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 集中力が続かない原因はなんだろうか? 順天堂大学医学部教授・小林弘幸さんは「自律神経の乱れが集中力の低下につながる」と話す。日常の中のちょっとした習慣が、自律神経を乱すそうだ。小林さんの著書『自律神経の名医が教える集中力スイッチ』(アスコム刊)から、集中力を低下させる悪い習慣を紹介する。

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■スマホが集中力を奪う

 2013年のカナダのマイクロソフト社の発表によると、現代人の集中力は8秒しか続かず、金魚の9秒を下回る――すなわち、人間の集中力は金魚以下であるという内容でした。とくに若い世代は、ネットニュースにSNSにソーシャルゲームにと、つねにスマホに視線を送り、さまざまな情報を得ようとしている人が多いです。この「あれもこれも」となってしまう状態が、ひとつのことに集中する能力を減退させる一因になっていると考えられます。

 情報過多社会は、人々の生活からゆとりの時間を奪いました。せわしない生活を送っていると、脳が興奮状態から抜け出しづらくなってしまい、結果として自律神経が乱れることになります。そして、そんな状況に拍車をかけるのが、SNS依存です。知らず知らずのうちに入ってくるネガティブな情報、相手への気づかいに端を発する返信の内容やタイミングに対する悩みなどが、余計なストレスを生みます。

 つまり、SNSに依存すればするほど、ストレスによって自律神経は乱れていきます。

■リモートワークが集中できない原因かも

 リモートワークが自律神経と集中力の乱れを生む原因になっている場合があります。

 「居心地のいい自宅で仕事ができるのだから、リラックスできるのでは?」と思われがちですが、意外にそうはいかないもの。ひとりで仕事を完結しなければならないという責任感や孤独感、子どもをはじめとする家族への配慮などが、思いのほかストレスとしてのしかかってきます。

 人間は環境の変化が大の苦手で、それがストレスを生み、自律神経の乱れをもたらすのです。

■同じ姿勢で長時間すごすと集中力が低下

 同じ姿勢で長時間仕事をすることによって起こる首や肩のこりや、パソコンのモニターを見続けていることからくる目の疲れも、自律神経のさらなる乱れを誘発します。現代人は自律神経が乱れて当然ともいえる状況で、日々の生活を送っているのです。

 また、交感神経が優位な状態のときに、副交感神経のひとつの迷走神経が刺激されると、「迷走神経反射」という症状を引き起こすことがあります。迷走神経反射(血管迷走神経反射)とは、長時間の同じ姿勢、強い痛み、疲労やストレスなどが引き金となって迷走神経が反射的に働き、心拍数の減少や血圧の低下を起こすこと。

 これによって貧血状態になり、気分が悪くなったり、お腹が痛くなったり、めまいが生じたりといった症状が続き、最終的に失神に至ることもあります。失神は、立ったままの状態や、座ったまま同じ姿勢を維持しているときに発生しやすく、また、日中(とくに午前中)に起こりやすいといわれています。

■リベンジ夜更かしは翌日の集中力に悪影響

 ここ最近、「リベンジ夜更かし」なる言葉を耳にするようになりました。「報復性夜更かし」とも呼ぶそうです。 これは、日中に自由な時間を得られなかった人が、夜更かしをして自由な時間を獲得する行為のことを指します。「○○したかったのにできなかった」という思いから生まれる欲求不満やストレスを、寝る前に(おもに布団にもぐってから)解消させようとすることです。

 リベンジ夜更かしとはすなわち、睡眠時間を削る行為のことです。人間は良質な睡眠をとらないと、心身にさまざまな悪影響が生じます。体内時計の夜型化が進み、朝の目覚めが悪くなります。これが、疲労、倦怠感、無気力などにつながっていくのは自明の理です。睡眠不足は脳の活動を減退させるので、集中力や注意力の欠如、情緒不安定、判断力の低下など、メンタル面にも多大な影響を与えます。

 リベンジ夜更かしをした翌日のパフォーマンスの質は一気に落ちます。自覚のある方は、まずはしっかり睡眠をとること、そして規則正しい生活をすることを心がけ、持続集中力の土台を築いていきましょう。
 

■スマホ寝落ちは集中力を奪う悪い習慣

 もっともおすすめできないのが、寝る前スマホなどの「ながら寝落ち」です。とくに就寝準備を整え、布団に入って寝る態勢を作り、電気を消してスマホに手を伸ばす…これが『日課』になっている方は多いのではないでし ょうか。

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 今、ドキッとした方は、ただちにその習慣をやめるようにしましょう。寝る前のスマホが入眠しづらい状態を作り、睡眠の質をさらに悪くし、翌日の集中力低下を増長させるからです。スマホの画面から発せられるブルーライトが、睡眠ホルモンのメラトニンの分泌を抑制する働きをすることが明らかになっています。メラトニンが分泌されないと、眠気が強くなりません。

 さらに動画・SNS・ゲームなどのさまざまな情報が脳に刺激を与えることで、眠りづらくなる状態を後押しします。脳が刺激されると交感神経が優位になり、脳が覚醒して目がさえてしまうからです。

 このように、光と刺激の波状攻撃により、睡眠の質はどんどん悪い方向に向かっていってしまいます。とはいえ、夜にまったくスマホを見ないでいるというのは、なかなか難しいでしょう。目安としては、「寝る1時間前からスマホを見ない」ことをおすすめします。

■マルチタスクと集中は両立できない

 結論からいうと、マルチタスクは集中力の低下をまねき、作業効率のアップ、生産性の向上にはつながりません。人間の脳の機能は20万年前からほとんど変わっておらず、しっかりと対応しきれていないのです。マルチタスクは、同時に作業をこなしているようでいて、じつは脳がものすごいスピードで複数のタスクを瞬時に切り替えているだけなのです。

 ひとつの作業を行い、その作業に対する思考をいったん停止し、別の作業の情報を呼び起こし、思考を切り替えて次の作業を行う、ということを超短時間のうちに繰り返していたら、脳はどうなってしまうでしょう? 当然、疲れてしまいます。

 脳が疲れると、自律神経が乱れます。そして、自律神経が乱れると、集中力や判断力が低下します。結果的に、ミスや物忘れが多くなり、作業効率は落ちます。そう、マルチタスクと集中は両立できないのです。