4月26日から全国ロードショーされる韓国映画『リバウンド』。韓国初のバスケットボールを題材にした本作は、たった6人の部員で全国大会決勝進出を成し遂げた釜山(プサン)中央高校バスケットボール部の活躍を描いた作品だ。
監督を務めたのはドラマ『サイン』や映画『記憶の夜』などで知られるチャン・ハンジュン。脚本は、映画『工作 黒金星と呼ばれた男』やNetflixシリーズ『ナルコの神』のクォン・ソンフィと、Netflixシリーズ『キングダム』、ドラマ『シグナル』などで有名なキム・ウニの共作。

出演俳優も、バスケットボール部員を全国大会の決勝に導くカン・ヤンヒョンコーチ役にアン・ジェホン(『マスクガ―ル』など)、バスケ部員役にはイ・シニョン(『愛の不時着』など)、2AMのチョン・ジヌンなどが顔を揃えたのだが、この作品の最大の魅力は「ほぼリアルに近い実話」というとだ。
今から12年前の2012年に行われた第37回韓国バスケットボール協会旗・全国選手権(日本の全国高等学校バスケットボール選手権大会に相当)。釜山中央高校バスケ部はわずか5人で全国大会を勝ち進み、準優勝した。
その快挙は、「漫画のような…釜山中央高のアッパリたち(骨のあるヤツら)が起こしたコートの波乱」(一般紙『京郷新聞』)、「奇跡を起こした“ハングリー・ベスト5”」(地方紙『釜山日報』)、「優勝よりも価値ある準優勝」(ネットメディア『NEWSIS』)など、多くのメディアが取り上げらていたので筆者も覚えていたが、映画では当時の出来事がソックリそのまま再現されているのだ。
例えばアン・ジェホン演じたカン・ヤンヒョンコーチの風貌だ。実在のカン・コーチとソックリだった。当の本人も「シンクロ率90%だ」と唸ったほどだというのだから、アン・ジェホンの役作りに頭が下がった。
しかも、随所に韓国の“リアル”がしっかり散りばめられているではないか。例えば中学生の有望株がソウルの名門校に集まる逸話などは脚色ではない。韓国スポーツの“リアル”がそこにあった。
そもそも韓国の部活動は日本の部活動とは大きく異なる。日本では学校教育の一環として部活動があるため門戸が広く、男子高校バスケ部の数は4000校を超えるが、韓国では今も昔も選手育成のエリートスポーツとしての性格が強いため、あらゆる部活スポーツが少数精鋭で門戸も狭い。バスケの場合、2021年の時点で登録されている男子高校バスケ部数は30校にしかならないのだ。
そのため、選手の引き抜きなどスカウト合戦は激しく、競争も熾烈だ。韓国では1997年から男子プロバスケットリーグであるKBLがスタートしており、現在は10チーム体制で運営されている憧れのプロにドラフト指名されるためには、大学バスケや高校バスケでその名を知らしめなければならない。
高校生の場合は幾多の公式戦がその機会となるが、その中でも高校バスケ界最高権威とされているのが、前出の韓国バスケ協会会長旗大会であり、釜山中央高校はそんなメジャー大会を5人で勝ち上がったからこそ話題になった。
そして、そんな韓国スポーツの“リアル”を丁寧に描かれているからこそ、映画『リバウンド』は韓国では公開時から多くの共感を呼んだ。映画雑誌「シネ21」も「映画よりももっと映画らしい“現実”が描かれている」とレビューしたほどである。
しかも、リアルを追求したバスケ・シーンは迫力があり、要所要所でカン・コーチが言い放つセリフが胸を打つ。
「バスケをしていればシュートが入らないときがある。いや、入らないほうが多い。でも、その瞬間、努力次第でチャンスが生まれる。それがリバウンドだ」。
バスケを「人生」に置き換えると、なぜか気持ちが前向きになり胸がアツくなるのだから不思議だ。カン・コーチが自分にも言い聞かせていたこの言葉に自分を奮い立たせる人々は、きっと私だけではないはずだ。
事実を元にした韓国のスポーツ映画と言えば、2004年アテネ五輪・銀メダルのハンドボール女子代表を描いた『私たちの生涯最高の瞬間』(2008年)、1991年世界卓球で結成された南北統一チームを描いた『ハナ〜奇跡の46日間』(2012年)など、愛国心や民族的アイデンティティを揺さぶる作風が特長だが、『リバウンド』には堅苦しさや押し付けもない。
国籍も世代の垣根も越えて、多くの人々に贈る人生エールがこの作品には込められている。韓国から届いた『リバウンド』、この機会にぜひ日本の皆さんにも“キャッチ”してほしい。