大岩剛監督率いるU-23日本代表は、U-23アジアカップで優勝し、大陸王者としてパリ五輪に挑む。その18人枠をめぐるメンバー争いでは、久保建英(22/レアル・ソシエダ)未招集が報道されるなど注目が集まっている。現地取材した記者に「今後に期待する選手」と「選手ミーティング裏話」について記してもらった。(全2回)

 パリオリンピックでのチーム編成を考える上で、ひとつ重要なポイントとなるのは、アジア最終予選(U-23アジアカップ)からオリンピック本番まで、わずかに3カ月足らずの時間しかないということだ。

鈴木彩艶と唯人、三戸らはパリ世代の主力だったからこそ

 過去にも最終予選がオリンピックイヤーに行われたことはあったが、最も遅かった1996年アトランタオリンピックのときでも、3月中には終わっていた。

 ところが、今回の最終予選はさらに1カ月以上も遅い開催だったのである。少なくともオリンピックの男子サッカーが現行方式(出場資格は23歳以下。24歳以上は3人まで)で行われるようになって以降、これほどの“過密日程”で日本がオリンピックに臨んだ経験はない。

 必然的に新しい選手を加えてチームを作り直す時間的余裕はなく、最終予選のチームがそのままオリンピックでもベースになるだろう。

 2008年北京オリンピックのときには、最終予選(当時はホームアンドアウエーによる4カ国総当たり)にまったく出場していなかった選手が8人も登録メンバー入りしているが、それは前年のうちに最終予選が終わり、その後に2度の海外遠征も含めた十分な準備期間があったからこそできたことだ。

 オーバーエイジ(OA)枠をフル活用すれば、3人の選手が初めてチームに加わることになるのだから、新たに加える人数としてはそれだけで限界に近い数だろう。

 ただし、最終予選に招集できなかったパリ世代の海外組については、別枠で考える必要がある。というのも、彼らのなかにはこのチームでプレーするのが初めてではない選手もいるからだ。

 それどころか、鈴木彩艶、鈴木唯人、三戸舜介などは、最終予選以前に行われた親善試合やU-23アジアカップ予選では中心的な役割を務めてきた選手である。最終予選に出場していないといっても、新たに加わる難しさはほとんどないと考えていい。

 しかも、鈴木唯や三戸は複数のポジションをこなせる選手だけに、わずか18人の登録メンバーで最大6試合を戦わなければならない大会にはうってつけだ。むしろ積極的に加えたい戦力だろう。

“弱点”扱いされたCBは木村と高井が成長した

 では、具体的にパリオリンピックの登録メンバー18人を考えてみたい。

 まずはチームの根幹をなす選手を、最終予選の登録メンバー23人のなかから選ぶことにするが、幸いにして彼らは、最終予選というおよそ1カ月間の“強化キャンプ”を通じてたくましく成長した。

 例えば、センターバック。このポジションはかねてからパリ世代の弱点と指摘され、OAによる最大の補強ポイントだと言われてきた。

 だが、木村誠二と高井幸大が最終予選で見せたプレーは、オリンピック本番でも引き続き見てみたいと思わせるもの。少なくとも、センターバックを2枚ともOAで固めてしまうのはもったいないと思わせるものだった。

 オリンピックまでの準備期間がほとんどないことを、過度に心配する必要はないだろう。

最終予選組の“確定10人”は誰?

 最終予選でのプレー時間やその内容から判断して、まず選んだのは、GK小久保玲央ブライアン、DF関根大輝、高井、木村、MF藤田譲瑠チマ、山本理仁、松木玖生、荒木遼太郎、平河悠、FW細谷真大の10人。基本的には先発でピッチに立ち、1試合フルに働ける選手たちである。

 荒木についてはポジションや役割が限定され、18人しか選べない大会には不向きな面もあるが、彼にしかない技術やアイディアはやはり捨てがたいものがある。藤田、山本、松木はいずれも中盤の3つのポジションをどこでもこなせるゼネラリストであり、スペシャリストをひとり加えても問題はないはずだ。

 ここに、最終予選には招集されなかった海外組のなかから、鈴木彩、鈴木唯、三戸の3人を加える。

左SB伊藤、CF上田、CBとリーダーとして板倉

 そしてOAには、最終予選を通じて手薄に感じた左サイドバックに伊藤洋輝を、同じくポストタイプのセンターフォワードに上田綺世を、そしてセンターバックとしてだけでなく、リーダーとしての役割も託せる板倉滉をそれぞれ選んだ。

 今回のU-23代表には、キャプテンの藤田や副キャプテンの山本など、優れたリーダーシップを発揮する選手はいないわけではないが、どちらかと言えば彼らが先頭に立ってグイグイ引っ張るというよりも、一人ひとりが自分の役割を考え、それぞれが行動することでひとつにまとまってきたチームである。山本を含め、総勢4人の副キャプテン(他に西尾隆矢、内野貴史、松木)がいたことも、そんなチームの特徴を表わしているのかもしれない。

 もちろん、それ自体悪いことではないが、さらに大会のレベルが上がり、ピッチ内外で厳しい状況に置かれたとき、いわゆる精神的支柱となってくれるような選手がいることの意味は大きい。

 それだけに、2012年ロンドンオリンピックでの吉田麻也がそうだったように、板倉には積極的にチームを引っ張っていってもらいたいし、伊藤や上田にも、自身の能力を発揮することはもちろん、パリ世代の選手たちを刺激し、彼らのポテンシャルをさらに引き出してくれることを期待したい。

残る2枠で候補となるのは山田楓、藤尾、大畑のうち…

 さて、ここまでに選んだメンバーは16人。残るは2枠ということになるが、ここから先は能力の優劣というより、何を優先するかだろう。

 その候補と考えるのは、大畑歩夢、山田楓喜、藤尾翔太の3人だ。

 山田には左足のキックという明確な武器があるが、起用できるポジションは右ウイングに限られる。逆に複数のポジションをこなせるという点では、右ウイングとセンターフォワードをこなす藤尾が有利だが、鈴木唯と三戸が加われば前線の選択肢は増える上、センターフォワードにOAの上田を加えた後では、ユーティリティな能力もさほど意味を持たなくなる。

 一方で、左サイドバックはOAの伊藤を加えたものの、依然として層が薄く、まして伊藤をセンターバックでも併用すると想定した場合、やはり本職の選手がほしいところ。最終予選でも試合を重ねるごとに力強さを増していったプレーを見れば、その筆頭は大畑ということになるのだろう。

 難しい判断ではあるが、セットプレーでの得点力アップのために山田を、左サイドバックの補強のために大畑を、最後の2枠に選んだ。

 あえてサプライズ的要素を加えるとすれば、大畑に代わってバングーナガンデ佳史扶、山田に代わって久保建英というところだが、現実味には欠けるだろう。

久保招集について“もともと肯定的”だったワケ

 久保の招集について言えば、もともと肯定的な考えだった。

 というのも、久保はこれまで常に飛び級で年代別代表に選ばれ続けてきたため、チーム最年少の立場でしかプレーしてこなかったからだ。これまでも先輩の後ろからただついていくだけというタイプではなかったにしても、同年代ばかりのチームのなかで、名実ともにエースとして、リーダーとして、ピッチに立つ経験をすることは、今後の彼の成長に、ひいては日本代表(A代表)の強化にもつながったのではないだろうか。

 もちろん、疲労に対する配慮は当然のことだと理解はするが、本当に久保の招集が見送られるのであれば残念だ。そもそも本当に疲労を心配するのなら、もっと前にやれることがあったのではないかと、不満のひとつも言いたくなる。

布陣で見ると4-3-3全ポジションを複数選手でカバー

 それはともかく、基本的に4-3-3のすべてのポジションを複数の選手でカバーでき、オプションとして2トップを採用することも可能。加えて、スーパーサブ的な仕事ができる選手も異なるタイプで用意できる。メダル獲得を実現するとなれば、6試合を戦わなければならないが、それを前提に必要な選手を選んだつもりだ。

 もちろん、実際の顔ぶれがどんなものになるかはわからない。

 冒頭に記したように、オリンピックまでの準備期間が極端に短いことを考えれば、OAも加えず、最終予選のメンバーだけで臨むという判断もまったくあり得ないものではないだろう。

 いずれにせよ、大岩剛監督はどんなメンバーを選ぶのか。

 その判断に注目したい。

◇ ◇ ◇

 狭き門となる五輪本番の中で、U-23アジアカップを制したメンバーが見せた奮闘は鮮烈だった。現地取材で見えたのは日本代表の伝統とも言っていい「選手ミーティング」について、パリ世代の選手たちの心にも響いている点だという。<つづきは第2回>

文=浅田真樹

photograph by Kiichi Matsumoto/JMPA,NumberWeb