人生は希望に満ちている

こんにちは、アンヌです。
 環境など変化が多いこの時期。ちょっと疲れがでてきたら、気持ちにお休みを。時と共に関係性は変わってゆくし、新しい出会いも絶えることない。そんなふうに楽に考えるようになりました。
 私が10代の頃。パリの実家は文化芸術関係の人々で常に賑わっていましたが、そのなかにある画家夫妻がいました。大人たちはディナーに来ては夜通しでディベート(討論)。白熱してくると大声が家中に響きます。翌日に学校を控えた私は寝付けず、困ることもよくありました。ちなみに、ディベートというと喧嘩のように思われがちですが、フランスでは、深い友情を育むのに欠かせないものなのです。
 さて、私は大人になり、日本暮らし。歳を重ねた夫妻と両親は交流を続けているようでしたが、もう彼らの声に睡眠を妨げられることもなくなり、やれやれ。
 そして訪れた2020年3月。ロックダウンが始まったばかりのパリで、(両親の友人の)画家の夫の突然の死。原因はCOVID-19。その妻の女性はどうしても最後にひと目だけと、タクシーもない静まり返った夜道を2時間かけて病院まで歩いたと人伝に聞きました。
 今年になり、その女性から突然連絡が。東京に行くので、ランチでもと。
 久しぶりに会った彼女は、「もう70歳よ」と笑っています。食前酒と前菜が運ばれると、独り身になった悲しみをゆっくりと打ち明けてくれました。それから夫の画家としてのエピソードなど、思い出話は尽きず。さらに最近はようやく楽しみを見つけたというのです。フィンランド出身の指揮者マケラのコンサートを求めてあちこち飛び回っていると。いわゆる推し活です! 私も一人でコンサートに行くほどのクラシック好き。いよいよ二人でキャアキャア。もはや両親の友人というよりも、学生時代からの親友同士のように。
「ねえ、一人じゃ、さすがに寂しいでしょ? そろそろ恋人作ったら?」
70、80になろうとも、常に恋愛に積極的なフランスの感覚を思い出し、私はそう聞きました。
「そうねえ……」
しばらく黙ったのち、皺の少ない頰を緩めて「まだいいかな」と。
70歳の彼女から聞いた「まだ」。この言葉にこんなに希望に満ちた響きがあるなんて。私は胸がいっぱいになって食後のコーヒーを啜りました。
 長い人生、いつどんな素敵な展開が待っているか分からない。今回は、そんな気持ちにさせてくれる2冊を選びました。

*次のページではおすすめの2冊をご紹介します

『100年たったら』

作/石井睦美 絵/あべ弘士
(アリス館 1,650円)

 昔、広い草原にりっぱなライオンがひとりで暮らしていました。そこへ飛べなくなった一羽の小鳥が。餌食にしないで二人でいたい。次第に友情を育むようになります。100年が経ち、ライオンと鳥はいかに、そして最後には……。関係性は時と共に変わり、大切なつながりは残ってゆくというメッセージにも。私たちのこれからに光を投じてくれるような、ビッグ作家二人による作品です。

『おおきな木』

作/シェル・シルヴァスタイン 訳/村上春樹
(あすなろ書房 1,320円)

 大好きな大きな木のところへ毎日やってくる少年。葉っぱを集めたり、枝にぶら下がったり。木陰で休むことも。そんな少年の成長を木は静かに見守り続けます。年月と共に、木は少年が要求するものを与え続け……。村上春樹の優しい文体の訳で、無償の愛が心を揺さぶる世界的名作。長い年月の間に、関係が変わっても、与えること、受け入れること、そして思いやることはきっと喜びとして残ると思わずにはいられないでしょう。


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