大学時代は古典の研究に打ち込んだ愛子さま。卒業式にお召しの桃花色の本振袖が白い肌に映えて、よくお似合い=3月20日、東京都豊島区、代表撮影/JMPA

 天皇、皇后両陛下の長女愛子さまは今春、学習院大学を卒業し、4月からは日本赤十字社での勤務と公務との両立生活が始まる。日本の古典や文学に強い関心を持ち、学びを深めてきた愛子さまだが、古典研究への情熱はどのようにして育まれたのか。大ヒット玩具の開発を手掛けてきたおもちゃクリエイターは、団らんする天皇ご一家の表情と様子に注目した。

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「パパ」が札を読み、勢いよく腕を伸ばして絵札を取りにいく愛子さま。

 2007年2月、当時皇太子だった陛下が47歳の誕生日を迎えるにあたって撮影された、ご一家の団らん風景だ。

「取るのはわたし!」と言わんばかりに、かるたに夢中で手を伸ばす愛子さまは、このとき5歳。そんな愛子さまを見つめる陛下は顔がくしゃくしゃになるほどの笑顔を見せ、おふたりの真ん中の雅子さまも幸せそうな表情だ。
 

まもなく47歳の誕生日を迎える皇太子さま(当時)とご一家。愛子さまは5歳。かるた遊びで手を伸ばす、愛子さまの仕草がほほ笑ましい=2007年、東宮御所、宮内庁代表

「この一枚は、天皇ご一家を皆さんに伝えるのに、ぴったり。象徴的な写真です」

 そう話すのは、おもちゃクリエイターの高橋晋平さんだ。

 高橋さんは、大手玩具メーカー勤務時代には、発売初年度に全世界で累計335万個を販売したヒット玩具「∞プチプチ」のプロデューサーとして知られた存在。現在は起業し、おもちゃ開発者として活躍している。

 高橋さんは、こう話す。

「愛子さまが喜んでかるたを取りに行っている様子がよく伝わる写真です。ご家族全員がこの時間を楽しみ、『遊び』を大切にしながら、ゲームをなさっている。『遊び上手なご家族』なのだろうなと想像できます」

 こどもに文字を覚える導入として、かるた遊びを取り入れている家庭や保育園などは多い。高橋さんは、「読み札を読み上げる声に反応して、素早く絵札を取る」かるたは、リスニング力をはじめ、注意力や観察力、瞬発力などさまざま感覚が鍛えられる知育玩具だと話す。
 

まもなく47歳の誕生日を迎える皇太子さま(当時)とご一家。5歳の愛子さまと札を取りあう雅子さまも、豊かな表情をみせている=2007年、東宮御所、宮内庁代表

 しかし、「遊びを大切」にしながらゲームに熱中するというのは、意外に難しいのだという。

 たとえば、愛子さまが夢中になっていたかるた。これは、親の声かけひとつでゲームの性格が変化してしまう玩具でもあるという。

「かるたに素早い反応はいらない。ただ文字を覚えればいい」と、遊びではなく学習ツールととらえる親も少なくないのだという。
 

■古典研究への入り口は、ご両親とのゲーム

 愛子さまが学習院初等科に入学してからは、ご一家でゲームを楽しむ機会が増えたようだ。雅子さまが46歳の誕生日を迎えた2009年に公表された写真では、ご一家がボードゲームを楽しんでいる。

皇太子妃時代の雅子さまが46歳の誕生日に、公表された写真。ご一家でボードゲームに熱中している=2009年、東宮御所、宮内庁提供

「ボードゲームやすごろくには、いろいろな種類があります。たとえば世界各地を回るゲームであれば、旅行の疑似体験をしているのと同じで豊かな想像力を養います。マネーゲームなど戦略を伴う種類ならば思考力を育てるのに役立ちます」(高橋さん)

 大切なのは、子どもが小学生など小さいうちは、家族一緒に全力で楽しむことだという。

 ワイワイとおしゃべりをしながら賑やかに楽しめば、コミュニケーションの練習にもなる。
 

皇太子さま(当時)52歳の誕生日を前に団らんするご一家。愛子さまは10歳。ご両親に百人一首を教わっている=2012年2月、東宮御所、宮内庁提供

 さらに5年後、皇太子時代の陛下が52歳の誕生日を前に、団らんするご一家の写真が公表された。

 ご一家が楽しんでいるのは、おなじ「かるた」でも百人一首へ変わっている。10歳の愛子さまに、ご両親が百人一首を教えている場面だった。

 ここが愛子さまにとって、古典への入り口となった風景なのだろう。

 愛子さまは家族で、百人一首に親しんでゆく。中等科時代には、学校の百人一首の大会の行事で圧勝したこともあった。高等科でも平安時代の物語や和歌に関心を強め、大学ではより深く学ぶことになる。

 昨年12月、愛子さまの22歳の誕生日には、宮内庁書陵部が管理する百人一首の写本をそっとめくる愛子さまの写真が公開された。

 この写本は、室町時代に書き写された現存する最古のもので、愛子さまは清少納言の和歌などに熱心に目を通している。

「百人一首」の現存する最古の写本を閲覧する愛子さま。宮内庁の書陵部は、こうした貴重な文献を持つ=2023年12月、宮内庁書陵部庁舎、宮内庁提供

 

■双六の禁止に「わかります」と笑う愛子さま

 大学4年生となった愛子さまが昨年12月に提出した卒業論文のタイトルは「式子内親王とその和歌の研究」だった。そして3月26日に三重県伊勢市の伊勢神宮を、大学卒業と就職の報告のために参拝した愛子さまは、翌27日に県内の「斎宮歴史博物館」と「いつきのみや歴史体験館」をそれぞれ視察した。

 斎宮歴史博物館では、伊勢物語の絵巻などを熱心に眺め、職員から「斎王のラブロマンス」と説明を受けると、「(恋愛は)斎王はタブーですか?」とたずねるなど、和やかな空気に包まれた。

 また、歴史体験館では地元の小学生が「盤双六」で遊ぶ姿を見て、「夢中になれますね。一日中やれそう」と話した。双六が「賭け事の対象となり、何度も禁止された」と説明されると、「分かります。そんな気がします」と答えて笑った。

 ご家族でボードゲームなどに夢中になったことを、愛子さまは思い浮かべたのかもしれない。
 

 おもちゃの開発者である高橋さんは、玩具を用いた教育の効果について、ブロックやゲームといった玩具はなくとも、子どもの脳は活性化し、育まれると話す。

「楽しみながら学んでいけるツールが玩具であり、そこに家族や信頼できる友だちと一緒に大笑いして、たくさんおしゃべりをしながら遊んだという記憶を持つことが、何より大切なことだと思います。愛子さまの能力が玩具やゲームで育まれた部分があるとすれば、それは天皇ご一家が『遊び上手』な方たちであったからではないかなと思います」
 

 笑顔が絶えない天皇ご一家。愛子さまの「才能」を育んだのは、全力で「遊び」、「笑う」ご家族そのものだったかもしれない。(AERA dot.編集部・永井貴子)