「相談する」と聞くと、若手が先輩に聞くイメージを持ちがちですが、実は成功体験を多く踏んでいる経営者やリーダーにこそ必要なスキルです。役職が上がると必然的に現場から離れることが多く、“現場感”がなくなるためです。皆さんも、経営者やリーダーに対して「この人、現場感がないなぁ」と思ったことがあるのではないでしょうか。

 私はその理由として「事実には賞味期限がある」ためと考えています。かつて体験して得た一次情報が十分にあったとしても、想像以上に時代や環境、ニーズの変化は激しいのです。

 誰しもが「自分は知っている」という思い込みを捨て、一次情報を更新し続ける必要があります。特に経営者やリーダー層にとって、この「一次情報の賞味期限切れ」は大きな問題となります。会社が大きくなればなるほど現場から離れ、一次情報が不足している中で意思決定が求められるためです。

 相談上手な経営者やリーダーたちは、企業規模が大きくなっても現場感を持ち続けています。だからこそ自身の成功体験や失敗体験に縛られない意思決定ができ、現場のリアルな実態をつかんでいるため話も面白いのです。経営者になっても自ら現場に足を運び、担当者に相談するプロセスを実践しているのです。

 現場との乖離は経営者に限らず、どんな人でも役職が上がれば起きてしまいます。一次情報がないと感じたときこそ、相談するタイミングです。

 さまざまな人の話を聞いていると、「いつ相談すればいいか分からない」という声を多く聞きます。そこで今回は、相談すべき3つのタイミング、1.物事が行き詰まらないようにする「予防相談」、2.物事が行き詰まったときの「対処相談」、3.偶然を生かす「種まき相談」について紹介します。

●できるビジネスパーソンが「時間がない」と言わないワケ

 まずは予防相談についてです。当たり前ですが、物事を前に進めるには、できるだけ行き詰まらないようにしなければなりません。そのための相談が予防相談です。

 行き詰まる前、つまり行動を起こす前の構想やアイデア段階のことを私は「見立て」と言っています。未検証の思い付きで良いはずの見立てが1つしか浮かばない場合はかなり危険なサインです。すぐに相談すべきタイミングです。

 物事には、必ず複数の選択肢があるものです。選択肢とは可能性の数です。行動を起こす前の段階では、発想の自由が許されていて選択肢も多いでしょう。にもかかわらず初期の段階で選択肢が1つしか見えていないのは、「この選択肢が良いに違いない」と思い込んでいる場合が多いはずです。可能性を広げるために、このタイミングで相談してみるのが良いでしょう。

 時間がないと感じ始めたときも相談タイミングです。「時間がない」「タイトなスケジュール」と言われた相手は、無理をしてでも納得できない意見や情報に基づいて意思決定しなければと感じてしまいます。これは危険な兆候です。

 さらに厄介なのは、こうした言葉は「計画」の実施に近づくほど、関係者の口から発せられるという点です。商品であれば発売日、サービスであればローンチ日が迫ってくると、普段は冷静な人でも視野が狭まります。目的に立ち返って試行錯誤するよりも、計画通りに進めることを優先しがちになるのです。だからこそ、時間がないと感じたときは誰かに相談してみましょう。「本当に時間がないのか」「本当に早くやらなければならないのか」と問い直すことが必要です。

●1週間行動できていないはキケン信号

 対処相談の分かりやすいタイミングは、1週間を振り返って、何も行動できていなかったときです。例えば、「山中さん、実はこういう課題で困っているんです」と言ってアドバイスを求めてくる人に、「なるほど、そうなんですね。課題は分かりました。それで、課題を検証するために最近どんな行動をしたんですか?」と質問すると、言葉に詰まってしまう人がいます。課題が見えているのに、それに対するネクストアクションが浮かばず、立ち止まってしまった状態です。

 目安として意識しておくべきなのが「1週間」です。1週間まったく行動できなかったら、対処相談のシグナルといえます。「何もやっていないのは、忙しかったから」と思う読者もいるでしょう。しかし、よく聞いてみれば「何をやれば良いか分からなかったから」という人も多いのです。

 ネクストアクションが見えている場合は、何らかの行動を起こします。自分の課題に対するネクストアクションが明確であればあるほど行動しやすいので、忙しいことはあまり理由になりません。むしろ、ネクストアクションが見えないときや曖昧(あいまい)なときは、確信が持てないために優先順位を下げてしまいがちです。その結果、課題に向き合うコミットメントが下がってしまうのです。

 事業は、常に手足を動かし続けることが大切です。立ち止まった時間が長いほど、それまで蓄積してきた情報は陳腐化していくもの。検証したことも、考えたアイデアも、他のことに時間を使っているうちに忘れてしまいます。1週間何も行動できていないときは、ぜひ誰かに相談してみてください。相談することも、物事を前に動かすための立派なネクストアクションです。

●相談タイミングを最大限生かしてビジネスチャンスをつかむ

 最後の相談タイミングは「種まき相談」です。予防でも対処でもなく、“偶然”を生かして可能性の種をまく相談とも言えます。たまたま出席した会食で隣に座った人との会話で、自分が取り組むテーマに詳しい人だと分かったら「実は、最近こんなことをやっているんですよね」といったことを糸口に、相談に入ってみてください。

 私は、イベントなどで昔からの知り合いに会ったときも、「久しぶり。最近何してるの?」という近況報告から相談に移ることをよくやっています。このような種まき相談では、あれこれ考えすぎずにタイミングを逃さないことが大切です。

 そのためには、常に自分が取り組みたいテーマや課題について考え、説明できる状態にしておくことが理想です。特に経営者やリーダー層は、社外との接点も多いでしょう。相談を活用することで、事業やプロジェクトを進める力になるはずです。

 お伝えした相談タイミングを最大限生かすことで、現場感を持った意思決定につながる余白は大いにあると思います。

相談Q&A

Q:相談する時に相手の時間をとって申し訳ないと思ってしまい、相談する一歩目が踏み出せません。どうすればいいでしょうか?

A:相談されて迷惑かどうかは相手に聞かないと分からないので、相談前に遠慮しても意味がありません。仮に、相手に相談を断わられたら「今がタイミングじゃないんだな」と思って次の相談相手を探します。

 大切なポイントは2つあります。1つは相手には相手の事情があるということ。出張中だったり、相談内容のテーマに興味がなかったり、メールを見落としていたりする場合もあるでしょう。迷惑だから相談に乗らないというケースは少ないと思います。

 もう1つは、相談相手は一人ではないことです。これは当たり前のようですが見落としがちです。「この人に相談できないからやめておこう」と相談しない言い訳にもなってしまいますので要注意です。

 最後に、もし相談に乗ってくれたら「時間をとってしまって申し訳ない」と思わないでOKです。相手も相談内容に興味関心があったり、あなたを応援したかったり、いろいろなな理由があって相談に乗ってくれています。変な遠慮は時間がもったいないので、思う存分相談してください。

著者:トイトマ 代表取締役社長 山中哲男