ヘネシーは創業当時から世界各地で事業を展開してきた。1794年にはすでにアメリカ進出を果たし、1818年にロシア、1869年には中国にまで市場を広げた。グローバルな流通ネットワークのおかげで、今では160以上の国と地域でヘネシーの商品が販売されている。

 そして、環境保全のパイオニアとしての顔も持つ。所有する11の拠点と12の施設は環境マネジメントシステムに関する国際規格「ISO 14001」、食品安全マネジメントシステムに関する国際規格「ISO 22000」、労働安全衛生マネジメントシステムに関する国際規格「ISO 45001」を取得しており、環境安全規制(ICPE)の対象施設にもなっている。自社ブドウ畑については、環境に配慮した害虫駆除技術や生物多様性の保全への取り組みが評価され、フランス農水省より「高い環境価値」の認証と「コニャック環境認証」を与えられた。CEOのローラン・ボワロは、「私の目標は、ヘネシーというメゾンが高い名声を誇るだけでなく、社会的責任も果たす企業として、その価値をさらに高めることだ」と語っている。

 2019年の売上高は7%増という有機的成長を記録し、出荷量も前年比で6%増加した。長年トップの座(年間の輸出数は約1億本)を守り続けてきたコニャックに加えて、プレミアムスピリッツでもトップブランドへと成長した。2020年のコロナ禍でも最高級品質を軸とした戦略を変えることはなかった。

 2019年下半期には、アメリカと中国の感染拡大が落ち着いたことで業績も改善した。回復が顕著だったのは最高級ランクのヘネシーX・Oで、普段はレストランやバー、ナイトクラブなどでコニャックを楽しんでいた顧客が、自宅での消費に大きくシフトしたことで小売とEコマースの両方が伸びた。

 さらにヘネシーは、「HNWI」と呼ばれる、100万ドル以上の金融資産を持つ2000万人の個人富裕層をターゲットにした限定コレクションを開発した。その一つが中国人アーティストの張恩利(ザン・エンリ)を起用したコラボコレクションだ。中国の旧正月を祝うにあたってフランス・リモージュ発祥の老舗テーブルウェアブランドのベルナルドとタッグを組み、張がデザインした550本限定のデキャンタを発売したのである。このデキャンタは、なんと約8000ユーロで販売された。

 2021年の1月から9月にかけてのコニャックの売上高は2019年の同時期と比べて4%増加した。「2020年のコロナショックと2021年の回復は、大手ラグジュアリーブランドがいかに危機に強いかを私たちに教えてくれた。ラグジュアリーブランドが強いのは、顧客が品質のベンチマークを必要としているからだ」と、CEOのボワロはメゾンの功績を自ら称えた。ヘネシーの戦略が今の時代にふさわしいものであったことが、またしても証明されたのである。

<連載ラインアップ>
■第1回 コロナ禍が、米・欧・中のラグジュアリー業界にもたらした変化とは?
■第2回 1000万人がヴィトンの動画を視聴、ラグジュアリー業界で進むデジタル化とは?
■第3回 エルメスがキノコを使ったバッグを発表、ラグジュアリー業界の新たな生産モデルとは?
■第4回 LVMHはなぜ危機に強く、「業界リーダー」であり続けられるのか?(本稿)
■第5回 ターゲットはデジタルネイティブ世代、DNVBのビジネスモデルとは?
■第6回 グッチ、ラルフ・ローレンが参入、ラグジュアリー業界は、なぜメタバースに注目するのか

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(イヴ・アナニア,イザベル・ミュスニク,フィリップ・ゲヨシェ)