90年式のZ32が愛車 大学生の長男はポルシェ・ボクスター乗り

 子育てが一段落し、自分へのご褒美の誕生日プレゼントにしたのは、国産スポーツカー。自慢の愛車は、1990年式日産フェアレディZ 300ZX ツインターボ 2by2 Tバールーフだ。幼少期から憧れていたZ32に乗るため、コツコツと準備を整えた。マニュアル車を運転するための免許の限定解除や自主練習では苦労の連続。今は買い物にもどこにも行くのも、このZが欠かせない。まさしく涙あり笑いありの女性オーナーの愛車物語とは。(取材・文=吉原知也)

「40歳の自分へのバースデープレゼントに手に入れたんです。探して探して、見つけることができました」。オーナーの703(なおみ)さんは、純正色スーパーレッドがクールな輝きを放つ愛車を見つめながら語る。

 スポーツ車が好きでスカイライン派だったおじの影響で、子どもの頃から憧れを抱いた。Z32は、近所に住む幼なじみのお父さんが持っていて、乗せてもらった経験がある。

「この時代のスポーツカーにたくさん乗せてもらって育ってきました。その幼なじみのお父さんにおねだりして、近くのコンビニまでZに乗っけてもらったこともありました。当時、自動車電話を搭載していて、『なんで付いてるの?』と聞いたんです。そうしたら、『ママに、今から帰るよって電話するために付けているんだよ』と教えてくれました。すごく愛があるじゃないですか。その方は奥様にこまめに連絡をされていて。『今から帰るね』とか『イチゴ大福を買ってくね』と電話していたんです。仕事から帰ってきたら、仕事用の車からZに乗り変えて奥様の好物を買いに行く。すごくすてきだなと思って。今でもその姿を覚えています」。愛車が結ぶ家族の絆を目の当たりにしてきた。これが原風景だ。

 子育てに励む中で、ミニバンのファミリーカーに乗ってきた。2児の子育てが落ち着き始め、こんな思いがふつふつと沸いてきた。「よし、私も好きなクルマに乗って、好きなところに行こう!」。フェアレディZに乗るという、人生の新たな夢を持つようになった。

 準備はコツコツ、着実に進めた。約3年かけて販売店を回って、Z32を探した。

“その時”がいつ来てもいいように、免許の限定解除をするため、再び教習所に通った。しかし、30代の“学び直し”はなかなか大変なことだった。

「36、37歳になっての教習所受講でした。夏場だったのですが、1時間運転するだけで汗だくになって、クラッチはガクガクで…。本当に涙を流しながら運転していました」。

 教官の全員から「オートマに乗れるのに、なんで(マニュアルの)免許が欲しいの?」と聞かれた。「なんでそこまでして取りたいの?」と何度も言われた。

 703さんはそのたびに、熱い思いを教官たちに伝えた。「『乗りたいクルマがあるんです』と答えると、教官の皆さんは『だったら、泣かないで頑張ろうよ』と鼓舞してくれました」。こうして、限定解除の目標を達成。「中型免許でマイクロバスも運転できます」とのことだ。

愛車は「動く自分の部屋、一番落ち着ける空間です」

 数年前に待望の1台を発見した。ほぼオリジナルのままの貴重な個体で、中古展示車両だった。

 夢を買うことができたが、ここからちょっとした苦労が待っていた。運転技術がまだ追い付いていなかったのだ。納車の日。約1キロほどハンドルを握ったが、途中で怖くなり、運転を交代してもらった。納車後、必死になって乗れるよう練習を重ねた。自宅の駐車場でまず前後させるところから始め、夜中に一般道に出てみておっかなびっくり試運転するなど、地道に取り組んだ。3か月ほどでマニュアル運転に慣れ、ばっちり乗りこなせるようになった。

 愛車を通したご近所さんとの素晴らしい交流もある。「同じ駐車場にY32グロリアが入っていて、そのオーナーご夫婦と仲良くさせてもらっています。ご夫婦のお子さんが私の子どもと同じぐらいなんです。グロリアが車高が低くなって、ホイールも変わって。どんどん改造がきれいになっていくのを見て、いい意味で私も“負けてられないぞ”と。よく『かっこよくなりましたね』『部品なくて大変ですよね』と話しています。そうやって話しながらクルマを磨くのは、古き良き昭和のお父さんたちのような光景かもしれませんね」と笑顔を見せる。

 街乗りで、スーパーの買い物にも乗っていく。「助手席に、大根とネギを乗せています(笑)。この間は駐車場に戻ってきたら、隣りに新型フェアレディZが止まっていてびっくりしました。遠出ドライブにも行きます。その地方のおいしい果物や野菜を買うことも楽しみにしています」とにっこり。

 2人の息子は、根っからのクルマ好きに育った。大学2年の長男は、大学1年でポルシェ・ボクスターを購入。よく親子で一緒に走っているといい、「息子のポルシェが前で、私のZが後ろです。私が息子に『早く走ってよ〜』という意味を込めて、ほんのちょっと軽くあおるのですが、周りの方にはよく驚かれます(笑)」。確かになかなか目を見張る光景。しかも母と息子というからびっくり仰天だ。

 そんな愛車は「動く自分の部屋、一番落ち着ける空間です」。それに、心の支えにもなっている。「仕事で嫌なことがあっても、泣きたくなることがあっても、『家に帰ったらZが待っている』と思えば、踏ん張ることができます。仕事を辞めちゃおうと思っても『維持するために頑張らないと』と。そうやって気持ちを奮い立たせてくれます」。これからも夢を存分に楽しんでいくつもりだ。吉原知也