新NISAのスタートで投資への関心が集まっている。投資で失敗しないためには、正しい金融知識を身につけておくことが肝心。韓国で100万部の大ヒット。とてつもなく貧しい境遇から成り上がり、韓国人として初めて、アメリカの外食産業で大成功した希代の起業家、キム・スンホ氏が語る「伝説のお金の授業」を邦訳版として書籍化した『お金は君を見ている 最高峰のお金持ちが語る75の小さな秘密』(サンマーク出版)から一部抜粋、再構成してお届けする。

■経済用語を勉強すれば、資産を守る「城壁」となってくれる

韓国銀行は2018年、『金融経済用語700選』というパンフレットを発行した。国民に正しい経済知識を知らせ、金融理解度の向上を図るという。その結果、経済に関する合理的な意思決定を助けることを目的としている。パンフレットのファイルデータは、韓国銀行のサイトから無料でダウンロードできる。記載された用語は、経済活動をしながら暮らす現代人なら、誰もが必ず学ぶべきものだ。このような経済教育は、高校の正規の科目に取り入れるべきだと、私は考えている。

昔は田舎暮らしの老人には字の読めない人も多く、息子から届いた手紙を郵便配達員が読んであげた、などという話もあった。中世ヨーロッパでも、字を知らない人は聖職者が読んでくれる聖書の解釈と教えに従うしかなかった。聖書が読めないため、神と直接交流する方法がわからなかったからだ。

このように、字を知らないと悲しく貧しい人生を送ることにもなる。

現代では、コンピューター・オンチがそれにあたる。いまの世の中、コンピューターやスマートフォンを使えなければ、どこも雇ってはくれない。デリバリーの仕事もできない。デリバリーの配達員は、複数台のスマホを同時に見ながら仕事をしている。移動は業務の一部に過ぎない。スマホの使い方がわからなければ、現代の情報社会では下層民になるしかない。最近はお坊さんもLINEを使うし、牧師さんもFacebookをやらないと信徒との交流ができない。

金融オンチも、文字やコンピューターを知らない人たちと同レベルだ。金融の知識は生存に直結する問題だからだ。アメリカの経済学者で第13代連邦準備制度理事会(FRB)議長を務めたアラン・グリーンスパン(Alan Greenspan)は、「文字を知らないと生活に支障を来すが、金融についての無知は生存を危うくするから、より恐ろしい」と語っている。金融知識をもたない人は、城壁の崩れた城を守る城主のようなものだ。財産を誰かに奪われても気づかず、守ろうにも守り切れない。資産を貯めようとしても、自分の価値と相手の価値を知らないので、いつも法外な金額を支払ったり、安価で売り払ったりする。だから、実生活において、文字やコンピューターを知らない人以上に、悲惨な人生を余儀なくされる。自分の城を築き、財産を守り、資産を城内に貯めるといったすべての金融活動は、まずは基本的な用語を理解するところから始まる。

調査によれば、韓国の成人の金融理解度はOECD平均より低い。

世代別の理解度を見ると、30代が最も高く、続けて40代、50代、20代、60代、70代の順になっている。

月収25万円未満の層で金融理解度が58点である一方、25万円以上〜42万円未満の層では63点、月収42万円以上の層では66点だった。

20代と60〜70代が金融詐欺に最も騙(だま)されやすく、投資リスクが高いのも、金融理解度の低さにその原因がある。

収入が高い層ほど金融知識も豊富だが、それは金融知識があってこそ、所得を増やし財産を守ることができるからだ。

つまり、金融知識は素晴らしい生活ツールだと言えよう。老若男女を問わず、金融知識の不足は投資や金融に関する誤った決定を引き起こす。そしてついには債務不履行や貧困層への転落など、社会全体の問題につながるのだ。



■あなたのお金がどれだけ垂れ流しになっているか

次の用語リストは、韓国銀行が国民に知っていて欲しいと考える金融経済用語から約100個を抜き出したものだ。

このうち80%以上理解できれば、あなたはほぼ完璧な城壁を築いた城主と言える。

50〜80%程度なら悪くはないが、もう少し勉強してから投資すべきだ。

もし知っている用語が50%未満で、これまで関心もなかったなら、何をおいてもこれらの用語から学ぼう。

3日でも早いほうがいい。あなたのお金が毎日、城壁の穴から垂れ流されているのだ。いくら一生懸命に働き、真面目に見守っていても、なんの意味もない。このままでは、あなたの労働の結果と財産はあっけなく消えてしまうだろう。次の用語リストによく目をとおし、内容を理解しており、誰かに説明できるものを○で囲んでみよう。

【金融経済用語リスト】 スプレッド/景気動向指数/経常収支/就業率/固定金利/悲惨指数/ゴルディロックス相場/公共財/供給の価格弾力性/空売り/国別信用格付/国債/金本位制/金産分離原則〔財閥の銀行所有禁止の原則〕/IPO(新規株式公開)/政策金利/基軸通貨/機会費用/トリクルダウン理論/短期金融市場/貿易依存度/代替財/二番底/デカップリング/デフレーション/レバレッジ効果/最終利回り/マイクロ・クレジット/サンクコスト/名目金利/ムーディーズ/物価指数/ミューチュアルファンド/取り付け騒ぎ/ヴェブレン効果/変動金利/保護貿易主義/主要通貨/付加価値/債務担保証券(CDO)/負債比率/トリクルアップ効果/ビッグマック指数/上場投資信託(ETF)/サーキットブレーカー制度/先物取引/所得主導成長/需要弾力性/スワップ/ストックオプション/通貨発行益/信用収縮/ワラント債/実質賃金/アグフレーション/譲渡性預金(CD)/量的緩和政策/証券総合口座(CMA)/連邦準備制度(FRS)/連邦準備制度理事会(FRB)/エンゲルの法則/リバースモーゲージローン/預貸率/オプション取引/外貨準備高/債務再編/元金リスク/流動性/デュアル・カレンシー債/自己資本比率/自発的失業/長短金利差/店頭市場(OTC)/転換社債/ジャンク債/ゼロ金利政策/株価収益率(PER)/株価指数/租税負担率/1株当たり純利益(EPS)/デリバティブ(金融派生商品)/通貨切り下げ/表面金利/限界費用/ヘッジファンド/為替レート/為替操作国/M&A



■資産家が恐れるのは経済を学んだ一般人

数学を学ぶには、加減乗除を学ぶのが始まりだ。加減乗除をより理解しやすくするために九九を覚える。英語を学ぶにも、アルファベットを知らなければならない。大文字と小文字、すべてを覚える必要がある。これが学問の始まりだ。

ところが金融や経済については、誰も教えてくれない。

どの学校でも、実際的な経済教育はしていない。理由は簡単だ。わざわざ教える必要がないからだ。文字を学べば思考が深まり、記憶も整理できるし、文書が読める。統治者にとっては、大衆が文字を学ぶことは面白いはずがない。

経済知識も同様で、経済知識が多い人は、資産家の地位を脅かす。あらゆる投資契約の中身がガラス張りとなり、株取引や銀行取引で優位に立てなくなる。しかし私は、韓国の中間層に厚みが増せば増すほど、国家の安全網が拡大し、健全な社会に発展するものと信じている。自分が他人よりもお金持ちになるとうれしいと思うかもしれないが、そのような国では政治的・社会的安全網が崩壊し、ついにはそのリスクを上層グループがかぶることになる。だから、中間層が安定しており、努力すれば誰でも中間層に入ることができる国がいい。そして結果として、富裕層が増える国がいちばんいいのだ。

そのためには、高校から実物経済の教育をし、経済用語を教えることだ。授業で用語を教えるだけでも、お金持ちになれる人が増えるはずだ。現在の学校で学ぶことのうち、経済活動の役に立ちそうなのは、会計学くらいだろう。経済学は個人の経済生活にはまったく役に立たない。

経済用語を勉強することは、若者がむやみに借金を背負うことを防ぐとともに、彼らが収入の一部を株や債券に投資して起業家精神を学ぶことに寄与する。そして彼ら若者は財産形成プロセスに参加して、誇り高く尊敬されるお金持ちになれるだろう。

すべての国民が、前記の用語リストを理解できる国になったら、どれほど素晴らしいことだろう。記者が適当な経済情報を振り回して偏向記事を書くこともできなくなるので、高値で住宅を購入したり暴落相場でカモにされることもなくなる。

まずは用語から学んで理解しよう。すべての人が金融用語を理解すれば、政治家も国民を無視することはできず、不届きな事業家がのさばることも減る。

金融知識は命に関わる問題だ。

高校の教育課程に金融教育という科目がつくられ、退職した銀行の元支店長や証券マンが教壇に立つ日が来ることを願っている。

【PROFILE】 キム・スンホ(Kim Shengho) スノーフォックスグループ会長。韓国人として初めて、アメリカでグローバル外食企業を成功させた実業家。創業したスノーフォックス社は、世界11カ国に3900の店舗と1万人の従業員を抱えるグローバル企業。年間売り上げ1兆ウォンの目標を達成、米ナスダック上場を控えている。出版社、生花流通業、金融業、不動産業も営みながら、農場経営者の顔も持つ。韓国中央大学校ではグローバル経営者養成コースの教授も兼務。韓国と世界を行き来しながら、最近5年間で3000人あまりの事業家を養成。「社長を教える社長」として知られる。本書は、インターネット上で動画が1100万回以上再生された「伝説のお金の授業」の書籍化。2023年まで4年連続でベストセラーとなり、100万部に到達した国民的な「お金の教科書」。