2024年からNISA制度が新しくなったことが話題になっています。NISAやiDeCoに興味を持ったものの、まだ始められていないという方も多いのではないでしょうか。本稿では経済コラムニストの大江英樹さんが、税制優遇を伴なった資産形成制度について解説します。

※本稿は大江英樹著『50歳からやってはいけないお金のこと』(2023年5月刊・PHPビジネス新書)より、内容を一部抜粋・編集したものです


iDeCoとNISAは単なる制度の名前

恐らく多くの人はiDeCoやNISAという名前ぐらいは聞いたことがあるでしょう。時々、「NISAはどこで買えますか?」とか「NISAとiDeCoはどっちがお得ですか?」みたいな質問を耳にすることがありますが、これらは全くの勘違いから来る質問です。

これらはいずれも金融商品の名前ではありません。制度の名前です。さらに言えば、どちらも税制優遇があることは事実ですが、その優遇の中身も制度自体の目的も全く異なるものですから、一概にどちらがお得とは言えません。

iDeCoの正式名称は「個人型確定拠出年金」と言います。名前の示すとおり、これは年金です。「年金」と言えば、一般的には厚生年金や国民年金といった公的な年金制度が頭に浮かびます。それは最も基本となる年金ですから当然です。ただ、国の年金制度の本質は保険であって、貯蓄や資産形成ではありません。

これに対して私的年金制度である企業年金やiDeCoなどは、その目的が老後の生活を支えるためである点は公的年金と同じですが、仕組みは保険ではなく、貯蓄や投資を使った資産形成の方法です。老後のために自助努力で資産形成をおこなうための制度ですから税制優遇が与えられているわけです。

さらに言えば、「年金」ですから、加入することができるのは原則として60歳までです(一部例外として65歳まで加入できる場合がありますし、さらに加入年齢を引き上げようという案も議論されています)。

一方、NISAは、その正式名称を「少額投資非課税制度」と言います。こちらも名前のとおり、あくまでも「投資」による利益に対する税金がかからないという仕組みになっている制度です。

こちらは、年齢は関係ありません。一部を除くと、原則、成年に達していれば上限年齢というのは決められてはいません。ただ、iDeCoと異なり、貯蓄に使うことはできず、株式や投資信託などの投資でしか利用できません。


iDeCoの最大のメリットは60歳まで引き出せないこと

iDeCoで運用しているお金は60歳まで引き出すことができません。それをデメリットだと言う人もいますが、それは違います。むしろ60歳まで引き出せないのはiDeCoの最大のメリットです。なぜなら、人生においてはさまざまな出費があるものの、老後資金だけは誰にとっても必ず必要となるからです。

一般的に人は、目の前にお金があるとどうしても使ってしまいがちです。いつでも引き出せるのであれば、老後資金のためと考えていても、いつの間にか引き出してしまうということがあり得ます。iDeCoのように60歳までは引き出せないという仕組みになっているからこそ、自然に老後の資産形成ができると考えるべきです。

また、iDeCoの税制優遇は運用益非課税ということもありますが、それ以上に大きいのが、掛金が全額所得控除になることです。したがって、仮に所得税の税率が10%、住民税の税率が10%だとすると、合計した掛金の20%が年末調整とか確定申告で戻ってきます。これは非常に大きなメリットです。

iDeCoは必ずしも投資のための制度というだけではありません。投資がよくわからないとか不安だというのであれば、iDeCoを使って定期預金で運用してもいいのです。

現在では定期預金の金利はほぼゼロに近いものの、所得控除で掛金の20%が戻ってくるのであれば、年利20%で貯蓄しているのと同じことになります。これも制度が年金だからこその優遇策で、この所得控除はNISAにはありません。


2024年、NISAはかなり使いやすくなる

一方、NISAは2014年にできた制度ですが、2024年から制度の内容が大幅に拡充されます。詳しく書いていくと、それだけで本1冊ぐらいになってしまうので、ここでは重要なポイントだけ述べておきたいと思います。

まず一番大きな制度拡充は、制度が「恒久化」されたことです。今までは口座開設期間と非課税で運用できる期間が定められていましたが、新しいNISAではこれが無期限になります。つまり、いつからでも、そして、いつまでも、非課税のままで投資を続けることができるということです。これはとても画期的なことです。

さらに利用できる金額も大きく拡大されます。従来は最大でも年間120万円であったものが、2024年からは年間投資枠が360万円と3倍に増えます。これもかなりの大盤振る舞いと言っていいでしょう。

ただし、期限は無期限と言っても「生涯投資枠」というものが決められ、新しいNISA制度を使って投資できる上限の金額は1800万円となります。

とはいえ、利便性も格段に向上します。従来は、非課税期間の間に売却すると、その枠はもう使えなくなりました。ところが今回の制度拡充においては、売却すると、その分は翌年に復活し、年間利用限度額の範囲内であれば再度使えることになります。

先ほど「詳しく書いていくと、それだけで本1冊ぐらいになってしまう」と言いましたが、NISAを理解するのに最適な本をご紹介しましょう。現時点で新しいNISAについて最も詳しく、よくまとめられているのは次の本です。参考にしていただけたらと思います。

『大改正でどう変わる? 新NISA 徹底活用術』竹川美奈子・著(日本経済新聞出版)


資産形成にとって最大の敵は「コスト」

資産形成をおこなう場合に最大の敵となるのは「コスト」です。コストとは何かというと、手数料と税金です。

一般的に投資の場合、価格が変動しますから、結果は不確実です。つまり投資の結果であるリターン(利益)をコントロールすることはできません。そして、投資において、手数料と税金という二大コストは確実にリターンに対してマイナスに作用します。だからこそ、できるだけ手数料が安く税金のかからないものを選ぶべきです。

さらに言えば、利益をコントロールすることはできませんが、コストはコントロールできます。手数料の安い商品を選んだり、税金がかからない制度を利用したりすることができるからです。

iDeCoとNISAという2つの制度は、利益に対して税金がかからないということを考えると、投資をする際にはぜひ利用すべき制度だと思います。

加えて、どちらも手数料という点でも大きなメリットがあります。iDeCoの場合は購入手数料のかかる投資信託はありませんし、NISAの場合も制度の中心となる「つみたてNISA」では購入手数料のないものばかりです。これは2024年以降も継続されます。

さらに、iDeCoにしてもつみたてNISAにしても、採用されている投資信託は、多くの場合、金融機関の店頭で販売されているものよりも信託報酬が安いという特徴があります。長期の資産形成においては、信託報酬のような累積していくコストの負担の多寡は極めて重要な要素と言っていいでしょう。