そう語りながら見ているのは、2008年2月、皇太子であった陛下が49歳の誕生日に公開された1枚の写真だ。

 愛子さまはこのとき7歳。弾けるような笑顔で、「パパ」に向かって人差し指を向けている。そんな陛下と愛子さまを笑顔で見守る雅子さまも、リラックスしている様子だ。

 藤田さんによれば、ご一家が遊んでいるのはドイツの木製玩具メーカーであるハバ社製の「スティッキー」というバランスゲーム。倒れないように棒(スティック)を順番に抜いていくゲームで、昔からの定番の人気商品だという。
 

皇太子さま49歳の誕生日に公表された1枚。「スティッキーゲーム」ではじけるような笑顔を見せるご一家=2008年、東宮御所、宮内庁提供

 注目すべきは、弾けるような愛子さまの表情と動作だ。

「愛子さまは、『その棒――』というようにお父さまに向けて指を差し、さらに弾けるような笑顔を見せていらっしゃる。つまり、愛子さまはゲームの肝である棒が崩れるドキドキ感をご存じなのです。撮影のためににわかにセットしたものではなく、日ごろからご一家で親しんでいらっしゃることが伝わります」

 このゲームは、大人のひと工夫で小さな子どもも楽しめる点が魅力だという。たとえば棒が滑って難しければ、滑り止め代わりに布を敷いて難易度を下げることもできる。

「昔ながらの定番の商品です。時流に流されないものを愛子さまの玩具に選んでいらっしゃるのも、陛下と雅子さまのご方針なのでしょう」
 

皇太子妃時代の雅子さまが46歳の誕生日に、公表された写真。ご一家でボードゲームに熱中している=2009年、東宮御所、宮内庁提供

■幼くても「人」として真剣に勝負

 愛子さまが学習院初等科に入学してからは、ご一家でゲームを楽しむ機会が増えたようだ。

 雅子さまが46歳の誕生日を迎えた2009年の写真では、ご一家がボードゲームを楽しんでいる。8歳の冬を迎える愛子さまが、知性を育むゲームに興味を持っていることが伝わってくる。スティッキーゲームを楽しんでいる写真から1年10カ月ほど経過した時期で、愛子さまの表情やご一家の様子もだいぶ落ち着いている。

 藤田さんは、写真からではゲームの商品名まではわからないと断りつつも、「興味深い光景」と話す。

「まるで普通の家庭の団らんの風景を垣間見ている印象です。デジタルのゲームではなく、実在性のあるアナログの玩具で憩いの時間を持ち続けていらっしゃっていること。印象に残るのは、ご両親の表情です。8歳の愛子さまに対して、小さな子どもではなく、『人』として真剣に向き合い、コミュニケーションを取っていらっしゃることが伝わる1枚です」
 

■愛子さまに全員が注目した瞬間

 愛子さまへ注がれた愛情の深さが伝わる、とてもシンボリックな写真――。

 藤田さんがそう話すのは、2010年の新年に公表された、当時の天皇ご一家の団らんの様子がわかる1枚だ。

 愛子さまが組み立てているのは、スイスで戦後まもなく生まれた老舗玩具メーカー、ネフ社が作る積み木「ネフスピール」。
 

2010年の新年を迎えるにあたって公表された平成の天皇ご一家。積み木に取り組む愛子さまに、その場にいる天皇陛下や皇族方全員が注目している=御所、宮内庁提供

 藤田さんは、その場にいる全員が愛子さまの手元に注目していることが素晴らしいと話す。確かに「おじいちゃん」、「おばあちゃん」である平成の天皇陛下や皇后美智子さま、「おば」と「おじ」の秋篠宮ご夫妻、従妹の眞子さんに、愛子さまを手伝う佳子さま、小さな悠仁さままでが、愛子さまの手元に注目している。

「つまり、その場の人間がみんな、愛子さまに対して『すごいね』『応援しているよ』とメッセージを発し、あたたかな気持ちで包み込んでいるのです。このとき皇太子であった陛下は、『愛子を見てくれているんだね』といった表情を悠仁さまに向けていらっしゃる。皇后であった美智子さまも『ここまで上手になって』といった慈愛のまなざしを注ぎ、従妹の佳子さまは、愛子さまの面倒をよく見ています」

 藤田さんは、何かに取り組む子どもに対して周囲が応援し、あたたかな気持ちで包み込むことが成長にとって大事なことだと話す。
 

■積み木で得る3つの教育的効果

 積み木遊びは、知育玩具としても、実は奥が深い。

 子どもは積み木に「触り」、「積んで」「崩して」を繰り返す。これは経験したことのない新しい刺激や環境に注意を向けて、確認をして探ろうとする「探索行動」の始まりだという。

10歳の誕生日を迎えた愛子さま。バランスを取りながら、難しい積み木に挑戦する愛子さまの表情は生き生きとしている=2011年、東宮御所、宮内庁提供

 積み木遊びには三つの重要な教育効果がある、と藤田さんは言う。

 一つ目は、幼い頃からカラフルな色に触れることで、美しさに関する感性を刺激する。

 二つ目は、積み木を組み合わせて建物や動物といった対象物に見立てる想像力が育まれる点だ。

 三つ目は、数学的な感性。
 

皇太子さま50歳の誕生日に公表された1枚。真剣な表情でカードを引く愛子さまと、見守る両陛下=2009年、東宮御所、宮内庁提供

 たとえば、この1辺が5センチのネフスピールを組み合わせてゆくと、積み木の長さが規則的な間隔で増えていくことに気づく子どもも、なかにはいるだろう。遊びのなかでこうした数学的な法則を体感し、経験を獲得できるのが魅力のひとつでもある。

「テストはマルかバツかの世界ですが、積み木は組み立てては崩しという実験の世界です。挑戦してみて、大いに失敗と再挑戦を経験できる遊びです。テストのようにすぐに結果が目に見えませんが、地中に根を張る樹木のように、お子さんのなかで確実に知の根を張っています。真剣に遊ぶお子さんを認めてあげることは、とても大切なのです」
 

2009年の新年に公表された平成の天皇ご一家。愛子さまと悠仁さまが遊ぶのは、北海道で木製の玩具を制作する「三浦木地」による「さざなみ」という玩具。木の玉がコロコロと心地よい音色で転がり落ちる=皇居・御所、宮内庁提供

 皇室の知育玩具選びについて、藤田さんはこう話す。

「皇室の方々もそれなりにデジタルの世界にも通じていらっしゃるとは思います。一方で、お子さまの教育に関しては実体験を大切にし、家族で一丸となってゲームを楽しみながらコミュニケーションを図っていらっしゃる。ホッとするような光景です」

 小さな愛子さまを囲んでの一家団欒の写真。そこに写っているものうかがえるのは、愛子さまに対する深い愛情と大きな期待だ。(AERA dot.編集部・永井貴子)