「管理職」と聞いて、皆さんはどのような印象をお持ちですか?

 もし管理職になったとしら、優秀な部下とともにチームの目標を達成し、時間的にも余裕のある状態を想像しますか? それとも、プレイングマネジャーとして現場の業務も担いながら、自身の目標達成だけではなくチーム全体の目標達成、部下の勤怠の管理、部下の育成など、さまざまなタスクにより時間に追われている状態を想像しますか?

 多くの方は後者を想像されたのではないでしょうか。産業能率大学の調査においてもプレーヤーとしての時間が全くないという管理職(課長)の割合は5.1%にとどまるという結果も出ています。

 ここ20年間、平成と令和の間でも実際の働き方や働き手の意識が大きく変わってきました。それに伴い、管理職に求められるスキルも大きく変化しています。今回はそのような「管理職」に求められるスキルの過去と現在について見ていきたいと思います。

●懐かしき「平成」の管理職に求められていたこと

 20年前の平成時代の中盤は、新入社員の採用を控える企業が増えており、労働の長時間化で過重な労働も増加。いわゆる「ブラック企業」という言葉も一部で認知されるようになってきました。そして、「過労死」の件数も年々増加しており、実際の現場では目の前の目標を達成するために、現在であればハラスメントになってしまうようなマネジメントがしばしば見受けられていました。20年前までは成果が出るまで労働することが普通の時代だったのだと思います。

 一方で令和になると政府は「働き方改革」を打ち出しました。その目的の中には「長時間労働の是正」「多様で柔軟な働き方の実現」「雇用形態にかかわらない公平な待遇の確保」といったものがあります。長時間労働の原因の一つでもある「サービス残業」の是正や労働時間法制の改革もあり、特に労働時間に関する考え方は大きく変化しました。

 また、コロナウイルスの影響も相まってフレックスタイム制度やリモートワークなど、個人個人のライフスタイルに合わせた多様で柔軟な働き方の導入も進みました。他にも有期雇用、アルバイトや派遣労働者などのいわゆる非正規労働者に対する労働条件の公平な待遇の確保も強化され、私たちの働き方に対する意識も大きく変化していきました。現代は限られた労働時間の中でいかに成果を出せるのかを考える時代だと思います。

 このように働き方の常識が大きく変化する中で、管理職に求められる役割やスキルも大きく変化しています。

 ではまず、平成の管理職について考えてみましょう。20年前の管理職には、どんなことが求められていたのでしょうか?

 それは会社で設定された目標をいかにして達成するのか。その目標達成に向けて、いかに部下を自分の思った通りにコントロールし、成果を出させることができるのかということだったと思います。そのために「命令」や「統制」といった一方的なコミュニケーションが取られ、また自分のやり方を押し付けたり、成果が出るまで長時間労働を行わせたり、部下の行動管理をしたり……。そして管理職自身もワークライフバランスなどはお構いなしに労働していたと思います。

 今も昔も管理職に求められているのは「成果をあげていくこと」に変わりはありません。そのために会社と現場との「結節点」になって、経営者の思いやビジョンを十分に理解し、それを漏れることなく正確に伝えていくことが重要です。

●「令和」の管理職に求められること

 では、令和の今、管理職に求められるスキルはどう変化しているのでしょうか?

 現在はVUCA(ブーカ)の時代と言われ、将来の予測が難しく、常に変化に適用し続けることが求められます。会社にとっても「これをすれば大丈夫」という目標を定めるのが難しい時代になっています。

 そのために会社が存在している目的は何なのか、その目的を達成するためにはどのようなベンチマークを設定すればいいのかといった意思決定をすることも、今の管理職には求められているように感じます。

 また、人材の流動性が高くなり、リモート、副業といったさまざまな働き方にも対応することが求められています。

 最近の20〜30代は仕事に対して「やりがい」や「成長」を求め、プライベートの充実があってこそ仕事への意欲も向上するという考え方を持っており、何より「自分らしさ」という観点に高い意識を持っていると言われています。これからの管理職はこのような状況の中で、部下たちとともに成果を出していくことが求められているわけです。

●複雑化する今、重要な2つのスキル

 このように複雑化する状況下でも成果を出していくために必要な管理職としてのスキルは何か。それは「コミュニケーション能力」と「タイムマネジメント能力」です。

 はじめに「コミュニケーション能力」です。過去のように「部下をコントロールするコミュニケーション」ではありません。「部下を承認するコミュニケーション」です。

 「自分らしさ」を大切にする部下が何を求めているのかよく聞き、成果の達成のための行動を支援し、その行動のプロセスを励ましてあげること。さらには「やりがい」や「成長」を実現できるようにより良い情報を提供してあげることが重要です。

 次に「タイムマネジメント能力」です。今までは目の前に次から次へとやって来るタスクに対して、時間を使っていればある程度の目標達成ができていたかもしれません。しかし、今は違います。目標達成するために必要な時間はどれくらいなのかをしっかりと見極めましょう。そして、その時間を確保するために1日、1週間、1カ月先の予定をあらかじめ確保することがとても重要になってきます。

 部下の個性、強みや価値観をしっかりと理解し、そのための時間をしっかりコントロールし確保する。その上で、チーム全体で会社の目的を達成していく。これこそがこれからの管理職に求められるスキルとなるでしょう。

(武田 正行)