さび色をした木星の衛星イオは、知られているかぎり火山活動が最も盛んな天体だ。表面のあちこちに都市よりも広い溶岩の海があり、空には火山が吐き出す噴煙が地獄の傘のように広がっている。だが、イオはいつからこのような天体になったのだろうか? 科学者たちはこれまで、イオがたどってきた歴史についてはほとんど何も知らなかった。

 2024年4月18日付けで学術誌「サイエンス」に発表された論文によると、イオは何十億年も、ことによると太陽系が誕生して間もない45億年前からずっと噴火を繰り返してきたようだ。

 太陽系の天体の姿は、天文学的な時間スケールで見れば地球も含めて不変ではない。土星の環ができたのはわずか数億年前だと示した近年の研究もある。しかし、イオの活発な火山活動は、太陽が輝き始めた頃からずっと続いてきたのだ。

火山の楽園

 イオの火山活動に関する研究は1979年に始まった。この年、米航空宇宙局(NASA)の探査機ボイジャー1号が木星系を通過し、イオの表面の火山から噴き上げる巨大なプルームを撮影したのだ。また、独立の科学者チームが行った計算から、イオに異様で強力な熱源が存在している可能性が示された。

 この予測は、イオと、同じく木星の衛星であるエウロパとガニメデの奇妙な軌道運動から導き出された。ガニメデが木星のまわりを1周するたびに、エウロパは2周し、イオは4周する。「軌道共鳴」として知られるこのリズムは、イオの公転軌道を変化させ、円ではなく楕円の軌道をとらせている。

 楕円軌道をめぐるイオが木星から受ける引力は、木星に近いところではさらに強くなり、遠いところではやや弱くなる。そのためイオは周期的に変形していて、軌道を1周する間にその表面は約100メートルも上下している。

 この変形により大きな摩擦が生じ、恐ろしいほどの熱が発生する。「潮汐加熱」と呼ばれる現象だ。イオの内部では、この熱が大量の岩石を溶かし、おそらくマグマの海を作り出している。それにより、イオの地表で激しい噴火が起こり、地球の多くの川よりも長い溶岩の川が流れ、硫黄を多く含む溶岩が空高く噴き上げられ、地下世界への入り口のような火口ができていると考えられている。

「驚異的です」と米カリフォルニア工科大学の惑星天文学者で、今回の論文の筆頭著者であるキャサリン・デ・クレア氏は言う。「イオに火山があるからこそ、私たちはその内部で何が起きているかを知ることができるのです」

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