今なお芸能ニュースを賑わせるアイドルたちが、数多くデビューを飾った1982年。小泉今日子、松本伊代、中森明菜、石川秀美、堀ちえみら錚々たるアイドルたちとともに、"花の82年組"として活躍したのが早見優だ。

14歳の時にスカウトされたのがきっかけで芸能活動に足を踏み入れ、1982年にシングル「急いで!初恋」で歌手デビュー。第24回日本レコード大賞で新人賞を受賞した。歌手だけでなく女優として現在も活躍を続け、昨年も映画「猫の記憶」に出演し話題となったことは記憶に新しい。

時代を駆け抜けたアイドル・早見優の映画初主演作として注目したいのが、1985年に公開された「キッズ」だ。本作における"キッズ"とは拳銃のことで、郷ひろみが主演した1985年公開のハードボイルド作品「聖女伝説」を手掛けた塩田千種が脚本を担当。本作も裏の世界の事件と恋愛が絡み合ったエンターテインメント作品に仕上がっている。

早見優、佐藤浩市が出演する「キッズ」
早見優、佐藤浩市が出演する「キッズ」

(C)1985松竹株式会社

また、本作には、早見の相手役として佐藤浩市が出演している。1982年に第5回日本アカデミー賞新人俳優賞、1984年に第7回日本アカデミー賞優秀助演男優賞受賞と勢いに乗っていた時期だけに、佐藤の演技にも注目だ。

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舞台となるのは米軍基地のある港町。早見が演じるのは、ジャズクラブで働きながら弟と2人で暮らしている少女・サキ。かつてそのクラブで歌っていた母と同じく歌い手を目指しているが、まだ舞台に立ったことはない。やんちゃざかりの弟・智が兄のように慕っているのが、佐藤演じる隆一。サキの家に上がり込んだりするほどの間柄だが、裏の世界と繋がりがある危険な匂いがする男だ。

物語の序盤で早見にハッとさせられるのは、開店前のクラブで歌うシーンだろう。普通のシャツを着ているが、ピアノに合わせてしっとりと歌う姿はさすがと言える。その後、ピアニストに褒められて驚いたように喜んだり、「寝ようか」と冗談を言った時の初々しさと、その後の照れたような仕草などにも、若さと可愛さが溢れている。

物語は、隆一が裏の世界の仕事を引き受けたところから動き出す。繁華街のポルノショップの地下室で密造されていた"キッズ"が3丁、何者かによって盗まれた。隆一は拳銃を探すよう、坂田という男に頼まれる。しかし、拳銃を盗んだのは、智だった。その時から、早見の演技も冴えてくる。拳銃を試射する時の揺るぎない眼差しは射抜かれるような雰囲気がある。けじめを付けるよう智を叱咤するシーンでも、厳しくありながら心配そうな目で弟を見る。

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そして拳銃をすべて取り戻した後に、隆一に「気持ち、確かめたかったのに...」と呟いた時は、切なそうな表情で見つめる。弟を思う気持ちと隆一への想い。2人がサキにとって大切な存在であることが、若さと初々しさが同居する早見の演技からよく伝わってくる。

佐藤の演技ももちろん秀逸で、サキから拳銃を受け取った時に目を合わさず凄んだり、裏世界のの女が訪ねてきた時の静かな立ち振る舞いだったりに、隆一という男の生き様がよく現れている。中華料理店の店員にボコボコにされたり、バーでの大立ち回りで豪快に吹っ飛んだりと、喧嘩のシーンも実に爽快だ。

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ラスト近くの早見と佐藤は特に注目だ。橋の上でバイクの集団を止め、車から降りた時の隆一は想いと熱さが感じられるし、初めてクラブで歌うサキの姿は洗練されていて非常に美しい。それぞれの見せ場のひとつと言えるだろう。

だがその後に、2人をさらなる過酷な運命が待ち受ける。サキと隆一、若い2人は果たしてどんな未来に向かうのか。若かりし頃の早見優と佐藤浩市の演技に注目しながら、この物語を最後まで楽しんでほしい。

文=堀慎二郎

放送情報【スカパー!】

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放送日時:2024年2月2日(金)20:50〜、2024年2月8日(木)8:30〜ほか
チャンネル:衛星劇場
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