炉殻(ろかく)(鉄スクラップが溶鋼に変えられる巨大なボウル)が古くなったとき、このチームは詳細な費用対効果分析をして、炉殻を交換するタイミングを決めた。

 財務やエンジニアリング担当の幹部がそれを行ったのではなかった。決定を下すと、調達部門ではなくこのチームが、サプライヤーに入札を求めた。しかし、彼らはサプライヤーからの提案に満足できず、自分たちで炉殻を設計することを決めた。実際の製作の段階では、製作業者を選び、すべての製作段階で細かなフィードバックをした。

 結果はどうなったか? 非常に効率的な製品ができあがり、コストは最初の入札価格の10分の1の300万ドルに収まった。

 こうした主体性とイノベーションが、ニューコアをアメリカの鉄鋼業界のリーダーにしている。2018年、「チームメイト」と呼ばれる2万6000人の従業員は、2790万トンの鉄鋼を出荷し、250億ドルの売上をあげた。

 ニューコアは北米で最も多角化された鉄鋼メーカーでもあり、梁、鋼板、板金、棒鋼、鋼製グレーチングなどを生産し、幅広い顧客企業に製品を提供している。ニューコアは鉄スクラップを使って生産をしており、西半球最大のリサイクル企業でもある。

 鉄鋼生産は厳しい事業だ。他の業界と比べると資本利益率は低く、倒産も多い。しかし、ニューコアは平均的な鉄鋼メーカーとはちがう。1969年以来、利益を出せなかったのは、2008年の世界金融危機の時だけで、一貫して業界トップの利益を上げている。

 収益力と資本利益率で同業他社を上回っているのに加え、同社は従業員1人あたりの株式時価総額、売上、純利益、出荷量でも他社を大きく引き離している[図表4-2]。従業員1人あたりの資本は他社とほぼ同じだが、1人あたり生産量は業界平均を50%ほど上回る。こうした結果は特徴的な企業文化の賜物だ。職位よりも実績、服従よりもイノベーションに価値を置く文化である。


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