トライアルと呼ぶには少し寂しい現状かもしれない。以前の「4歳牝馬特別」時代にはメジロラモーヌやマックスビューティなど、幾多のオークス馬を輩出した一戦。しかしながら01年にレース名が「フローラS」に改称されて以降、ここと本番を連勝した馬は1頭しかいない。今回はそんな貴重な存在であるサンテミリオンの軌跡を振り返りたい。

 サンテミリオンは父ゼンノロブロイ、母モテック、母の父Last Tycoonの血統。秋古馬三冠を達成した父の初年度産駒として、社台ファームでの育成段階から大きな期待を集めた。3歳1月の新馬を1番人気に応えて快勝。続く若竹賞も制し、一気にクラシック候補に浮上した。重賞初挑戦となったフラワーCの3着を挟み、オークスの出走権をかけて挑んだのがフローラS。東京芝2000mでは不利とされる8枠15番ながら、単勝オッズ1.9倍の圧倒的1番人気に支持された。そしてファンの目が正しかったことは、レースで証明されることとなる。

 横山典弘騎手に導かれたサンテミリオンは、スタートを決めて2番手へ。前半1000mは60秒6のスロー。結果的にこの時点で「勝負あり」。逃げ粘るアグネスワルツを残り200mでかわすと、悠々と先頭でフィニッシュ。あっさりと重賞初制覇を果たした。

 続くオークスでも再びピンク帽の8枠17番を引き当てたサンテミリオン。この日は一転して中団からの競馬となった。そして迎えた直線、馬場の中程から脚を伸ばすと、外から迫る桜花賞馬アパパネとの一騎打ち。どちらも譲らず、鼻面を合わせてゴールに飛び込んだ。長い長い写真判定の末、電光掲示板に灯ったのは「同着」の2文字。JRAのGIでは史上初となる1着同着という驚きの結末となったのだ。勝利騎手インタビューを受けながら、互いを讃えるように抱き合ったアパパネの蛯名正義騎手とサンテミリオンの横山典弘騎手。2人の満面の笑みを記憶しているファンは多いはずだ。

 このレースで力を使い果たしてしまったのか、その後は引退までの13戦、一度も馬券に絡めなかったサンテミリオン。そして今年3月にこの世を去った。だが、フローラSとオークスで見せた熱い走りは、いつまでも語り継がれるに違いない。