「長谷部祐とギア問答!」は、国内外大手3メーカーで、誰もが知る有名クラブの企画開発を20年超やってきたスペシャリストの長谷部祐氏に、クラブに関する疑問を投げかけ、今何が起こっているのか? その真相を根掘り葉掘り聞き出すものです。クラブ開発の裏側では、こんなことが考えられていたんですね……。

今の40グラム台カスタムシャフトは女性の上級者向け?ヘッドスピード40m/sにはまだ合わない

GD 先日YouTubeでトッププロが「40グラム台」のシャフトをテストしている動画を見ました。いよいよ40グラム台に突入するのか? と思い、今回40グラム台のカスタムシャフトを用意してきたので打ってみてください。

長谷部 わかりました。

GD 用意したシャフトは「グラファイトデザイン」の『ツアーAD VR』。このシャフトは剛性分布的には、ロングセラーの『PT』に近いところにあるので、万人受けするのかな? と思いチョイスしました。この10年で市場のカスタムシャフトは60グラム台から50グラム台に代わり、男子プロも70グラム台から60グラム台になっています。このまま軽量化が進めば、40グラム台になるのも、そう遠い話ではないのかなと思います。

今日は飛距離を確認するために、4月1日から「トラックマンレンジ」になった港南ゴルフセンター(神奈川県横浜市)の打席を借りてテストしましたが、飛距離よりも打球のバラツキが数値に出ています。データ的にはキャリー217ヤード、ボール速度60m/s、打ち出し角17.2度。ボール初速に関しては、50グラム台よりも軽さによる効果か若干上がっていました。しかし、タイミングを合わせるのが難しく打球のバラツキが生じていたように思います。

長谷部 『SIM2 MAX』、『MAX-D』のヘッドに長さを46インチにしてもらったので、結果的にスペックとして合わなかったのかもしれないです。「R1」と「S」の硬度が違うものを打ちましたが、いずれもフレックス以上の軟らかさを感じてしまったので、もしかすると40グラム台にするときは、もっと硬いものをチョイスしたほうがタイミングは取りやすいような気がしました。
軽くなっているということは、いろんなスペックが弱くなっていると思います。トルクも緩くなっていたりするので、「軽硬(カルカタ)」のほうが振りやすい傾向があるので、そういう意味ではシャフトを軽くしたら、Sシャフトでもちょっと先端を切るとか、もしくはワンフレックス硬いものにするとか、何か工夫が必要な気がしました。

GD 40グラム台の課題が見えたような気がします。今のヘッドのまま40グラム台のシャフトに替えたのでは、想像したようなクラブにはならなかったという感じですか?

長谷部 60グラム台からから50グラム台に代わったときは、それほど違和感なくスイッチできた人も多いはず。でも、40グラム台にすると急にスペックダウンしているような感じがあります。これはメーカーが意図して、女性ゴルファーを意識したシャフト設計をしているかはわかりませんが、ちょっと軟らかく感じました。試打シャフトが1種類でしたので、結論的なことは言えませんが。

GD 手元調子だ、先調子だといったシャフトの特性をあまり感じない?

長谷部 感じない。短く握って打っても単に振り遅れが出そうな感じがあって、もうちょっと反応のいいシャフトでもいいのかなと。

GD 46インチの長尺を目指した時代は、ヘッド重量が問題視され、クラブ全体のバランスをどうするかがテーマでした。結果的に2024年になっても「46インチの壁」は超えられていない。現実的にはその手前で止まっているわけで、46インチにする、しないというよりも、40グラム台にするとなった時点で、クラブ全体のバランスを考えないといけなくなってきそうですね。

長谷部 だと思います。自分の欲しい長さに対してヘッド重量が適正であるか。軽くしたほうが総重量も軽くなるし、フレックスも多少硬く感じるので、バランス的には良くなるかもしれないなと感じました。今、売れているドライバーのヘッドは比較的重いので、ウェイト調整をしてヘッド重量を軽くしないと、いい組み合わせになりにくいのかなとも思います。いよいよCバランスになるのかもしれません。

GD ドライバーが軽くなるのであれば、アイアンも軽くしたほうが相性いいのではないかと思います。『ツアーAD』の場合、一番軽量なのは「55R」ですが、こちらのほうは軽くなって打ちやすいなと思いました。

長谷部 アイアンはしなる量が少ないので、重たいシャフトとの違いをそもそも感じにくいのがクラブの特性になります。棒を振っているような感じは若干ですけど、フレックスの軟らかさを感じるよりも、シャフトの反応が良かったように感じます。

GD ドライバーが軽くなれば、当然アイアンだって軽くするのが普通のような気がします。スチールシャフトも『NS950』が軽量シャフトの代表的ではありますが、現在はそれよりももっと軽いシャフトが登場してきています。そうなると全体的にクラブの軽量化は進んでいるのかなと思います。

長谷部 クラブが軽くなったら、長さだったり、バランスをちゃんと考え直さないと、「軽くなった」イコール「振りやすい」という結果にはなりにくい。でもそれをやらない限りはヘッドスピードを上げるとか、距離アップの可能性とか限界があります。自分自身のパフォーマンスを上げるのは難しいでしょうから、年を重ねると体力も落ちるので、クラブの軽量化は避けられません。

GD 「ゼクシオ」にしても、シニア層を狙ったクラブっていうのは、軽さの進化もあったけど、 ある程度軽量化も行きついていて、もうそんなに軽くなっていないと思うんですよ。ここで思うのは、シニア層を狙ったクラブの軽量化と、クラブ全体の軽量化は別々に考えたほうがいいのでは? と感じます。

長谷部 そこは、まだカスタムシャフトメーカーが軽量化に対して、突き進んでないところかもしれないですね。一応各社40グラム台のシャフトをラインナップに入れつつあるので、選択肢は広がってはいますが、その40グラム台は、先ほども言いましたけど、女性ゴルファーを意識しているように見えます。一般アベレージ男性用には強度との戦いがまだ残っているのだと思います。

GD 女性ゴルファーの中でも上手い人たち。

長谷部 そうです。そういった女性ゴルファーは「L」シャフトではなくて、「R1」とか「R2」を選びたがる傾向があります。もしくは、シニア層が「L」を使いたくないから「R2」を選ばせるみたいな。そういうところがあるので、ゴルフをしっかりやっていて、ヘッドスピードが40m/sある人たちを想定した40グラム台ではなく、30〜35m/sをターゲットにしているように感じます。カスタムシャフトメーカーがちょっとハードスペックな硬めの40グラム台を出してこないと、50グラムから40グラムの移行は難しいような気がしますね。
女性ゴルファーやシニア層が開発の中心になっていると思うので、一般アベレージが飛ばしたいから軽くしたいというイメージにはまだ追いついてないのかもしれない。

女子プロの飛躍と50グラム台のシャフト進化は密接な関係にある?

GD 将来的にはどうなんですか。技術が追いついてくる可能性は?

長谷部 あると思います。50グラム台が普及しはじめたのは10年前です。その頃の50グラム台ってまだトルクや硬さの問題もあった。それが現在はプロが使えるまでになっています。カスタムシャフトも60グラム、70グラムから今50グラムに対応できているので、40グラム台でも同じようなことができると思います。

GD この背景にはプロゴルファーの存在が重要な気がします。現在の女子プロの活躍は、もしかすると50グラム台のシャフトと密接な関係にあって、50グラム台のシャフトが女子プロを進化させたとも見えるし、50グラム台のシャフトの進化があったから女子プロのゴルフが進化したという、両方からのアプローチがあったような気がします。

長谷部 それは言えると思います。それまではメーカーが作った純正の50グラムのシャフトを使っていたのに対して、カスタムシャフトメーカーが『ツアーAD』とか、『ベンタス』とか、『スピーダー』とか…50グラム台のしっかりしたシャフトを作った結果、 選択肢が広がりパフォーマンスが上がって、距離アップにも繋がっていると思うので、その辺は間違いなく50グラム台のカスタムシャフトとの親和性はあるでしょうね。
それは60グラム台の時もそうでした。伊澤(利光)さんが60グラムを使ったのは衝撃で、あの時60グラムに変更できたのは、トルクが「3.2」とか「3.4」だったこと。80グラムに匹敵するようなハードスペックを出していたんですよね。今の50グラム台のシャフトは、かなりハードで50グラム台とは思わないほどの「ねじれ剛性」を持っているものもたくさんあります。

GD 40グラム台が進化して、「40グラムのほうがいいよね」って声が上がってくれば、40グラム台にも進化が起こる可能性あるということですか。

長谷部 あります。一部のドラコンプロの中に「軽硬(カルカタ)理論」があって、ヘッドバランスをあまり利かせないで、棒みたいな軽いシャフトの長尺クラブを振って飛ばしているプロがいます。非常にフレックスが硬く、低トルクに作られている特別なものですが、強度的に市販が難しいシャフトとのことでした。そういったものが一般化すると、カルカタ理論で飛ばせるようになるのかな、という気がします。

GD 30グラム台に行く可能性は?

長谷部 30グラム台が平気で作れるような技術要素、設計要素がないと、40グラムは余裕で作れないでしょう。40グラム台は低トルク化が必要だし、手元剛性を上げたりとか、先端剛性を上げたり、部分的な剛性のアップを図っても、軽くできるみたいな素材とか、そういうものがどんどん出てこないと、ちょっと難しいかもしれない。「三菱ケミカル」の『バンキッシュ』はその走りかもしれません。

ツアー用のヘッドに対応できる40グラム台のシャフトはできるのか?

GD 新しいシャフトのラインナップは、今まで50グラム台で止まっていたものが、40グラム台が加わって、カスタムの既製品として、こう出てきたので、40グラム台の進化に期待していました。

長谷部 自分も期待していました。ですけど、現時点では50グラムと40グラムの差がちょっと大きいのかな。他メーカーの50グラム台と40グラム台を打ち比べたときも、同じ傾向があって、50グラム台は長尺にしても大丈夫なぐらいしっかりしていても、40グラム台はヘナっとしていてヘッドが付いてこなかったことがあります。ちょっと硬さが足りていないのだと思います。

GD 女子プロが40グラム台を使って活躍するのが通常化してくると、急遽、開発技術が上がって、製品も良くなってくる。それを待つしかないのかもしれませんね。「ゼクシオ」とかシニア用の40グラム台とは違うもの。

長谷部 ヘッドがシニア用じゃなく、ツアー用のヘッドを付けても大丈夫なもの。シニア用のヘッドはシャフトの遅れをヘッドでカバーしている可能性もあります。今のシニアのクラブは軟らかく、しなやかなシャフトでタイミングを取らせるって振り感だと思うので、体力があり元気よくラウンドしていて、でも、もっと飛ばしたいという要求にはちょっと合わないかもしれません。

GD 長谷部さん的には、問題を抱えつつもさらに軽量化は進むと思いますか?

長谷部 ここで止まるとは思えないですね。メーカーは軽量化を進めてくると思います。

GD グリップはそこそこ軽量化が進んでいるので、ヘッドの軽量化とシャフトの軽量化になると思うのですが、課題を解決して50グラム台から40グラム台に移行しはじめるのはいつ頃だと予想しますか?

長谷部 1、2年で出てくるのかな? って言うにはちょっと不安がありましたね。

GD 1、2年では切り替わりははじまらない。

長谷部 それはさっき話したようにカスタムシャフトメーカーがその市場をどう捉えているかによるので、40グラム台のカスタムはまだ市場としては小さいなというマーケットデータが出ると、次の仕事をやるときもおそらく40グラム台はラインナップに加えても、新しいコンセプトでの開発を躊躇してしまい、今までの流れでシニアや女性の上級者に向けたパターンの設計が中心になるのかなと思います。
切り返しが速くて、ヘッドスピード40m/s前後の方が40グラム台を使うには、まだ物足りないはずなので、同じ「S」シャフト表示でも「SX」ぐらいのシャフトの硬さを作ってくれるメーカーが出ないと、カスタム市場の軽量化は進まないでしょうね。

GD 10年ぐらい前に『スピーダー474』の「S」と「X」のプロトタイプを試打させてもらったことがあるんですが、それは硬かったです。でも、強度の問題で市販はされませんでした。10年経っているので強度問題は、ある程度解決したのかな? と思っていました。

長谷部 ヘッドスピード基準で何メートル以上の人は打たないでくださいっていうのがあるとしたらそれが限界ですし、強度の面でまだいい材料、いい設計が見つかってないんじゃないですかね。

GD 最新の『エアスピーダー』には「Xプラス」という硬いスペックがラインナップされています。これはかなり剛性が出ているなと感じたのですが、重量が「40グラムちょうど」なので、いかんせん軽すぎる感じがありました。40グラム台といっても47、48グラムは欲しいところです。

長谷部 40グラム台の『エアスピーダー』をベースに開発したシャフトのドライバーを2013年頃に作ったことがあります。46.75インチでフレックス表示は「S」なんですけど、中身はワンランク硬い「S2」にしました。通常の硬さだと長いので軟らかく感じるため硬さをアップしたんですけど、ヘッドも軽くして、振り感がよかったことがあります。

GD そう考えると、40グラム台へのトライは10年前から始まっているんですね。カスタムシャフトに40グラム台がラインナップに加わったことは一歩前進だとしても、50グラム台のように普及には至っていない。

長谷部 一部のシャフトを除いて、まだ40グラム台は「S」止まりなので、50グラム台のように「X」まで硬いシャフトが作れるようになるまでは、難しいかもしれません。

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取材協力/[港南ゴルフセンター]、[GDOゴルフガレージ]