吉本興業が誇るギャガーであり、筋肉芸人としても知られるサバンナの八木真澄。現在、テレビのレギュラーは0本(相方の高橋茂雄は10本以上!)だが、主な活動を営業にシフト。結果、昨年の営業・学園祭出演回数が吉本全体で3位と大躍進を遂げていた。SNSでも話題沸騰中、そのロジカルな営業術を本人が語り尽くす。

コンビで営業に行かなくなり、レギュラー番組も0本に

――八木さんがピンでの営業に力を入れるようになったのは、どのような理由からですか?

八木(以下同)
 相方(サバンナ高橋)が「もう営業には行かない」と言ったのが18年前の話で、それからなかやまきんに君と15年ほど、「ザ☆健康ボーイズ」というユニットで営業に出ていました。それが2022年1月にきんに君が吉本を退所してしまって、その翌年には、デビュー以来ずっとあったサバンナのレギュラー番組がゼロになったんです。

そこからですね、ひとりで営業することを本気で考えはじめたのは。

――そもそも、吉本興業における営業の定義とはどのようなものなのでしょうか?

主にショッピングモールのイベントや各地のお祭り、企業の懇親会などでネタをしたり、司会をしたりすることを指します。例えばスポーツの部署の営業だと、運動会などのステージでネタをするに加えて、スポーツ体験に参加することや、実際にマラソン大会でマラソンを走ったりすることもあります。

――八木さんが活躍されている営業において、現場で大切にしていることはありますか?

一番大事なのは、もちろんお客さんに楽しんでもらうことですが、そこで重要なのはお客さんをどれだけ呼べるかですね。打ち合わせを重ねても、実際にお客さんが入ってなかったら「何のための打ち合わせなんや?」となるでしょう。

営業って、たとえ同じ場所でも、時間帯や天候によってお客さんの流れが変わる。ちゃんと集客するための手段として、まず僕はその営業がどのような形で成り立っているのかの「構図」を見ます。

――構図ですか。

営業は様々な方々が関わって下さっていて、主催者がいて、その間にイベント運営会社やキャスティング会社などがいます。誰がどの役割で現場にいるのか、それを瞬時に見極める必要があるんです。

その構図をみて、それぞれの意向を大切にしながら、どこまで自分が介入できるのかを判断する。例えば集客が少なければ出演時間より前に表に出て呼び込みをするのか、お客さんが見やすいように会場のレイアウトを変えてもいいのかなど。

以前、吉本から「1時間」と聞いていた持ち時間が、実際現場で打ち合わせをしてみると1時間半だったことがあって…。「話が違う」となりますが、ここで吉本の社員を追及しても仕方ないので、空気を読んで「やります」と。

営業のライバルは芸人ではない

――1時間半、トークとネタでつなぐのは難しいのでは?

通常の営業だと、芸人数組でネタ+トーク込みの1時間などはありますが、そのときは1人で1時間ということで事前に打ち合わせをして構成も考えていたので、現場でさらに30分追加と言われても、正直できるわけがないんですよ(笑)。

そのイベントは複数の企業が出展している見本市だったので、もともとステージ用に考えていた1時間分の構成に加えて、それぞれの企業ブースに出向いて商品を紹介するコーナーをつくりませんか?とこちらから提案しました。

――提案や相談をしながら、できる方向に持っていくわけですね。

結果的にクライアントが喜ぶ提案ができて、お客さんにも楽しんでもらえたらいいので。

だから、営業は舞台の上だけが仕事じゃないんです。誰がどの役割で、僕の意見でどこまで内容が変えられるかを「構図」を見ながら判断する。じつは営業って、ライバルが芸人じゃないですから。

――ライバルは誰になるのですか?

営業仕事は、何社かのプレゼンがあって最終的に選ばれるものなんです。そのときの競合相手は、お笑いじゃなくてヒーローショーやグルメといった、ジャンル違いのものと戦っている。

そういう「構図」も理解できれば、クライアントが何を求めているのかがわかる。僕は舞台に立つ人間ではありますけど、半分は裏側から営業全体を見ることを意識しています。

――では舞台に立つ出演者として、実際のネタや振る舞いで気をつけていることはありますか?

ネタの内容よりも「八木に会った!」「ブラジルの人聞こえますかー!?バッグをもらった」と話のネタを持って帰ってもらうのが大事ですね。一緒に写真を撮ったり、実際に会話したり。

ルミネなど常設の劇場に来られる方はそもそもお笑いが好きなので、「あれが面白かった、これは面白くなかった」と批評感覚で舞台を見ていますが、営業に集まってくださったみなさんは買い物のついでだったりするので、「あのボケの構成、すごかった」とはならない(笑)。

――玄人向けではない、間口の広いネタやトークが必要ですね。

あとはどれだけシンプルな構成でやれるかです。例えばパソコンを使う芸だと会場の設備をあらかじめチェックしないといけないし、音が出なかったらどうにもならない。どんな環境でもやれるアナログな構造、つまりは身体ひとつでやれるネタにしておくことも大切です。

大手企業の会社員と18年間続けてきたこと

――めちゃくちゃロジカルに考えていらっしゃいますね。

営業を頼んでくださった現場担当者が、何を求めていらっしゃるかも大切だと思います。「一発当てよう」みたいに考えていらっしゃる方もいらっしゃいますし、「ミスなく終えたい」という方も当然いらっしゃいます。

――八木さんのようにロジカルに営業を語る人は他にいらっしゃいますか?

僕はマニアックだと思いますね。長年個人事業主をやっているからか、会社員とか組織の中で生きている人に興味があるんですよ。営業に行き始めてから、僕は会社の組織図を見るのが好きになった。

さらにいえば、中学から大学まで一緒だった友人が大企業に勤めていて、30歳のときから毎日1通、欠かさずメールしているんです。それが18年間続いていて。

――18年ですか!

彼にサラリーマンとは何かを教えてもらいました。例えば社長が辞任したとき、会社に何が起きるのか。そういう会社員のリアルが僕の頭の中に入っているから、営業も俯瞰で見られるところはありますね。

取材・文/森樹
写真/神田豊英

未確認生物図鑑

八木 真澄 (サバンナ) (著), レイザーラモンHG (イラスト)
未確認生物図鑑
2000円(税込)
ISBN: 978-4847074097
サバンナの八木真澄が想像した独創的な未知の生きものを、レイザーラモンHGがリアルで愛らしいイラストに仕上げて命を吹き込む。 そうして生まれた100体の生物のイラストと、その生物の説明テキストをオールカラーで掲載しました。
 
この企画の発端は、八木が何気なくはじめたSNS(InstagramとX)での発信でした。八木が投稿した知られざる生きもののラフスケッチと一言コメントをもとに、HGが色鮮やかでチャーミングなイラストを描きあげていきました。書籍化にあたっては、HGのイラストを見ながら、八木が想像力をかきたてるテキストを新たに書き下ろしています。