イスラエルが19日、イランに対する攻撃に踏み切ったと、複数のアメリカメディアが報じました。

今月1日、シリアにあるイラン大使館の関連施設に空爆があり、イランはこの攻撃をイスラエルによるものと主張。13日には、イランが報復として、イスラエルに対し300以上の無人機やミサイルなどによる攻撃を行い、イスラエルもこれに反撃すると宣言していました。

なぜ、攻撃の応酬となっているのかなど、中東情勢に詳しい、東京大学・中東地域研究センターの鈴木啓之特任准教授に話を聞きました。

■「攻撃に踏み切った」イスラエル…“報復を急いだ”可能性?

日テレNEWS NNN

鈴江奈々キャスター

「今回、日本時間の19日、イスラエル側がイランを攻撃したとみられていますが、この攻撃にはどんな思惑があったと考えられますか?」

東京大学・中東地域研究センター 鈴木啓之 特任准教授

「イスラエルとしては報復を急いだ、という形だと私は理解しています。

アメリカによる協力…イランに対しての攻撃でアメリカに協力が得られないということが、ほぼ確実になってきていました。

一方で、イスラエル国内世論、さらには政権内で、イランに対して報復を求める、そうした声も強まっている段階でした。

そこに、来週からイスラエルでは、国民的祝日の『ペサハ』という休日が1週間にわたって続くという状態になります。

この段階で、攻撃を行う、もし報道のとおりであるとすれば、比較的、抑制していた形での攻撃であったと評価していますけれども、この攻撃を行い、様子をみている…こうした状況なのではないかと評価をしています」

鈴江キャスター

「やはり、お祭り、休日の間というのはなかなか、そういった攻撃には踏み切りづらい背景があったということですか?」

東京大学・中東地域研究センター 鈴木啓之 特任准教授

「そうですね。やはり、軍として動かしにくい、という事情はあると考えてよいと思います」

鈴江キャスター

「そういった背景もあって急いだのではないか、ということなんですが…」

■イスラエルとイラン“攻撃の応酬” きっかけは大使館施設への攻撃?

日テレNEWS NNN

鈴江キャスター

「このように長い間、敵対関係にあるイスラエルとイラン、なぜ互いに直接攻撃する、どちらも攻撃するという一線を越えたと考えられますか?」

東京大学・中東地域研究センター 鈴木啓之 特任准教授

「イスラエルとイランについては、武力を介した政治的メッセージのやり取りというのを、これまでも続けてきていたんですね。

イスラエルの周辺にいる(イスラム教シーア派組織)『ヒズボラ』であるとか、(イスラム組織)『ハマス』といった武装勢力をどうやらイランは支援をしているらしい、そのようにイスラエルとしては考えています。

そして、イラン国内で特に各関連施設では爆発であるとか、または“スタックスネット”と呼ばれるようなウイルスによるサイバー攻撃などが行われてきていた。

お互いに、直接的には関わらないけれども、攻撃をしているのは相手側だろうというふうに理解をするような関係が続いてきたんですが、やはり、4月1日のシリアでの大使館施設への攻撃、これが、“一線を越えた”というふうに言えると思います。

イスラエルとしては、大使館であろうとなかろうと、その場所にイランとその他の武装勢力を結びつけるような、重要な人物…革命防衛隊の幹部と言われていますけれども、その人物がいるということがわかった。それに対して、攻撃を優先した、ということです。

しかし一方で、イランとしては、大使館が攻撃を受けた、ここの部分を非常に重く受け止めたというのが実際のところだと思います。自国領が攻撃されたのと同じとみなす、これによって、4月13日、土曜日の夜半、イスラエルに対して直接的に攻撃を行うということに乗り出しました。

ただ、300発撃ったといわれているドローン、巡航ミサイル、弾道ミサイルなどの大半は撃墜をされていますので、あくまで、この段階でもイランとしては武力を介してイスラエルにメッセージを出している、そうした対応をしているのかなというふうに評価しています」

■イスラエルは攻撃をアメリカに“事前通告”…“自らの決定権の範囲”で行動か?

日テレNEWS NNN

鈴江キャスター

「今回、イスラエルは、イランに対する攻撃を、アメリカに事前通告したということなんですが、アメリカはこれを承認しなかったといいます。イスラエルは、アメリカの意向を無視して攻撃に踏み切ったんでしょうか?」

東京大学・中東地域研究センター 鈴木啓之 特任准教授

「私自身としては、まだまだ情報収集は必要だと思うんですけれども、アメリカの支持を得られなかったことが、今回のこの規模での攻撃に結びついたのではないかと考えています。

もし、イランに対してのイスラエルの軍事行動にアメリカが関与するということになれば、もう、アメリカ対イランの関係になってくるわけですね。

中東地域で、アメリカは軍事的行動というのを徐々に控えてきている、これがこの10年の動きでした。イスラエルの動きというのは、それを転換させかねない動きです。

そのために、イスラエルに対して自制を促していく、そういった形でアメリカは動いてきたし、それに関わることはしない、というふうな姿勢をとってきた。だからこそ、イランへの攻撃というのは、イスラエルが自ら責任をとれる範囲、自らの決定権の範囲で行う、そうした決定がなされた結果が今回の攻撃なのかなというふうに考えています」

■報復の応酬 今後イランは…“直ちに報復するつもりはない”?

日テレNEWS NNN

鈴江キャスター

「一方で、イランの高官は今回の攻撃に対して、“直ちに報復するつもりはない”としていますが、どうみますか?」

東京大学・中東地域研究センター 鈴木啓之 特任准教授

「イランは静観する構え、というふうに言えると思います。イランとしては今回の攻撃というものが、少なくとも、反撃に値するものとはみなしていない、つまり、“エスカレーションを望んでいない”というメッセージを発している、というふうに考えられます。

イスラエルとしては、そのメッセージを受け取って、この段階で攻撃を終えるならば、これ以上の拡大はしない、という理解ができる。一方で、さらに攻撃をするのであれば、次の反撃、イラン側からの反撃がありうる、そうしたメッセージを受け取った状態にある、というふうに言えます」

鈴江キャスター

「いま、イランとイスラエルの攻撃の話をしていましたが、今回のこういった動きが、中東の別の地域に広まったり、また、エスカレーションしていくような、拡大していくような可能性というのは考えられるでしょうか?」

東京大学・中東地域研究センター 鈴木啓之 特任准教授

「常にそれは考えておかなければいけないですけれども、いま行われているのは、“武力を用いた政治的駆け引き”です。

両国の“開戦の火ぶたが切られた”とは、私は理解はしていません。お互いが、危険なバランスで駆け引きをしている。

もちろんそこには、一歩間違えば全面戦争になる可能性というのは常にあります。ただ、まだその段階ではない、というのが私自身の評価です」