1988~1996年に雑誌「モーニング」(講談社)で連載された、かわぐちかいじによる大ヒットコミック「沈黙の艦隊」を原作とし、大沢たかお主演で2023年に実写化された映画『沈黙の艦隊』。

その劇場版に未公開シーンを加えた完全版としてドラマ「沈黙の艦隊 シーズン1 〜東京湾大海戦〜」が、Prime Videoにて世界独占配信される(1〜6話が2月9日(金)、7〜8話が2月16日(金)に配信開始)。日米が極秘開発した原子力潜水艦シーバットの艦長・海江田四郎はある日、核ミサイルを積載したままのシーバットを奪い逃亡する。そして自らを国家元首とし、真の平和を求める独立戦闘国家「やまと」を全世界に宣言する。

大迫力のリアルな潜水艦アクションもさることながら、「やまと」を追跡する海上自衛隊、日本政府、アメリカ海軍と政府とそれぞれの思惑が絡み合う緻密な人間ドラマが描かれる本作。 核戦争や国際政治の問題提起を絡ませ、雑誌連載当初から、読者のみならず、国防関係者などでも話題となった「沈黙の艦隊」。今回、本作の主演兼プロデューサーを務める大沢たかおさんに、作品への想いを伺った。

自分ができることをする責任

ーー昨年秋に劇場映画として公開され、今回はドラマシリーズとして全世界配信される「沈黙の艦隊」ですが、このプロジェクトにプロデューサーおよび主演として参加されたきっかけから教えてください。

原作コミックスは30年以上前のものですが、そもそも実写化が難しいと言われていました。実現不可能と言われるような作品の中でも、極めて難しいテーマだと思うんですよ。でも、そのテーマ性は全く色褪せていない。もし映像化ができるなら、面白いだろうなと思ったのがきっかけですね。

ーーまず映画公開ありきで、その後ドラマにしようという流れだったんですか?

いや、それはないですね。基本的には長い話なので、映画1本で終わる話ではないんですよ。

劇場版が公開されたときに、原作をかいつまんで2時間の作品にまとめるんだろうなと思った方もいると思うんですよ。その方が現実的ですしね。でも、こちらとしては、全くそんなつもりはなく、むしろ長い戦いになると思って作っている。だから観客のみなさんも、まさかこんな形になるとは思っていなくて、意外に思っただろうな、と感じています。

ーーそうですね。びっくりしました。

制作準備をする中で、どんどん話が広がって、Amazonさんが参加することによって、桁違いの世界になっていく。そのスケール感も含めてね。

1本の映画にして終わりという次元のエンターテインメントじゃないとなってからは、関わってくれる人たちも、規模も巨大になっていって、ここまで来た感じです。

ーープロデューサーとして、大沢さんが防衛省、海上自衛隊に協力体制を仰いだと伺いました。演者以外での作品への参加は、いかがでしたか?

とにかくこの作品を成功させたい一心でした。防衛省への協力をお願いしたときは、しがみついて、”許可を!”みたいなね、もうそのぐらいでしたよ(笑)。 我々には、責任があると思うんです。このプロジェクトをやろうと、最初に言い出した我々は、手を挙げた以上は逃げられない。もちろん逃げる気もないし、どこまででも責任をとる覚悟はできている。最初から最後まで責任をとる。プロデューサーって、そういうことなのかもしれないと思っています。

世界のあり方が問われている

ーー記者会見の際、この作品を「この時代に生きる全ての人間に送る」とおっしゃっていたんですね、大沢さんが‥‥。

あれは、格好つけて言っただけです(笑)。

ーー現在、実際に世界で戦争が起きています。今を生きるみんなが、本作のテーマをリアルに感じるようになったと思います。大沢さんご自身は、制作中とドラマシリーズがリリースされた現在とで、感情の変化はありましたか?

いや、最初の思いから全く変わってないです。元々、世界は危うい綱渡りをしているようなものだと思っているんです。ひとつの歯車が狂ったら、大変なことになるようなギリギリの世界で生きているのが、今の我々なんだろうな、ってずっと長いこと感じていてね。

この「沈黙の艦隊」っていう作品を制作できることになり、今の日本の問題や、世界の問題、その未来に対しての思いとか、希望みたいなもののために、何かエンターテインメントで出来ることはないか、ということから、みんなで決めたテーマがある。だから防衛省も、日本政府も、賛同してくれたと思うんです。

すごく残念なことだけど、プロジェクトを進行している最中に、ウクライナの戦争が始まって、中東で紛争が始まってしまって、台湾問題も相変わらず厳しい状況が続いている。あっという間に世界が、なにか踏み外しちゃったんですよね。信じられない!っていう考え方が変なわけで、紙一重で今まで乗り越えてきたんだと思うんですよ。

ーー原作の連載開始は30年以上前ですが、いまだにその世界が続いていますからね。

核を保有することで、なんとか均衡を保っている世界が今もあって、そういうテーマがある原作だから僕はすごく興味深いと思ったんです。

ーー本編中、独立国家宣言をした後、海江田四郎が自分たちを受け入れるかどうか「日本の意思を問う」と言います。観客に向けた言葉の様に見えたのですが、それがこの作品のメッセージの根幹なのではないかと思っています。

おっしゃるとおりです。海江田四郎は、ただ物事を引き起こしただけなんですよね。それによって右往左往して、戦って悩んで成長していくのは、日本政府の面々や、玉木くんが演じた「やまと」を追跡する深町艦長だったり、上戸さん演じるニュースキャスターであったり、と実は周りの人々なんです。でもその先には国民がいる。そこに対して彼は、意思を問おうとしているんですよね。

僕もそうだけど、日本でずっと生まれ育って、曖昧な空気の中で僕らは生きてきたじゃないですか。なんとなく蓋をして生きているけれど、その”なんとなく”っていうものに海江田って人は、ボーンって風穴をあけた。

ただ、本作はエンタメ作品ではあるけど、彼、そして仲間たちの命懸けのメッセージだったりするから、”この作品のテーマは何か?”って、僕が答えちゃうと面白くないし、もったいないと思ってます。

ーー爆弾はある、これを含めてどう決断しますか?っていう問いかけですよね。

そう。核保有を許さないっていうアメリカに対して”おかしいでしょ”って、我々は今まで言えなかった。彼は日本を離れたことで言える立場になったんですよ。

海江田四郎は主人公に見えるだけ

ーー海江田四郎は、『キングダム』で演じられたカリスマ性のある王騎将軍とは違い、どこか怖い印象がありました。

王騎将軍ね(笑)。でもね、海江田さんもやばいですよ。不気味以外の何者でもないです。

ーー何手先まで読んでいるんだろうと‥‥。

本当にね。でもね、先を読んでないところもあるんですよ。どう考えているかは僕しかわかってない。

ーーそうなんですか?

ものすごく色々考えて、海江田を分析してみたんですよ。彼自身、ここは曖昧で一か八か、こうやって試してみようとか、ミサイルの落とす位置とか、向こうの出方を見て方向を決めようとかしているんですよ。でもそれをドラマとしてはあえて説明していない。

ーーなるほど。そのほか、海江田四郎を演じる上で注意した点はありますか?

僕が格好良く映って、なんか二枚目なことを言って、主役です!ってなった瞬間、この作品は間違いなくうまくいかない、とは最初に思いましたね。

ーーつまり、主役然として構えないってことですね。

回りくどい言い方かもしれないけど、海江田四郎って主人公っぽいだけで、僕が主役みたいに見えているだけなんです。彼はバタフライエフェクトの発端の人であると思うから、主役のようでそうじゃない。実は主役は周りにいる登場人物であったり、もっと言うとこれから巻き込まれるであろう、国民たちであったりするわけです。

そして「沈黙の艦隊」を観てくれた人が、少しでも気づきや疑問、違和感を持ってくれたなら、その人が主役なんです。そんな物語になってくれれば、僕としてはこの作品は失敗しないはずだと思っているんですよ。

ーーしかも、今ドラマシリーズはAmazonで配信されることで日本以外でも観られるわけで、波及する規模感が違いますよね。

ドラマが始まったら、全世界でどのように観られるのか、僕もわからないです。でも世界中の人は、決して僕が正義の味方には見えないと思うんですよ。特に、僕のこの顔は(笑)。帽子の被り方とか、目線の位置とか、悪者っぽいし‥‥。

作品を観てくれた人が他人事ではなく、海江田が巻き起こした事件に、どんどん巻き込まれていく。そんなことが、少しでも起きてくれたら、言い過ぎかもしれないけど、自分はこの仕事を30年やっていてよかったなと思いますね。

ーー映画やドラマで何かが動いたらすごいことですよね。

でも現に、この間のイギリスで起きた冤罪事件もドラマ化されたから政府が動いたでしょ? あれだってドラマが始まるまで、誰も気にしてなかったって言うよね。

ーー以前から報道はされていたのに、「ミスター・ベイツvsザ・ポスト・オフィス」というドラマシリーズが放送されて、やっと注目された郵便局スキャンダルの件ですね。

あらためて、エンターテインメントってすごいなと思いましたよ。ドキュメンタリーではやれないことをエンターテインメントはできるんです。ドキュメンタリーでは言えないこともエンターテインメントだと言える。エンターテインメントってやっぱり可能性があるんだな、と思いました。

しかも人を笑わせたり、泣かせたり、心にすごく感動を与えられる仕事でもある。その一端を、この作品が新しいスタイルのエンターテインメントとして、担えたらいいなと思っています。

取材・⽂ / 小倉靖史
撮影 / 岡本英理

スタイリスト:黒田領
ヘアメイク:松本あきお(beautiful ambition)

作品情報 Amazon Original ドラマ「沈黙の艦隊 シーズン 1 〜東京湾大海戦〜」

日米が極秘で開発を進めていた原子力潜水艦シーバットを乗っ取り、独立国やまとを宣言した海江田四郎。海自のディーゼル潜水艦たつなみの追随や、アメリカ海軍の攻撃をかい潜りながら、日本との同盟を結ぶべく東京湾へと向かっていく。

監督:吉野耕平、中村哲平、蔵方政俊、岸塚祐季

原作:かわぐちかいじ「沈黙の艦隊」(講談社「モーニング」)

出演:大沢たかお、玉木宏、上戸彩、ユースケ・サンタマリア、中村倫也、中村蒼、松岡広大、前原滉、水川あさみ、田中要次、田口浩正、アレクス・ポーノヴィッチ、 リック・アムスバリー、橋爪功、岡本多緒、手塚とおる、酒向芳、笹野高史、夏川結衣、江口洋介

©2024 Amazon Content Services LLC OR ITS AFFILIATES.原作/かわぐちかいじ『沈黙の艦隊』(講談社「モーニング」所載)

Prime Video にて世界独占配信中

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