プロボクシングのWBA世界スーパーフライ級王者の井岡一翔(35、志成)が7月7日に両国国技館で、IBF世界同級王者のフェルナンド・マルティネス(32、アルゼンチン)との2団体統一戦を行うことが22日、都内のホテルで発表された。会見にはマルティネスも来日し「血を見る戦いになる」と語るなど、早くも火花を散らした。井岡にとって2022年の大晦日にジョシュア・フランコ(米国)との試合がドローに終わって以来の悲願の統一戦。成功した後には、4団体統一でも5階級制覇でもなく、実現しなかったWBC世界同級王者ファン・フランシスコ・エストラーダ(34、メキシコ)との「ボクシング人生の清算マッチ」を目標にしたいという。

 「至近距離で打ち勝ってKOしたい」

 悲願の統一戦が実現した。
しかも唯一手にしていなかったIBFのベルトもかかる。アルゼンチンからマルティネスが来日して行われた会見で井岡は、高ぶる気持ちを抑えながら感謝と抱負を口にした。
「統一戦は特別な試合なので、この試合ができることに感謝している。前回はドローで統一できなかった。今回は勝ってベルトを取りたい」
WBC世界ミニマム級王者時代の2012年にWBA世界同級王者の八重樫東(大橋)に判定勝利して2団体を統一したが、WBO世界スーパーフライ級王者だった2022年の大晦日に行われたWBA世界同級王者のフランコ(米国)との統一戦は、悔しいドローに終わった。WBO王座を返上し、フランコのWBA王座に挑戦する形で再戦でリベンジは果たしたが、2度目の2団体統一の悲願は、果たすことはできなかった。
当初、ターゲットは、対戦を熱望し続けてきたエストラーダだった。だが、金銭面で合意に至らず、エストラーダは、2階級制覇王者、ジェシー・ロドリゲス(米国)と6月29日に米国で対戦することが決まった。
井岡が交渉の裏舞台を明かす。
「一番にエストラーダを優先する交渉の中でそれが厳しいとなったときに、次の選択肢としてマルティネスを戦えることになった。統一戦は、両団体の認証がないと無理。タイミングなど色んな要素が重なって簡単にできる試合じゃない」
エストラーダ戦にも劣らぬモチベーションを高く保てるビッグマッチが用意された。そしてマルティネスとは少なからず因縁がある。
井岡は2021年に大晦日にIBF世界同級王者のジェルウィン・アンカハス(フィリピン)と統一戦を行う予定だったが、新型コロナウィルスの影響で政府が入国に制限をかけて中止となった。再度交渉を進めていたが、2022年2月にそのアンカハスが破れて王座陥落した。その相手がマルティネスだった。マルティネスは、同年10月の再戦でもアンカハスを寄せ付けず防衛に成功している。
またIBFはまだ腰に巻いたことのないベルトだった。
「黒星の中でもIBFタイトルマッチで負けを喫している。IBFは唯一持っていないベルト。すべてのメジャー団体のベルトを揃える意味で、いちボクサーとして取りたい気持ちが強い」
2014年5月にはIBF世界フライ級王者アムナット・ルエンロエン(タイ)に挑戦したが、プロ初黒星となる判定負けを喫している。

 一方のIBF王者のマルティネスは陽気なラテンミュージックに乗って手を振りながら登場した。
彼もまた「統一戦は待ち望んだ試合。井岡を恐れてはいないし、2本のベルトをアルゼンチンに持って帰る」と闘志を見せた。
元リオ五輪代表。2017年にプロ転向して16戦(9KO)無敗。昨年6月にジェイド・ボルネア(フィリピン)との指名試合に11回TKO勝ちして以来、試合をしていない。インファイトを得意とする好戦的なフックファイター。ボディ打ちもうまく下がることを知らない。中間距離からはスピードのある右フックを独特の角度で放ってくる。
井岡は「ファイターで接近戦の打ち合いに強いという印象がある。彼の距離で打ち勝たないと止めることはできない。その中でKOできたらいい」と冷静に分析した。
マルティネスも「足を使って逃げることをせずに正面で戦い、スペクタクルな試合をする井岡のスタイルは好きだ」と印象を語り「すべてを出し切る。血を見る戦いになるかもしれないな」と負けていなかった。
井岡は昨年の大晦日のV1戦で「倒しにいく」という新境地のボクシングを展開した。
「積極的に攻める姿勢が前回に向けてやってきたこと。自分の考えたことをパフォーマンスにつなげることができ、自信にもつながった。引き続き積極的に攻める」
ポイントアウトを狙わないのであれば激戦は必至。井岡も無傷ではいられないだろうが、年間最高試合候補となる面白い試合になるだろう。

 そして2団体統一を果たした後の目標は、5階級制覇でも、4団体統一でもなく、やはりエストラーダだった。
「まずは、この試合に集中したい」と前置きした上で思いを明かす。
「5階級制覇はより先のこと。この階級で戦いたい相手と戦って証明することができてからのことで、そこまでは発言できないし強く思う気持ちはない。4団体統一についてはベルトに興味があるのではなく、誰と戦いたいか、選手に興味がある。選手との戦いを優先的にやりたい。この試合でベルトを2本とって、その後にエストラーダと3団体統一戦ができたらいい。WBAの指名試合もある」
エストラーダは、井岡の統一戦の約1週間前にビッグマッチが待ち受けている。WBC世界スーパーフライ級王者を返上してフライ級に転向してIBF&WBOの2団体を統一し再びスーパーフライ級に上げてきた19戦(12KO)無敗の軽量級の次世代スター候補として注目のロドリゲスとの対戦だ。ちなみに彼は井岡が2度戦ったフランコの弟。
当然、その実力を知っている井岡が、エストラーダの名前を口にしたのは、その世界戦を勝ち抜くと考えているのだろうか。
井岡に会見の返答に抱いた疑問を直撃した。
WBA王者は笑って否定した。
「ジェシーにエストラーダが勝つと思ってした発言じゃないですよ。エストラーダにとって厳しい戦いにはなると思います」
そして、その真意をこう説明した。
「勝ち負けを想定して名前を出したんじゃないんです。僕はエストラーダと戦いたいから6年前に現役復帰しました、憧れではなく、彼との戦いで、その気持ちを清算したいとの思いが強いんです。だから名前を出したんです」
井岡の言う「気持ちの清算」。それは35歳のボクサーが考えている「ボクシング人生の清算」なのかもしれない。井岡がベルトではなく「戦いたい選手」と語ったのは、そういうことなのである。
ただし2つのベルトを保持してエストラーダと戦いたいのであれば、WBAの王座統一戦をクリアしなければならない。体重超過の“奇人”ライアン・ガルシア(米国)がWBC世界スーパーライト級王者のデビン・ヘイニー(米国)から3度ダウンを奪い、大番狂わせを起こしたタイトル戦の前座カードで、WBA世界スーパーフライ級の暫定王座決定戦が行われ、同級1位のジョン・ラミレス(米国)を5位のデビッド・ヒメネス(コスタリカ)が判定で下して新王者となった。今回は統一戦ということでWBAは、指名試合を見送ったが、次はそうはいかない。だが、そのすべてのストーリーは、マルティネスに勝たねば何も始まらない。
「ファンが熱くなれるような試合をして統一したい」
井岡は来月から米国ラスベガスキャンプに入る。
(文責・本郷陽一/RONSPO、スポーツタイムズ通信社)