あらゆる差別が禁じられている「はず」である我が国。しかし現役の精神科医で作家の和田秀樹さんによると、日本においては公然と高齢者差別が行われていると言います。和田さんは今回、自身のメルマガ『和田秀樹の「テレビでもラジオでも言えないわたしの本音」』で、テレビ朝日系列のワイドショーが執拗に繰り返す「高齢ドライバー叩き」を取り上げ、その偏向性を糾弾。さらに同報道を巡り露呈したコメンテーターたちの「無知さ加減」を紹介するとともに、ノーマライゼーションの流れに逆行するかのような日本の高齢者の扱いに疑問を呈しています。

堂々と差別が許される高齢者

また、『モーニングショー』で高齢者による死亡事故が過去最高になったと取り上げられていた。

元データを検索すると警察庁が今年の3月に発表したもので、75歳以上の高齢者が起こした死亡事故は過去最高の379件だという。

免許人口10万人当たりの死亡事故は5.7件で、75歳未満の運転者(2.5件)の2倍以上だったとのことだ。

このメルマガでも何度も問題にしているが、75歳以上の死亡事故は4割が自爆であり、人をはねる事故は2割いかない。ところが75歳未満の場合は人をはねる事故についてはそれより若い年齢の人たちと大して変わらない。これだけの免許返納圧力の中、75歳以上の高齢ドライバーの場合、生活のために運転しているはずだ。それに対して75歳未満の免許人口は、かなりの割合でペーパードライバーが含まれる。2017年のアンケート調査ではペーパードライバーと答えた人は28%だったという。

運転機会に対する人をはねる死亡事故ということであればむしろ75歳以上の高齢者のほうが少ないくらいのはずだ。

それなのに、この番組でコメンテーターたちが公然と高齢者の差別をする。

昔、古市氏という社会学者が言ったように、若い人は免許が取れないのだから、年齢の上限を設ければいいという女性コメンテーターもいた。

世界中のどこを探しても免許保有に上限を設けている国はないが、世界中のどこの国でも子供でも免許がもらえる国はないはずだ。成人になるまでは、子どもの安全を守るために飲酒だって、喫煙だって、ポルノだって世界中どこの国でも禁止されるが、成人になってからは年齢による差別が禁止されているのが世界のすう勢だ。日本は先進国で唯一(韓国だってある)年齢差別禁止法がない上に、テレビでは堂々と年齢差別をする。さらに、免許の上限年齢を作れとさえいう。

こいつらに人権意識があるのだろうか?

仮に統計をとって女性ドライバーのほうが事故が多いとわかったら、女性に免許を返納しろという人間はまずいない。あるいは、外国人ドライバーのほうが事故が多いとわかっても(これはかなり可能性がある)、外国人には免許を取らせるなとは言わないだろう。高齢者だから差別が許されるのだ。

高齢者の死亡事故が多いと言っても、2万人に一人の話である。人をはねる事故に関しては、10万人に一人だ。10万人に一人のために、残りの99,999人が運転してはいけないというのがテレビの発想だ。

ほかの年代の人間だって事故を起こしているというのに。

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さて、それ以外にも、今回はテレビのコメンテーターたちが無知をさらけ出した。

これらの事故の多くが、「ボンヤリしていた」「覚えていない」という事故だという。

要するに意識障害による事故である可能性が高い。

それを指摘する人が誰もいない。

高齢者にいかに意識障害が多いかも知らないし、その原因が薬の飲み過ぎだということも知らない。ひろゆき氏と対談した際に、「飲酒運転を禁止するのに、薬のほうが危ないですよね」と素朴な疑問を投げかけられた。普通にものを考えられる人間なら、そう思うだろう。もちろん、ひろゆき氏が優秀なのだが、そういう人間がテレビのコメンテーターには誰もいない。それとも玉川徹氏が大好きな「電通」に止められて薬の副作用と言えないのかもしれないが。

ここで、認知機能テストだけでなく、運転技能テストもやれという話も出たが(高齢者にだけそれを強いるなら立派な差別だが)、意識障害による事故は運転技能テストをクリアしている人だって十分に起こす。実際、認知機能テストはまったく役に立っていないといっていい。池袋の事故だって、福島の事故だって認知機能テストはクリアしていた。おそらく運転技能のテストも池袋の運転者も、福島の運転者もクリアしていた。

薬を5種類以上飲んでいる人に、免許をサスペンドするというのなら話はわかるが、医師会と製薬会社が許さないだろう。

かつてはてんかんの人は運転を許されなかったが、「運転に支障するおそれのある発作が2年間ないこと」を条件に免許取得が許されるようになった。このノーマライゼーションの流れを、超高齢社会である日本では高齢者にだけは逆行するというのはどういうことだろう。

※本記事は有料メルマガ『和田秀樹の「テレビでもラジオでも言えないわたしの本音」』2023年9月30日号の一部抜粋です。

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