「今は男性も美容をする時代」とは言うものの、一般的にも浸透しているとは言いにくいメンズ美容。

この風潮に一石を投じるかのごとく立ちあがったのが、美容メディア『VOCE』(講談社)が『FANY』(吉本興業グループ)とタッグを組んだ「売れたら垢抜けるってホント?」=『ウレアカ?』プロジェクトです。

 『VOCE 2024年5月号 増刊』講談社

3組の芸人を1年間観察!令和ロマンが『VOCE』の表紙に

2023年6月よりプロジェクト第一弾として、令和ロマン・オフローズ・素敵じゃないかの三組の芸人たちを追った観察型ドキュメントがスタート。美容への知識も興味関心もバラバラな彼らに、『ウレアカ?』を通じてどういった変化が起こったのかが記録されています。

 (画像:講談社プレスリリースより)また、令和ロマンが『VOCE』2024年5月号の表紙を飾ったことも話題になりました。

そこで今回、『ウレアカ?』プロジェクトの担当者である『VOCE』編集部の大森葉子さんにインタビュー。『ウレアカ?』が始まって一年の総括や裏話、そして新たに始まったシーズン2への想いを聞かせてもらいました。

美容男子は増えてきたものの…

――『ウレアカ?』プロジェクトが発足した経緯を教えてもらえますか?

「『VOCE』はメンズ美容にも力を入れていて、私がそれを考えた時に「女性の美容と同じようなアプローチでは男性には届かない」ということをずっと考えていて。

美容感度が高い美容男子と呼ばれる方たちも増えてきましたが、圧倒的に美容との深度が高い女性とは数の差がありますから。そこだけに焦点を絞るのも違うなと感じていました」



――あくまでもターゲットは美容と距離がある男性であると。でも、なぜそこで芸人さんにフォーカスしたのですか?

「私の考えるセルフケアとしてのメンズ美容について誤解なく伝える方法を模索したところ、芸人さんに美容を語ってもらうことで、そのような男性にとっての心的ハードルが低くなるのではと考えました。

芸人さんって外見で勝負する職種ではないけれど、出役(でやく)ではある。けれど、美容には興味がなさそう。そこに何かありそうだな、ということで吉本興業さんに一緒にやりませんか?とお声掛けさせてもらいました」



3組ともお笑い賞レースで快進撃、選んだ理由は?

 (画像:講談社プレスリリースより)――プロジェクト第一弾で令和ロマン、オフローズ、素敵じゃないかの3組を選出した理由は?

「直接劇場に足を運んでネタやコーナーライブを見て、実際にZoomで直接お話ししたりして、美容に対する距離感がバラけるようにメンバーを決めました。

美容に全く興味がない人、機会があったらやってみたい人、積極的にやろうとしている人。世間の男性の人口分布のようなイメージになったらいいな、と考えていました」

――『ウレアカ?』が始まった直後に、3組とも「ABCお笑いグランプリ2023」で決勝に進出していましたよね。お笑い的な先見の明も感じました。

「私はお笑いにあまり詳しくなかったので、2022年の夏の終わりくらいから構成作家さんや吉本興業の社員さんに若手の芸人さんについて英才教育を受けたんです(笑)。

もともとこの企画には、本職であるお笑いで何かを成し得ていく人たちを選びたかったんですよ。お笑いで評価されるであろうことを前提として、人柄と美容との距離感のバランスも重視していたので、この三組に絞るのにはかなり時間がかかりました」

美容を知ったことでの気持ちの遍歴を見せてもらいたかった

――『ウレアカ?』の企画について、芸人さん側からとまどいの声が聞こえたことはありましたか?

「最初に『無理やりやらなくていいです。やりたくないときはハッキリ言ってください』と伝えていましたし、無理やりのオファーは出さないことも約束していました。なので『だったら気楽でいいかも』といった反応でしたね。

あくまでも、美容を知ったことでの気持ちの遍歴(へんれき)を見せてもらいたかったんですよ。もし何も変わらないならそれなりの理由があるはずなので、それがわかるだけでも意味があると思ったんです」



――メインとなったのが美容のレッスンやハウツーの動画ではなかったことが意外でした。

「『VOCE』がやるとなると、多くの人がそういうコンテンツを想像したかと思います。でも、それだと見てくれるのは、はなから美容に関心のある男性だけになってしまうので……。

美容を縁遠く感じている男性に興味を抱いてもらうには、同じような感覚を持つ芸人さんの姿を見てもらうことが一番ではないかと思ったんです」



美容に接してこなかった芸人からの「もっと教えてほしい」に感動

――第一弾のドキュメントの中で、特に印象に残っている出来事はありますか?

 意識が変わった素敵じゃないか・柏木さん「気持ちの変遷でいうと、全く美容に接してこなかった、むしろ遠ざけていたようなところがあった素敵じゃないかの柏木(成彦)さんが『もっと教えて欲しい』と言い始めたところで何かが動いた!という感動がありましたね。

令和ロマンの髙比良くるまさんが、初めから明確なビジョンがあってそれをハッキリと言語化できていたことも凄かったですね。彼の場合は顔のニキビがコンプレックスで、お客さんがそこに注目してしまう可能性を考えて、ノイズを消したいと思っていたんだそうです。表舞台のプロの人間としての美容の使い方をしている人だと思いました」

令和ロマンのM-1優勝は夢展開?!

――令和ロマンでいえば、77歳の若手芸人・おばあちゃんにメイクをする回もすごく良かったですよね。



「私もあの回は個人的にすごく好きだったんですよ。女性に男性がメイクを教えるって、日常の逆転現象でもあるじゃないですか。

教えられるおばあちゃんがとても素直だし、ちゃんとレクチャーしてあげる優しいくるまさんも見れた。眉毛を整えられてキラキラと目を輝かせたおばあちゃんが、『美容ってやってみてもいいのかも』と美容の力を視聴者に思わせてくれるような回だったと思います」

 M-1を美容でふりかえった令和ロマン――令和ロマンはその後、M-1グランプリ2023で優勝。これにはくるまさんの『ウレアカ?』での取り組みも少なからず影響していたのではないでしょうか。

「ご本人からやりたいと申し出てくれた脱毛、アートメイク、ヒアルロン酸注入などで自身が舞台に立つ上で気になっている見た目のノイズを潰(つぶ)しての優勝でした。こんなことが起きたら素敵だよね、という想像を最大級に実現する夢展開になってしまって、ある意味『ウレアカ?』の正解のひとつがこれ以上ない形で出てしまったのでは?とも思いました(笑)」

 (C)『VOCE』より

令和ロマン表紙撮影で苦心したこととは?

――男性芸人としては初の『VOCE』の表紙も飾りました。何か裏話などあれば聞かせてもらえますか?

「あの表紙については『やらされちゃってる感がないように』というのが一番にありました。『ウレアカ?』に一年間取り組んでもらってM-1を獲っての表紙ですから、板についた形で出てもらいたかったんです。

スタッフでまず協議したのは、(松井)ケムリさんをどうするかでした。くるまさんはもともと見た目をコロコロ変える方ですし、フォトジェニックな人だから、どう撮っても大丈夫。憑依(ひょうい)型でモデルスイッチが入れられるから、照れずに撮影できちゃうのもわかっていたので。

ケムリさんは普段見た目の印象に変化が少ないので、パブリックイメージがフィックスしているようなところがある。だから、加減が難しい。そのままだとあまりにもケムリさんすぎてしまい……」

 (C)『VOCE』より――ケムリさんの落としどころを模索した表紙だった、と(笑)。

「フィッティングもヘアメイクもケムリさん先行で進め、あとはくるまさんをそこにどう添えるか?という感じで。

実際に雑誌が並んでいるのを見た時は本当に感動しました。他の美容雑誌がたまたま女性の表紙ばかりだったせいか、本屋でやたら際立(きわだ)っていたように思います」



男性視聴者から好評の声

――この一年間で、本来のターゲットだった男性視聴者からはどのような反響があったのでしょうか。

「美容に親しみのない男性はコメントがしづらくはあったようですが、『美容に深くなりすぎない、ちょうど良い浅さがいいです』『情報がありすぎて何からやっていいかわからなかったけど、ようやく自分にあったものに辿(たど)り着きました』などの声が届いています。

芸人さんに対しても『くるまさんの美容への距離感が好きなので見習いたい』とか、『素敵じゃないかの吉野さんの脱毛、あんなに痛いものを通えるなんて凄い』など。ちゃんと届いてるなと感じました」



――男性視聴者に『ウレアカ?』の思いは届いていたわけですね。そのうえでメンズ美容についての新たな発見はありましたか?

「改めて道のりは険しいとも思いました。美容業界の方たちともメンズ美容についてはよく話をしますけど、一般的になりつつあるムードは感じていますが、なかなか大局が動かない。毎日ヒゲを剃っていることを考えれば、男性は女性よりも肌の状態って過酷なはずなんですよ。美容について知っているのと知らないで放置しているのには大差があると思うんです。

かといって女性と同じテンションで美容に向き合って欲しいとも思いません。絶対にスキンケアやメイクはやらなくてはいけないものでもないですから。ただ、美容をきっかけに自分を丁寧に扱うコツを掴んだり、ラクに生きる知恵くらいのノリで捉えてくれる方が増えたらいいな、と思ってます」



新シーズンは初体験をめぐるインタビュー

 (画像:吉本興業株式会社プレスリリースより)――4月18日より『ウレアカ?』シーズン2がスタートしましたね。『マイファーストセックス』という初体験の話を軸にしたインタビュー。これまでとはテイストが全く違うものになっていて、正直かなり驚きました。

「シーズン2を考える上で大きなきっかけとなった回は、素敵じゃないかさんとの包茎の回なんです。女性の声が多く聞こえてきていた中で、あの回だけは男性が声をあげてくれた感覚がありました。

その時に、美容にこだわらずに男性の心が動くことって何だろう?と考え始めたんです。それが、もしかしたら男性が『きちんと自分を知る』ってことなのではないかと」

 男性からの反響が大きかったシーズン1 素敵じゃないか包茎の回――とはいえ「垢抜ける」という本来の目的から少しルートが外れているようにも感じました。

「垢抜けるって見た目だけのことじゃないと考えています。他人の評価軸とは別の何かを持って、自分を知って、自分らしさの輪郭が見え出した時、垢抜けるんじゃないかという仮説で。男性がありのままの自分自身を知ることができれば、生きるのが楽になったり、楽しくなる。そうやってメンタルを整えることはセルフケアのひとつなんじゃないかと。

というのも、男性はあまり感情を吐露したり、それを耳にしたり機会がなく、世間的に考えられている男らしさと自身の感情が一致しない時には黙って多勢に寄せていくしかない、という声を聞いたことがあって。中でも自慢やおもしろ話ではない等身大の『性』の話はこれまであまり語られていないのではないか、ということを話し合いました。

それで、広く男性、特に若い男の子に、自分が心地好くラクに生きられる方法を見つけてもらうためのキッカケや一助になるよう、自己形成がまだあやふやだった思春期の頃の感情を中心に、初体験までの話をしていただいています。

『怖かった』『恥ずかしかった』『ダサいと思われたくなかった』などの感情を抱くことや人間関係で葛藤することは、決して不思議なことじゃないことが伝わればいいな、と思っています」

“自分を大切にするって何だろう?”をわかりやすく伝えたい

 (画像:吉本興業株式会社プレスリリースより)――つまり、見た目を磨くだけが美容ではないということですね。

「はい。自分で自分をラクにしてあげるってどうすればいい? 自分を大切にするって何だろう? これらをわかりやすく、伝えるのが『ウレアカ?』シーズン2の役割だと思っています

『マイファーストセックス』というシリーズは、ひとつのエピソードを観ただけではそのコンセプトが捉えづらいとは思います。色眼鏡で見られる可能性をはらんだ企画であるとも承知しています。にも関わらず、こちらの企画意図を汲み、その上で今の時代を生きる男性のために一肌脱ごうと、インタビューを引き受けてくれた芸人さんたちには感謝しかありません。

また、『マイファーストセックス』だけでなく、シーズン2ではこれからいくつものシリーズを走らせていく予定です」

――ありがとうございました!

<文/もちづき千代子>

【もちづき千代子】
フリーライター。日大芸術学部放送学科卒業後、映像エディター・メーカー広報・WEBサイト編集長を経て、2015年よりフリーライターとして活動を開始。インコと白子と酎ハイをこよなく愛している。Twitter:@kyan__tama