EC・通販CRMツール「うちでのこづち」を提供するE-Grantが今年1月、「ブランドローンチ&グロース事業部」を立ち上げた。CRMのツールやコンサルティングなどのサービスに加えて、商品開発や新規顧客のマーケティングまで包括的に支援していく。LTVを重視したCRM支援のリーディングカンパニーとして、CRMを起点にワンストップでEC・通販企業を支援できる体制を整えていく。サービス領域やチャネルを拡張することで、「No.1総合CRMカンパニーというビジョンを実現する」と意気込む代表取締役 北川健太郎氏に新事業の狙いや展望を聞いた。


<CRM起点のマーケティングへの変化を先導>
――EC・通販CRMツール「うちでのこづち」以外のサービスも強化しているのか?

クライアントへ提供できる価値やサービスの領域は広がっている。当初は「うちでのこづち」というツールを導入いただき、クライアントの状態を見える化し、マーケティングオートメーションでLTVの向上を支援してきた。

通販業界はプレイヤーが増え、当社のクライアントにおいても競合が増え、新規の顧客獲得が難しくなっている。そうした中、クライアントがCRMに注力する度合いが上がってきている。

この流れを受け、当社としてもツールを提供するだけではなく、ツールの運用代行やCRMコンサルティング、課題解決支援まで提供するようになってきた。CRM領域でもサービスを広げているが、CRM領域外にもサービスを広げている。


▲「No.1総合CRMカンパニー」としてCRM領域でもサービス広げている

――CRM以外の領域に進出する狙いは?

CRMへの投資を強化する流れはあるものの、CRMへの予算配分はまだ、販促費の5〜10%しかないのが実情だ。新規獲得のためのマーケティング重視の企業が多く、「獲得後にどう継続していただくか」「どうファンになっていただくか」をしっかり考えている企業は少ない。

通販を含めて、あらゆる産業が今後、成熟化していく中で、「今いるお客さまとの関係値をどう強くしていくか」「ファンをどう増やしていくか」というCRM起点のマーケティングが今後、スタンダードになっていくだろう。私たちはその変化を待つのではなく、自分たちが主導して、その流れを作っていきたいと考えている。

そのために、私たちはCRMだけでなく、CRMによる顧客の事業成長を実現するために新規獲得からサイトでの接客、そして購入後のCRMまで全マーケティング領域をワンストップで支援できるようにする。


▲代表取締役 北川健太郎氏


<LTVを成果にすれば新規獲得の戦略も変わる>
――新規獲得は広告代理店に任せて、CRMはCRM支援事業者に任せる、という形ではダメなのか?

現状だと広告代理店とCRM支援事業者は分断されている。広告代理店が一部、CRM支援を手がけているところもあるが、私たちから見ると専門性は低い。新規獲得からCRMまでのファネルは本来、統合されるべきだと考えている。

私たちが標榜している「LTVを向上する」「顧客との関係値を深める」も、新規獲得から携わることができた方がコミットできる。私たちがCRMで培ってきたデータを活用することで、どういう風に新規獲得のマーケティングを行い、CRMにつなげていくと、クライアントの事業成長につなげやすいかが分かる。LTVの観点から集めたデータは、マーケティングに転用できると考えている。

広告代理店は新規獲得の広告が上流でCRMが下流だと考えており、マーケティングは上流から下流への川下りのように捉えているが、私たちは逆にCRMから新規獲得の広告を考えていくので、川を上っていくイメージだ。こういったマーケティング戦略ができる企業はない。これを行うことがCRMを促進させることにつながると思っている。その結果、クライアントの成長を実現できると考えている。

――CRM起点の新規獲得は、既存のマーケティングと具体的にどう変わるのか?

新規獲得の広告運用とCRM施策が分断されていることで、LTVを上げる施策が思うように実現できないケースがある。CRM起点で新規獲得から手がけることができれば、この流入チャネルから獲得したユーザーに、こういうCRMのシナリオを作ろうというような、一気通貫して、LTV高めるためのマーケティングを設計できる。新規獲得とCRMの両方を見ることで、LTVを成果としてさまざまな施策の設計や検証が可能になる。

広告代理店はCPA・CPOで成果を判断している。その弊害として、低いCPA・CPOで獲得した顧客のLTVが低いというケースがある。分かりやすい例だと媒体によって動画やSNSでの獲得CPA・CPOは低いが、LTVも低いというものがある。CPA・CPOの高い低いに関わらず、LTVが高い方が結果として良い。LTVベースで予算配分することで、新規獲得のやり方も変わってくる。

多くの企業で新規獲得を担うマーケティングの担当とCRMの担当が分かれているため、ある媒体から獲得した顧客のLTVが低かったとしても、その情報が広告代理店まで伝わらない。そうすると目先のCPA・CPOが低い媒体から獲得し続けてしまい、CRM側で手を打っても、一向にLTVが上がらないということになる。

私たちが新規獲得に携わることで、広告運用をリアルタイムにコントロールできるようになる。LTVを見ながら毎月、PDCAを回していくことができる。既存の広告代理店と併用して、比べてみてもらうことで、その成果を実感してもらえると思う。


<「ブランドローンチ&グロース事業部」を設立>
――具体的にどのような支援を行っていくのか?

今年1月、「ブランドローンチ&グロース事業部」を立ち上げた。CRMを起点にブランドの立ち上げから新規顧客の獲得、CRM施策まで支援する。

ECの立ち上げでは、商品開発から支援する。D2Cに参入したい企業は増えており、競争は厳しいが、当社が持つCRMデータをひも解き、ブランドや商品開発の成功確率を上げていく。

新規顧客獲得の支援はCRM起点のプランニングをしながらも、運用面ではパートナーとなる広告代理店と支援していく。新規獲得の予算も取りに行くと言ったが、広告代理店の仕事を取るのではなく、パートナーとして共存共栄していきたい。すべてを自分たちでできるわけではないので、パートナーは重要だ。

新規獲得やCRMのマーケティングにおいては、SNSなどのチャネルも重要になる。SNSの支援も手がけていく。さらに、販売チャネルでは、自社ECサイトだけではなく、ECモールの店舗も支援していく。さらに、オフラインとオンラインの融合を図るOMOの支援も行う。

マーケティングをCPA・CPOだけ見て行うのではなく、その先のLTVデータを持っているため、どのチャネルからどう獲得すると、どういうユーザー傾向になるかが分かる。LTVデータを一次情報として持っていることで、最適な獲得方法やチャネル戦略の判断のスピードも上がる。それが強みとなっている。

――サイト上の接客についても支援していくということだが、どのように支援するのか?

CRMの観点から今後その領域も支援していくだろう。LTV向上や優良顧客化においてはサイト来訪時のコミュニケーションも重要だと考えている。

CRMデータも活用し、「前回の来訪からどのくらい期間が空いているか」「以前どのような商品を購入したか」などの属性を理解し、その方に合ったコミュニケーションをサイト上でも行えるようにしたい。メールやLINEなどでやっているコミュニケーションをサイト上でもできるようにするというのは、あるべき姿だと考えている。


▲代表取締役 北川健太郎氏


<「すべての企業にCROを」目指す>
――導入する企業側において、新規獲得のマーケティングとCRMの部署が分かれていると、貴社の新規獲得とCRMが統合されたサービスを生かしきれないのではないか?

われわれのテーマとして「企業におけるCRMのプレゼンスを上げる」を掲げている。CRMの立ち位置はまだまだ低い。それは販促費比率を見てもそうだ。現状ではCRMが日陰の存在になってしまっており、過度にマーケティングに走ってしまい、行き詰っている印象がある。

企業の中のCRMのプレゼンスを上げるために、「CRO(チーフリレーションシップオフィサー)」を広めていきたいと考えている。経営にCRMの最高責任者を置くような形だ。「すべての企業にCROを」という商標を取得したが、この概念を多くの企業に伝えていく。その実現を支援するためにツールやソリューション、人材、教育など必要なものを提供していきたい。

こうした取り組みを通じてCRMのプレゼンスを高め、企業の意識やマーケティングの変化を促していきたい。

――顧客データの統合やマーケティング、CRMの支援まで手がけようとしているECカートもあるが、違いは?

「データを活用してきた」ノウハウをもっているのが大きな違いだ。自社ツールやシステム、チャネルにとらわれず、顧客の実現したい方向性でソリューションを提供できることが明確な違いとなる。それが総合CRMカンパニーである所以だ。

「うちでのこづち」を導入していない企業も多く支援しており、これからはCRMプロダクトの会社からCRMマーケティングの会社になっていくイメージだ。


<「うちでのこづち」はCDPに進化>
――「うちでのこづち」の開発の優先順位が下がるのか?

「うちでのこづち」は「うちでのこづち」で大幅なアップデートを予定している。CRMツールからCRMプラットフォームに変わっていく。

今まではカートと連携して、そこからデータを取得していくという形だったが、今後は「うちでのこづち」がCDP(カスタマーデータプラットフォーム)に進化し、カートのデータだけではなく、ECモールや広告、コールセンター、オフラインなどあらゆるデータを統合してマーケティングができるようにする。CDPになることで、データ活用の度合いが変わってくる。2024年中にリリースしたいと考えている。現在、テストを進めている段階だ。

大手企業の多くはCDPを導入しているが、中堅・中小企業はまだCDPを活用できていない。「データを統合したい」と思っていても、どういうデータを統合すれば効果的なマーケティングができるか分かっていない企業が多い。そういった中堅・中小企業にも活用していただけるプラットフォームにアップデートしていきたい。

――北川氏はネット広告代理店大手のオプトの出身だが、その経験が今回の新規事業に生きているのか?

オプト時代の知見がマーケティングの課題解決や、どうあるべきかを考える糧にはなっている。広告代理店とCRM支援事業者が分断されることの弊害、もしくは専門特化するメリットも理解しているつもりだ。


▲代表取締役 北川健太郎氏


<通販以外の領域にも展開>
――今後の事業成長の展望は?

現在の業績は通販のCRM支援の領域だけで作っている。CRMの販促費率が5〜10%しかなく、今後の支援領域拡大で全販促費率を取っていくことができれば、おのずと業績は10〜20倍になる。そうすると売上高は200億〜300億円になるだろう。

CRMはブランディングも内包していると考えているので、それを踏まえれば伸びしろは、より大きくなる。さらに、われわれは通販以外にも進出していくことを考えており、新しい業界の売り上げが上積みされる。CRMは、そういうポテンシャルを秘めている領域だと思っている。