U-23アジアカップ・グループBは、日本と韓国が2連勝で最終戦を残しリーグ突破を決めた。大会前は《死のグループ》と見られたグループBであったが、日本と韓国の強さが際立つ結果となり、最終日の日韓対決はどちらがグループ首位で準々決勝に進むかだけが焦点となってしまった。

 1位通過ならばインドネシア、2位通過ならカタールと、ベスト8の対戦相手はすでに決まっている。そうであるならば五輪出場権獲得という目標に向けて、どんな姿勢で試合に臨み、どんな結果を得るのがベストであるのか。日韓両国ともに強いられたのは、難しい状況での難しい戦いだった。

 そんな日韓戦をフィリップ・トルシエが語った。UAE戦はモロッコからフランスへの移動のため見られなかったトルシエは、韓国が勝利を得た日韓対決をどう評価するのか……。

負けたことは批判の対象になり得るが、より重要なのは

――試合にどんな印象を持ちましたか?

「私の印象は……、モチベーションはあったが、日本は試合前からグループ突破が決っていた」

――UAE戦に続いてこの試合でもターンオーバーをおこない、先発を7人替えました。ただそれは韓国も同じで、10人を中国戦から入れ替えました。

「つまり試合の焦点は日本と韓国のライバル意識にあった。勝つためにはより高い強度とアグレッシブさが求められる。しかし日本がアグレッシブさを発揮したのは最後の25分間だけ(註:日本は後半30分にCKから失点し、アディショナルタイムは9分)だった。失点を喫してようやく目を覚ました。

 日本は勝利よりも引き分けを考えているように見えた。消化試合でしかなく、チームはすでにベスト8進出を決めている。特別な動機があるわけではなかった。唯一動機と言えるのが東アジアにおけるライバル意識だった。

 負けたことは批判の対象になり得るが、より重要なのはすでに突破を決めてここまでプレーしていない選手をピッチに立たせることだった。この試合の後で言えるのは、日本が準々決勝に駒を進めたことであり、これからの戦いに向けて態勢を整えたことだ。だから敗北への批判はあっても、それ以外に批判できる点はインテンシティが十分ではなかったことと動きも十分ではなかったことぐらいだ。

両チームの前半は「引き分けで十分」というものだった

 しかし最後の25分間――とりわけ失点を喫してからは、韓国に対して優位性を示した。試合内容でもゲームのコントロールでも韓国を圧倒した。勝利への意志も顕著で、準々決勝に向けての準備を整えたと言える。日本にとって(GKを除き)未出場だった選手全員をピッチに立たせたこの試合は、準々決勝のためのものだった。

 ふたつの分析が成立する。

 ひとつは準々決勝に向けてのマネジメントであり準備だ。もうひとつはどうして日本は勝てなかったのかを追究することだ。負けた理由は明らかで、本気でプレーしたのは25分間だけだったからだ」

――前半に関しては、日本だけでなく韓国も同様に消極的でした。

「どちらも引き分けを念頭に置き、積極的に攻撃を仕掛けなかった。失点もGKのミス絡みだった。コーナーキックに中途半端に飛び出して、ゴールをガラ空きにしてしまった。ディフェンダーもちょっと驚いて対応が遅れた。ミスから生まれた日本の失点であり、どちらも予想しなかった得点だった。ふたつのチームはどちらも相手を挑発したいわけではなかった。引き分けが両者にとって望ましい結果だった。

 実際に両チームが前半に見せた戦いぶりは、引き分けで十分というものだった。日本は不注意と慎重さの欠如から失点したが、その後は同点に追いつくために本気を出し、終盤の攻撃では少なくとも1点を取っていておかしくなかった。日本が見せたのは、同点のための武器を持っていることだった」

インドネシアよりはカタールの方がいい

――日韓はともに勝ち点6で得失点差も総得点も同じでした。引き分けに終わった場合はPK戦で順位を決めることになっていました。どちらもPK戦になることを想定していました。

「それは面白い決め方だ。結局のところ日本は2位で終えたわけだな」

――準々決勝の相手はカタールになりました。インドネシアよりも厳しい戦いになりそうです。

「私はそうは思わない。インドネシアも素晴らしいチームだ」

――とてもアグレッシブです。昨日のヨルダン戦では相手を圧倒しました。

「初戦のカタール戦も、インドネシアが退場者を出さなければカタールは勝てなかっただろう。レッドカードにより試合の均衡が崩れた。準々決勝は韓国には厳しい戦いになる。

 相手が開催国カタールであるのは、日本にとって大きな問題ではない。カタールもまた簡単ではないが、勢いのあるインドネシアよりはカタールの方がいい。日本はここまで素晴らしい戦いを見せている。スター選手こそいないが、グループのクオリティは高く15〜16人がそん色なくプレーできる。今日の試合でも大岩(剛監督)は中盤とフォワードのほぼ全員を途中で交代した。均質なグループであるといえる。素晴らしいコンビネーションを発揮して、コレクティブな質の高さも見せたうえに、強固さ、強さも見せつけた。負傷者もなく、準々決勝に向けてとてもいい準備が出来たと私は思う」

「レフリーの判定に不安は?」の質問には…

――カタール戦で少し不安を感じるのはレフリーの判定です。

「VARがあるから、VAR導入以前のようは不安を私は感じてはいない。VARが控えているうえに、日本のプレーに過激さはないし愚かなファールも犯さない。レフリーの判定が試合に影響を与えるのは確かだが、VARが客観性を保証するから心配はいらない」

――準々決勝を突破したら、次の相手はサウジアラビアが想定されます(註:実際はこの試合の直後におこなわれたイラクとの試合にサウジアラビアが敗れ、イラクが日本と同じヤマに回った)。

「サウジはここまで驚異的な強さを見せつけている。個の力もコレクティブな力も群を抜き、フィジカルも強く自信に満ちている。サウジはこの大会のグループリーグで、最も力強さを発揮したチームだ。素晴らしい準決勝になるのは間違いない。オープンな試合になるだろう。すべてが可能で、日本にも豊富な経験と高いクオリティがある」

――準決勝以降ですが、決勝に進むか3位決定戦に勝てば自動的に五輪出場が決まりますが、3決で負けた場合は7日後(5月9日)にクレールフォンテーン(フランス)でギニアとの大陸間プレーオフです。

「アフリカ勢との対戦は難しい。しかも場所がパリ(駐:クレールフォンテーンはパリ近郊にあるフランス協会のナショナルトレーニングセンター)ではなおさらだ。彼らにとってパリはホームだ」

――しかも彼らは待ち構えています。

「ギニア戦はかなり厳しいものになる。アフリカサッカーの進化は目覚ましい。ただ、それはまだ少し先の話だ。アジア予選で突破を決める方がプレーオフに進むよりずっとシンプルだ」

カタールとインドネシアは同レベル。大きな違いはない

――カタールとの準々決勝が大きなヤマになるわけですね。

「試合はいつだ?」

――木曜日の4月25日です。試合の後で議論の続きをしましょう。

「わかった。繰り返すが日本は準々決勝に向けていい準備ができた。負傷者を出すことなく全員にプレーの機会を与えた。カタールとインドネシアは私からしたら同じレベルだから、1位通過と2位通過に大きな違いはない。

 韓国戦でも日本は最後の25分間だけだが力強さを見せて相手を圧倒した。前半はどちらも相手を刺激することなくプレーしたが、失点により状況が変化した。反攻に出た日本は得点しておかしくなかったが果たせず、2位でのリーグ通過となったがいい準備ができたのは間違いない」

――試合後に大岩監督も、結果こそ得られなかったがこの3試合ではやるべきことをすべてできたと述べています。今日の結果以外はすべてが順調ということです。

「心配する理由は何もない。ここまでの目的は達成された。次は準々決勝から準決勝、そして決勝。五輪切符獲得のためにアグレッシブになる必要があるし、より強度の高いプレーが求められる。しかし日本はそれができるレベルにある。カタール戦では100%の力を発揮すれば道は開けるだろう。そのための準備はできている」

――メルシー、フィリップ。

文=田村修一

photograph by AFP/JIJI PRESS