元ネタは医療用品!うんちを入れても臭わない防臭袋「BOS」はこうして生まれた

使用済みおむつに付きまとうニオイ問題

子育てや介護を経験することで直面する、使用済みおむつのニオイ問題。インターネット上では「新聞紙やポリ袋に包む」「ふた付きのゴミ箱に捨てる」など、さまざまなニオイ対策が散見されます。しかし、ゴミに出すまで数日間保管しなければならず、漏れ出てしまうニオイに悩む人も少なくないはず。

そのような困りごとに目を向けたのが、1960年創立のプラスチックフィルムメーカー、クリロン化成株式会社です。同社が開発した「臭わない袋BOS(ボス)」は、子育てや介護の現場だけでなく、ペットのうんちや生ゴミの処理、そして防災用品としても注目されています。

おむつが臭わない袋BOS(ボス)
おむつが臭わない袋BOS(ボス)

子育て中の筆者もBOS利用者の一人です。ある日、外出先でBOSを持ち合わせておらず、通常のポリ袋に使用済みのおむつを入れたところ、ニオイ漏れに驚愕しました。それまでBOSを使用していたときはニオイに気づくことはありませんでした。

なぜこんなにも薄い素材でニオイを防ぐことができるのか。開発を担当する安原さんにその秘密を聞きました。

話を聞いた人

クリロン化成株式会社 安原 綾乃さん
安原 綾乃さん

クリロン化成株式会社 開発営業部課長。BOSの開発に携わり、開発から営業までを手がける。現在は介護現場や被災地での活用促進に向けて尽力している。

医療向け技術を袋に活用

取材にこたえるクリロン化成株式会社 安原さん

──BOSは「医療向けの開発から生まれた驚きの防臭袋」という触れ込みで発売された商品です。具体的に何を元に作られたのでしょうか。

安原さん:BOSの元になっているのはストーマ袋です。ストーマ袋とは人工肛門からの排泄物を収集するための医療用袋で、ニオイが漏れないことはもちろん、細菌を通さないことや肌に優しいことも重要です。このストーマ袋に使われている高機能フィルムをより広い用途で活用できないかと考え、2011年にプロジェクトを立ち上げました。

このときは防臭袋を商品化することは決まっておらず、「ニオイ問題のお役に立ちたい」という思いだけがありました。

ストーマ袋のイメージ
ストーマ袋のイメージ

──防臭袋を作ることになったきっかけは?

ある日、子育て中の開発メンバーが「使用済みおむつのニオイがすごい」と話していました。私も子育て経験があるので深く共感し、「この素材でおむつを入れる袋を作ろう!」となったのが始まりです。

当社はこれまで企業向けに営業活動をおこなってきましたので、まずは試作品を作り、さまざまなメーカーや小売店に持ち込みました。どの企業も反応は上々でしたが、商品化までは進まず……。ゴミ捨て用の袋にしては高価なものでしたし、当時は“袋でニオイを閉じ込める”という概念がありませんでしたので、本当に売れるかどうか未知数だったんです。

それでもなんとか世の中に広められないかと議論を重ねた結果、自分たちで作って販売することになりました。BOSはクリロン化成初の一般消費者向け商品なんです。

独自の技術とノウハウを集約

取材にこたえるクリロン化成株式会社 安原さん

──子育てをしているので日常的にBOSを使っています。使用済みおむつを入れてもニオイがしませんし、何より、ゴミ箱に数日間入れてもニオイ漏れがないことに驚いています。

ニオイは袋の結び目から漏れるイメージがあると思いますが、実際は素材の表面からにじみ出ているんです。フィルムの表面を拡大してみると網目のような構造になっていて、その隙間からニオイが漏れるイメージです。なのでポリ袋を二重にしたとしても、どうしてもニオイ成分は外に出てしまいます。

BOSの素材はニオイを通しにくく、放出されるニオイ成分が微量のため、人の嗅覚では感じ取れないほどのレベルまで抑えられるんです。

──なぜそのようなことが可能なのでしょうか?

当社はさまざまな高機能フィルムを製造してきた会社なので、設備とノウハウがあるんです。製造マシンも自社設計しているので、特徴のある独自製品をつくることができます。

理想の使いやすさを実現するために、何度も試作品を作りました。とくにこだわったのは「音のしにくさ」と「結びやすさ」です。

ポリ袋は触れたり縛ったりすると、シャカシャカと音がしますよね。音を立てると眠っている赤ちゃんを起こしてしまう可能性があるので、音を最小限に抑えられるよう設計しました。

また、赤ちゃんがじっとしていない状況でも口を素早く結べるよう、手触りが良く滑りすぎない質感にこだわっています。

BOSの封入方法
蛇腹に封入することで取り出しやすさも実現できたらしい

──開発の過程で苦労したことはありますか?

やはりニオイですね。試作品と共に他社のさまざまな袋も試しました。当時市場で一般的だったのは、消臭成分を袋に練り込んだ「消臭袋」だったんです。使ってみると、ニオイ成分のほとんどが漏れてしまい、部屋が悪臭に包まれました……。

あと、出来心で試作品の袋を開けてしまったことがありまして。使用済みおむつを入れて数ヶ月間保管していたんです。ある日、乾燥して軽くなっていることに気づき「乾燥するとニオイは薄れるのかな?」と、確認のために袋を開けると予想以上に強烈で……下の階の事務所からも苦情が来てしまいました(笑)。

口コミでじわじわと広がったBOS

──クリロン化成の主な顧客層はメーカーとのことですが、一般消費者向けの市場に参入する際、戸惑いはありましたか?

どう売り出せばいいのかわからず、お店での取り扱いも難しかったので、はじめは頭を抱えました。それでも身近な人にBOSを知ってもらおうと、社員全員でサンプリングすることにしました。サンプル品を知人に試してもらい、常に持ち歩いて街中ですれ違うお母さんにも説明して配ったこともありました。

あとは赤ちゃん用品の展示会への出展ですね、これは今でも続けています。そういった地道な活動を重ねるうちに、SNSなどで少しずつ口コミが広がり始めたんです。

また、オンラインショップをオープンしたことで、消費者さまの要望を直接受け取ることができました。はじめはMサイズ45枚入りを売り出したのですが、「もっと枚数を増やしてほしい」「大きいサイズがほしい」などの要望をいただき、サイズや色、パッケージのバリエーションが増えていったんです。

ペット用、介護用、パッケージデザインが異なるBOS
ペット用、介護用だけでなく、生活環境になじむデザインの商品も販売している

──ペット・介護用と子ども用の違いはなんですか?

同じ素材で作っているので防臭機能は同じです。利用シーンを考慮して、袋の色を変えています。犬の散歩をするとき、ピンクの袋を持ち歩くことに抵抗を感じる人もいるだろうとペット用は青い袋にしました。

介護用は白い袋になっています。介護用おむつを履いている人のなかには、周囲にそれを知られたくない人もいますよね。BOSがもっと世間に広まったとき、ゴミ出しのときにピンクの袋が見えてしまったら、近所の人におむつを履いていると思われるかもしれません。それを考慮して白にしています。

さらなるニオイ問題の解消へ

取材にこたえるクリロン化成株式会社 安原さん

──2024年で発売開始から12年が経ちます。これまでを振り返って印象深い出来事はありますか?

実際に使用してくださった人から「助かっています!」「ありがとう!」と声をかけてもらえることですね。東日本大震災を経験した人からは、「当時の避難所にBOSがあったらどれほど助かったことか、もっと広めてください!」という応援のお手紙をいただきました。

避難所では水の確保が難しく、トイレットペーパーが流せないことによる衛生環境の悪化や感染症のリスク増加など、深刻な問題が発生します。当社ではBOSをセットした非常用トイレもご用意しています。BOSを通じたニオイ問題の解決策を多くの人に知ってもらえるよう努めていきます。

東日本大震災時の避難所に設置されたトイレ(写真左下)
東日本大震災時の避難所に設置されたトイレ(写真左下)

また、45Lの大容量サイズの開発を進めていますので、介護施設でも利用いただくなど、より多くの人々のニオイ悩みを解決していきます。

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