長きにわたって続いたスニーカーブームが突如として終焉を迎えた。消費の中心地であるアメリカを筆頭に、ヨーロッパでも販売不振が鮮明になっている。ブーム終焉に喘いでいるのが、業界トップのナイキと第2位のアディダスだ。栄華を誇った2社が中期的に低迷する可能性もある。

ナイキが減収見通しという衝撃

ナイキの2023年12月-2024年2月の売上高は124億ドルだった。前年同期間比でわずか0.3%の増加である。2022年12月-2023年2月は14%の増収と力強く伸びていた。2桁増で好調だったナイキの売上高は、2023年3月からピタリと止まってしまう。

2023年3-5月の売上高は前年同期間比2.0%、2023年6-8月は0.5%増と失速が鮮明になっていたのだ。

ナイキは上期(2024年6-11月)の減収見通しを発表した。コロナ禍の販売不振から急回復していたが、まさに急ブレーキがかかった格好だ。

アディダスの苦境はこれ以上だ。2023年10-12月の売上高は48億ユーロ。前年同期間比で7.6%も減少している。この期間に3億7700万ユーロの営業損失を出した。前年同期間と比較して、1000万ユーロ以上赤字幅は拡大している。

アディダスは2023年に入って四半期単体がすべて減収だった。この数字からも販売不振に悩まされているのは明らかだ。

2社の状況はよく似ている。主力エリアであるアメリカとヨーロッパでの販売が不調なのだ。ナイキは2023年12月-2024年2月アメリカのスニーカー売上は34億ドル。前年同期間比4%の増加だった。増収にはなっているが、2022年12月-2023年2月は31%も増加していた。
2023年12月-2024年2月のヨーロッパのスニーカーに至っては3%の減収だった。前年同期間の売上は39%伸びていたのにもかかわらずである。

消費者は直営店からディスカウント店の廉価版に向かったか

アディダスの2023年10-12月のアメリカエリアは25%の減収。ヨーロッパの売上高も10%減少した。2022年10-12月はアメリカが18%、ヨーロッパが13%の増収だった。スニーカーは2023年に入って、突如として売れなくなってしまった。

背景にあるのは、急速なインフレによる消費の低迷と投機的な水準まで高まっていたスニーカーバブルの終焉だ。

アメリカの2023年通年のインフレ率は4.1%だった。2022年は8.0%まで高まっていた。ただし、インフレ圧力が強まる中でも、景気の腰折れ懸念は払しょくされている。2023年通年の実質経済成長率は2.5%。2022年の1.9%から増加している。個人消費が底堅く推移しているのだ。

小売店は強気の値上げを断行しているが、消費意欲が旺盛なのは富裕層だ。中間層や低所得世帯は生活必需品への支出に切り詰めて、節約志向を強めている。中間層向けの百貨店を運営するメーシーズの2023年度通期の売上高は230億ドル。前年度比で5.6%減少している。同社は不採算店150店舗を閉鎖する計画を明らかにした。

その一方で好調なのがディスカウントストアだ。食料品から雑貨、家電などを大量に仕入れて格安で販売するウォルマートの2023年度の売上高は、前年度比6%増の6481億ドルだった。業績は極めて堅調に推移している。同じくディスカウントストアを運営するバーリントン・コート・ファクトリーも2023年度は1割の増収だった。

ナイキは2023年12月-2024年2月のEC売上高が、2015年以来で初めての減少となっている。メーカーが高単価で販売できる直販ECサイトや直営店から、消費を支える中間層が離脱。ディスカウントストアの廉価な商品に行き着く様子が浮かび上がる。インフレがスニーカー熱を冷ましてしまったのだ。

スニーカーの転売を助長するサービスも登場していた

さらにスニーカーの価格は「バブル」と言っていいほどにまで高騰していた。スポーツ選手や芸能人、インフルエンサーなど話題性の高い人が履いたものは、数十万円の値段がつくことも珍しくなかった。

そのブームで暗躍していたのが転売ヤーだ。アメリカでは、スニーカーの価格が株式市場のように変動して取引を仲介するプラットフォーム「StockX」というサービスまで誕生している。スニーカーが投機の対象となっていることを証明するものだ。

ナイキは2022年に過剰在庫が積み上がり、危険視されていた。しかし、2023年に卸売店に流してそれを解消することができている。これは流通量が増加したことを示唆するものだ。転売マーケットが形成されるほどの過剰な価格上昇、インフレによる中間層の消費の減退、そして過剰在庫を解消するための流通量の増加。この3つの要素が2023年に重なった結果、スニーカーブームは終焉を迎えたのだろう。

ナイキは全従業員の2%にあたる1660人の解雇を表明した。減収への備えとして迅速に固定費削減に動いている。アメリカ企業らしい素早い動きだ。アディダスは業績が好調だった2022年に人員拡大に動いた。その後、大規模な人員削減は発表しておらず、増収に向かわなければ収益性は低下する可能性もある。

春を謳歌していたスニーカー市場の冬の訪れは一瞬だった。過剰在庫を抱えて多額の評価損を計上することになれば、大赤字を出す未来も視野に入る。コロナ禍を乗り越えた先にブーム終焉という悪夢が待っていたとは予想だにしなかったはずだ。

取材・文/不破聡