日本代表としては51キャップ(試合出場数)をマークし、ワールドカップも過去2回出場経験のある日和佐篤選手。強豪・サントリーサンゴリアスから2018年に現チームへ移籍し、リーグ制覇に貢献。大舞台を経験してきたベテランに、環境が変わっても常に活躍できる秘密を聞きました。

―ラグビー歴27年。攻撃の起点作りをすることが面白い
ラグビーを始めたのは5歳の時。「息子が生まれたらラグビーをさせたい」と考えていた父親に、ラグビースクールに連れて行かれました。父親のラグビー経験は高校の体育の授業だったかな……「やってみて面白かった」ということは聞いたんです。自分がそれっきりできなかった分、僕に託したのかも(笑)。 

小学1年の時には周りの友達が少年野球をしていたので僕もチームに入ってみたんですけど、あまり面白さを感じなくて2週間くらいでやめました……(笑)。遊びでやる分には楽しかったんですけど、試合に出してもらった時に自分の打順がなかなか回って来ない、守っていてボールが飛んで来ない、と退屈に感じたのが理由です。常に動いていたり、ボールに触れたりしているほうが自分に合っていたみたいです。 

ラグビーは始めて25年以上になりますけど全く飽きないですし、今でも純粋に楽しい、面白いって思えます。僕は体が小さいほうですが、体形に関係なく15人全員が役割を持っていて、その全員が活躍できるのも魅力的だと思います。

僕のポジションはスクラムハーフなので、攻撃の起点作りをすることが面白く感じます。ボールをどっちに出すかを決められるし、リズムも決められるんです。見ていてテンポのいい楽しいラグビーの手助けをしているので、神戸製鋼の試合を見るときはボールの流れに注目してもらえると面白いと思います。

それから、スクール、高校、大学、社会人のチームそれぞれで出会いがあって、いい仲間ができたというのはラグビーをやっていて良かったことです。スクールの仲間はほとんど大学までラグビーをやっていて、今でも会ったりしているので一番古い付き合いなります。社会人になってからは外国の選手やスタッフとも出会えて、世界中に知り合いができました。

妻のおかげで食事面のストレスがなくなった
ラグビーを続けるうえで、たまにストレスを感じることは食事。すごく太りやすいので体重のコントロールには気を付けています。

今は基本的に食事は妻が作ってくれています。体重が増えてきたら「食事量を減らしてほしい」とリクエストしています。減ってきたら「もうちょっと量を増やしてほしい」と。栄養面でも妻はすごく勉強をしてくれて「アスリートフードマイスター」の資格を取ってくれたんです。いつも考えて作ってくれているのでメニューはすべてお任せしてます。

結婚する前は、食事に関してはひどかったですね(笑)。気にせずに食べていたので、太ってやせて……を繰り返していたんです。それが今では体重をキープできていて、妻のおかげでストレスが減りました。

試合当日でも「いつも通り」がスタンダード
代表では特にプレッシャーがかかる試合が多かったので、プレッシャーとどう付き合うかも大事だなということを学べました。試合前にはパニックにならないように、自分でコントロールできるものは自分でしようと心がけています。

天候やその他の環境、レフリー、ロッカールームの状態など自分で関与できないことに関してはフラストレーションをためないようにしています。それ以外は普段と変わらないように行動しています。試合前だからといって特別に音楽を聞くこともないし、シューズを履く順番など験担ぎも気にしたことは特にないです。

普段の練習の入り方と同じように試合に入れるように、グラウンドに到着してからの一連の流れをそのままやっています。同じようなストレッチをして、同じような時間にグラウンドに出て、同じように体を動かして……。

あまり気合を入れて試合に臨むタイプじゃないんです。気合を入れすぎると試合が始まる前に疲れちゃうので。「今日試合やな?」というくらいの感覚でいるほうが自分にとってのベストだと思ってます。

社会人2、3年目までは「どうやったらうまいこといくんかな?」って試行錯誤していました。大学時代にはルーティーンを決めてやってみようと思って、前日の夜にスパイクのひもを全部とって磨いて、当日にまた入れて、ということをやっていました。でも、ある時「なんかやること多いな」って感じてやめました(笑)。

社会人になってからは、同じチーム(サントリー)にいたジョージ・グレーガンという尊敬するオーストラリアの選手がやっていたルーティーンを参考にしたこともあります。準備に対してこだわりを持っている人で、2日前くらいから決まった行動をしてるんです。

試合当日もスパイクを3足、マウスピースも二つ三つ持ってきていたり。3泊ぐらいできるような荷物を試合会場に持ってきていたので、すごいなあって思っていたんです。そこまでまねはできなかったんですけど、試合に入るまでの準備はきちんとすることは参考にしてみようと思ったんです。試合までにやり残したことがなく、不安が無い状態になるまでしっかりと準備と練習をする、対戦相手の情報を入れておく、とか。

でもいろいろやることを決めてしまうとそれにとらわれすぎちゃうので、思い切ってやめました(笑)。できないことがあったら「どうしよう……」ってリズムが狂うと思ったんです。それならいっそのことなくしてしまおうって。それからは今でもずっと特に何もしないで試合に臨むことで、調子よくプレーができるようになりました。

まだまだ成長したい。上手くなりたい
試合にはいつも通りで臨みますけど、「変わらない」こととは少し違います。昨日の自分よりもいい自分になりたい。だから自分の成長につながることなら、練習や環境などはどんどん試行錯誤しながら変えていきます。

サントリーの選手時代、「成長を止めたら、衰退の始まり」という言葉に出合ったんです。その通りだなと思ってずっと心に留めています。そのために心掛けているのは「常に学ぶ姿勢でいる」こと。学ぶことをやめたくないですね。

今まで試合には出させてもらえている方ですが、出られないときは必ず理由があるので原因を解決するために努力します。これは誰もがやっていることだと思います。分からないところは聞いて、自分なりに習得していく。プラス、他のチームの試合を見てどんなプレーがうまくいっているかを研究しています。

今32歳ですけど、ベテランという意識はそこまでないんです。まだまだうまくなりたい。その気持ちは歳を重ねてもずっと持ち続けていきます。

日和佐篤(ひわさ・あつし)1987年5月22日生まれ、兵庫県出身。ポジション:スクラムハーフ(SH)、166cm/72kg。父親の勧めで5歳の時ラグビースクールに入る。報徳学園高校を経て法政大学に進学。卒業後の2010年サントリーサンゴリアスに加入、2018年に神戸製鋼コベルコスティーラーズへ移籍。2010-2011シーズンでトップリーグ新人賞を受賞。2018-19シーズンは、チームの15季ぶりのリーグ制覇、18大会ぶりの日本選手権優勝に貢献。トップリーグベスト15には過去3回受賞。日本代表として51試合に出場、ワールドカップ2大会出場。2016年にはサンウルブズにも選出。趣味は釣り。メジナやクロダイなどを釣って自分でさばく。