●とうとうやばい…。最下位に沈むサガン鳥栖

明治安田J1リーグは約1/5となる8節を消化し、サガン鳥栖が最下位に沈んでいる。ボール保持の局面におけるクオリティはリーグ屈指だが、いかんせん結果がついてこないのが現実だ。突き詰める理想と突き付けられる現実の狭間で、何が起きているのだろうか。(文:らいかーると)
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 サガン鳥栖がとうとうやばい。ガンバ大阪戦の劇的な敗戦を受けて、最下位に沈んでしまった。成功体験の積み重ねが自信に繋がるように、失敗体験の積み重ねによって負のスパイラルに陥っていそうな予感すらあるサガン鳥栖。しかし、試合の中身に目を移すと、万事を尽くしていることは間違いない。ガンバ戦に限っていえば、10人になり耐え忍びながらカウンターの可能性を潜ませておくプランが、あと少しで結実するところだったことは紛れもない事実だ。

 あと少しで結果が変わっていたような試合の評価は非常に難しい。負けた結果を見てマイナスの評価を与えることは決して間違ってはいないが、プラン通りに物事を進めることができたことは評価すべきだろう。試合をデザインすることに成功していれば、結果はいつかついてくるからだ。実際にサガン鳥栖のプレースタイルは自分たちの力で試合の主導権を握るもので、相手の状況に応じて自分たちの形を変化させ、試合中に異なるプランを採用し、最後まで戦い続ける姿勢はどんな相手にも一貫している。そんなサガン鳥栖のスタイルについて今回は考えていきたい。

 サガン鳥栖のスタイルは、ボールを保持するプレーを大切にしている。ボールを大切にし、ボールとともに全員で相手陣地に侵入し、個性とコンビネーションを携えてゴールを目指すサッカーと言えるだろう。結果がついてこないなかでも、サガン鳥栖の自陣からボールを繋いでいく姿勢に多くのチームが四苦八苦していた。特にセレッソ大阪は自分たちの弱点を暴露されているような感覚に陥っていたかもしれない。

●ビルドアップの質は高いのか?

 サガン鳥栖のビルドアップの中心はセンターバックとセントラルハーフで形成されるボックスだ。ボックスといっても定型の形を維持するのではなく、セントラルハーフコンビは状況に応じて自分たちの立ち位置を変化させることができる。主に相手のファーストラインの裏でボールを受ける動きが秀逸で、相手のセントラルハーフがサガン鳥栖の選手にマンマークで対応しようものならば、+1の役割として主にトップ下で起用されている堀米がビルドアップの出口として機能する論理性を従えている。

 サイドバックの役割も多岐にわたる。センターバックとほぼ同列に立ち、相手を広げる幅を確保する役割から、ウイングの個性によって内側と外側のレーンに立つことを使い分け、片方の選手はセンターバックとともに最終ラインに残り、3バックを形成することも選択肢のひとつとなっている。このビルドアップを後方で支えている朴一圭も忘れてはいけない。ビルドアップの避難場所として、第三のセンターバックとして、ロングボールの起点として活躍しているが、シュートストップでも獅子奮迅の活躍をしていることは記しておきたい。

 様々な状況に応じて定型の形からどんどん変化できるサガン鳥栖のビルドアップのクオリティは高い。センターバックの選手も味方に時間とスペースを渡せない状況では無理矢理にボールを前進させることはない。選手とチームの戦術に矛盾がないため、多くのチームがサガン鳥栖のビルドアップに苦戦する展開になっている。バックラインの枚数の調整、堀米のヘルプ、サイドバックの内側と外側の立ち位置を状況に応じて最適化していく様子は簡単に実現できるものではない。潤沢な資金がないチームがこのようなサッカーに取り組み、実現している意義は大きいだろう。

●ビルドアップを助ける「もう1つの選択肢」

 一方でビルドアップに意地でもこだわっているわけではない。ヴィッセル神戸戦のように、相手が高い位置でボールを奪いに来るときは、ためらわずにロングボールでの前進を試みるように変化する。サガン鳥栖のCFにはマルセロ・ヒアン、富樫敬真と空中戦に強く、ロングボールが絵に書いた餅になっていないことも大きなポイントだ。

 ロングカウンターを孤独に完結させられそうなマルセロ・ヒアンや孤独にボールをキープできる富樫敬真の存在が相手にロングボールの可能性をつきつけることで、サガン鳥栖のビルドアップを間接的に助けている面も忘れてはいけない点である。大切なことはビルドアップが大事で理想だと言ってもこだわりすぎない姿勢だ。試合がロングボールを必要としているならば、素直にロングボールを選択できることは真っ当なようで簡単な芸当ではない。

 相手のゴール前での振る舞いも洗練されている。ボールサイドに人を集めて複数人でサイドから仕掛けていくコンビネーションの質は高い。ポケットの攻略がばれてきている世界において、誰かが走り抜けたポケットに三人目が登場することは必須の流れになってきている。サガン鳥栖はきっちりと三人目を用意することで攻撃に厚みを加えることに成功している。ビルドアップにしろ、ゴール前の崩しにしろ、自分たちの理想であるボール保持を中心とするスタイルを現実に落とし込むことはできている。

 問題になってくるのは「なぜそれでも最下位なのか?」だろう。自分たちでボールを保持し、時間とスペースを作り出していくスタイルはサッカー界でも高く評価されるスタイルだ。このスタイルで結果を出すことは理想的と言えるだろう。

●「なぜそれでも最下位なのか?」浮上のヒントは試合にある

 そのサッカーを具現化し、現実に行っている様子は繰り返しになるが立派である。しかし、相手の陣地にボールを運べてもゴールが遠く、ボールを運ぶ過程でミスがあればボールを奪われ、守備が整っていない状態で相手の攻撃を許すことになる。与えられたカードで勝負するしかない世界でも理想的なスタイルを目指すことはロマンであふれているが、ここまで結果がついてこないことには何かを変えるしかない。または、もっと尖らせるしかないというのが現状だろう。

 サッカーはビルドアップの優劣を競うスポーツではなく、得点を競うスポーツだ。「どのようにフィニッシュへの設計を行い、試行回数をどれだけ増やせるか?」において、サガン鳥栖の現状は物足りなさを抱えている。

 解決策はさらにボール保持をつきつめるか、それともボール非保持への舵を取るかの選択となるだろう。失点場面を振り返ってみれば、細かいミスの集結となることは明らかだが、そもそも相手がボールを持っている、もしくはボールの失い方が悪いと考えることも可能だ。得点が取れない理由もシンプルに自分たちは下手でもっとうまくならないといけないという反省もありえるだろう。運が悪かったという反省よりは100倍増しな反省だと個人的には思っている。

 現実的なサガン鳥栖の歩むべき道は、恐らくはガンバ大阪戦がヒントになるのではないだろうか。ガンバ大阪のボール保持に対して撤退してボールをもたせ、整理された状態でガンバ大阪の攻撃を跳ね返しながら、ロングボールとビルドアップを選びながら試合を展開していく。さらに、前線の火力不足をマルセロ・ヒアン、富樫敬真、ヴィニシウスのうち、2人を併用することで補っていくのではないだろうか。

 しかし、CFの選手ばかりを起用すると、隙間でプレーできる選手の頭数が減る。チームのバランスが少しいびつになるかもしれないことへの解決策はあるのか。ベンチで控えているサイドアタッカーたちをどのように起用するのか。どこにどのようなバランスを見出していくかによってサガン鳥栖の命運は決まっていくだろう。

(文:らいかーると)

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