これがロールス・ロイス・ゴーストに試乗した自動車評論家の本音だ!「車重2.6t超でも、ワインディングでは並のセダンなら余裕で追いかけ回せるくらいの実力がある」by 菰田潔
「これは1つの空間芸術作品」金子浩久
鮮やかな“トゥカナ・パープル”というボディ・カラーに細いライム・グリーンのコーチラインが入ったゴーストの観音開きドアを開けると、車内でも眼を奪われる。
黒の革シートと白のドア・ハンドルとセンター・アームレストを基調としながらも、ダッシュボードの庇部分にはコーチラインのライム・グリーンを反復させている。星空のように無数の細かな光が天井で煌めいている。他のクルマで同じことをしたら派手になり過ぎてしまうのだけれども、ロールス・ロイスでは上品そのものだ。
全長5546mm、全幅2148mm、重量2.5tを超えるにもかかわらず、走り出せば巨大さを感じない。571馬力を発生するV12エンジンはジェントルそのもので、工事中の荒れた路面とは思えないほど西湘バイパスを滑らかに走っていった。
柔らかく穏やかな乗り心地が快適そのものだが、抑制も効いているところが現代的だ。意匠や素材遣いなどだけでなく、きっと他にもさまざまな凝った技巧が備わっているのだろう。これはもう自動車の範疇を超えた、1つの空間芸術作品だ。
「ワインディング・ロードを気持ち良く走れる」菰田潔
誰しも超高級車と呼ぶロールス・ロイス。その中で一番小さなボディ(といっても5545×2000×1570mm)がゴーストだ。2020年に11年ぶりのフルモデルチェンジで新世代に進化し快適性とハンドリング性能が飛躍的に向上したことを鮮明に覚えている。3年振りにハンドルを握って、再びあの味を確かめてみる機会を得た。
自重が2540kgもあるから当然タイヤとホイールも21インチと大きい。このバネ下の重さは凹凸路面を走行したときにブルブルと感じるはずなのに不思議とそれがない。その秘密は前輪のアッパーアームに小さなウレタンをいくつか挟み込んで振動を抑え込んでいるのだ。開発者がここまで乗る人のために快適性を追求してくれていると考えただけでも嬉しい。
さらにドライバーが乗ったら2.6t超の重量は走りには不利なはずだが、ワインディング・ロードを気持ち良く走れる。並のセダンなら余裕で追いかけ回せるくらいの実力がある。重量バランスがフロント・ヘビーでないからコーナー進入でスムースにターンインできる。今回もゴーストはこの走りで元気をもらえた。
「ワインディングも完璧」塩見智
ロールス・ロイスに乗ることができるという幸せを噛み締めながら、パープルのボディ・カラーにライム・グリーンのストライプが入ったパンキッシュなゴーストを1分間ほどうっとりと眺めた。この仕事をしていてもそうそうあることではない。ありがとうエンジン編集部。
例によって6.75リッターV12ターボ・エンジンを始動しても、大げさな表現ではなく車内は静かなままだ。ウルトラ・スムーズな12気筒エンジンのわずかな振動は、頑健なボディと厚みたっぷりのレザー・シートによってなきものにされ、乗員には伝わってこないから、エンジンがかかっているかどうか、メーター類を確認しないとわからない。西湘バイパスを制限速度内で走らせる程度だと、風切り音とロード・ノイズが聞こえない分、日産アリアよりも静かだ。
ここまでは知っていた。ただ箱根ターンパイクでのダイナミックな走行をあそこまで完璧にこなすとは知らなかった。加速力、旋回時の車両の安定感、それに2.5tの車重を完璧に減速させるだけのストッピング・パワーに舌を巻いた。幸せな50分間が終わった。
写真=神村 聖(メイン)/小林俊樹(サブ)
(ENGINE2024年4月号)