ニューコアはミニミルで鉄鋼を生産している。ミニミルは、大規模な高炉メーカーの工場の半分くらいの規模だ1。ミニミルは高炉に比べて柔軟で、投下資本も少ない。従来、高炉メーカーは薄型で、グレードの高い鉄鋼を生産してきた。しかし、過去30年の間に、ニューコアが絶え間なくイノベーションを続けたため、高炉のこうした優位性はほぼ消滅した。

* ミニミル:電気炉メーカーの工場。高炉メーカーの工場と比べて規模が小さいことからこう呼ばれる。

1: 高炉では超高温の炉の中で、鉄鉱石から酸素を取り除いて銑鉄(せんてつ)をつくる。通常、高炉の燃料となるのは天然ガスだ。一方ミニミルでは、アーク式電気炉を用いており、エネルギー源は主に電気である。巨大な電極が炉の中でアーク(電弧)を発生させると、炉内の温度は3000℃にも達する。

 1989年に、ニューコアは新しい技術を開発し、それによって鋼板の厚さを従来の4分の1にすることができた(4・8ミリだったものが、1・2ミリになった)。鋼板を薄くすることによって、最終的な形状に加工するまでの時間が、数日から数時間に縮まった(競合企業がこの進歩に追いつくまでに8年かかった)。

 2002年には、ニューコアは超薄型鋳鋼を発売し、厚みを1ミリ未満まで減らした。この超薄型の鋳造プロセスは、エネルギー消費量が高炉メーカーの工場に比べると95%少ない。このブレークスルーと他の多くのイノベーションによって、過去10年の間に、ニューコアの粗鋼生産量シェアは16%から25%近くに拡大した2

2:World Steel Association, Nucor Company Filings.

 ニューコアの従業員は、アメリカの中西部と南東部の農村部に住んでいる人たちだ。彼らが同社の中心となっており、直接的に成功も分かち合っている。世界金融危機以降、業界全体では雇用が15%削減されたが、そのなかでニューコアは給与を30%増やした3。当然ながら、従業員の離職率も業界平均よりかなり低い。

3:労働統計局の産業別雇用データ(第一次金属)、および同社の公開資料から。

 ニューコアの業績を支えているのは、急進的でボトムアップの組織モデルで、このモデルは同社の元会長でCEOのケン・アイバーソンの信念を反映している。アイバーソンの世界観の基盤は、「普通の人が特別なことをする力」を信じていることだ。著書の『逆境を生き抜くリーダーシップ』で、彼は次のように説明している。

 今日の企業の大半は指揮統制型組織としてつくられた。たとえば、大手一貫製鉄所の創立者たちの考えには、組織の独創性は経営陣に存在するという明確な前提があった。[中略]それに対しニューコアでは、組織の独創性の多くは仕事をする人たちのなかに存在するという前提に立っている。当初よりわれわれは、一見無理と思える目標を達成する道筋を、従業員が経営陣に示せるような会社をつくってきた4

* 『逆境を生き抜くリーダーシップ』:Plain Talk ケン・アイバーソン著、近藤隆文訳、海と月社、2011年、他。

4:Kenneth Iverson, Plain Talk: Lessons from a Business Maverick (Hoboken, NJ: Wiley, 1997), 91. 邦訳:ケン・アイバーソン、ウォレン・ベニス著『逆境を生き抜くリーダーシップ』近藤隆文訳、海と月社、2011年、他。

<連載ラインアップ>
■第1回 「人間らしさ」が失われると、なぜ組織は病んでしまうのか?
■第2回 高収益体質で業界トップを独走、米国鉄鋼大手・ニューコアの企業文化とは?(本稿)
■第3回 業界平均より25%高い報酬を実現、米ニューコアの独自のボーナス制とは?
■第4回 8万人の「起業家集団」! 中国家電大手・ハイアールの「人単合一」とは?
■第5回 ハイアールの成長と変革の源泉、「リーディング・ターゲット」とは何か?
■第6回 ライバルの足をすくったことは? 官僚主義的思考から脱却する12の問いかけ

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