今年の3歳牡馬戦線は「三冠」初戦のGI皐月賞(4月14日/中山・芝2000m)を目前にしてもなお、混迷を極めている。

 最大の要因は、2歳GIのホープフルS(12月28日/中山・芝2000m)を牝馬のレガレイラ(牝3歳/父スワーヴリチャード)が勝ったことにある。しかも、同馬が同レースからぶっつけで皐月賞に挑んでくる。2〜3歳戦が現在の体系になってから、牝馬がそういった過程を踏むのは初めてのこと。そこに、いくらかの不安が生まれている。


GIホープフルSを制して皐月賞に駒を進めてきた牝馬のレガレイラ。photo by Kyodo News

 また、多くの評判馬、期待馬たちが、前哨戦で敗れたり、態勢が整わなかったりして、クラシック路線から脱落、あるいは絶対的な信頼を置けなくなったことも、その理由に挙げられる。

 発端は、昨秋のGIIIサウジアラビアロイヤルC(10月7日/東京・芝1600m)を完勝したゴンバデカーブース(牡3歳/父ブリックスアンドモルタル)が、人気が予想されたホープフルSにおいて、レース当日に出走を取り消したことにあるかもしれない。結局、同馬はクラシック戦線から離脱した。

 以降、年明けのGIII京成杯(1月14日/中山・芝2000m)では、2戦2勝の1番人気ジュンゴールド(牡3歳/父エピファネイア)が完敗。続くGIIスプリングS(3月17日/中山・芝1800m)でも惨敗を喫して、クラシック路線から脱落した。

 そして、クラシックの登竜門とされるGIII共同通信杯(2月11日/東京・芝1800m)では、GI朝日杯フューチュリティS(12月17日/阪神・芝1600m)の覇者ジャンタルマンタル(牡3歳/父パレスマリス)が苦杯をなめ、評価を落とした。

 皐月賞トライアルでも、そうした流れは継続。GII弥生賞(3月3日/中山・芝2000m)では、トロヴァトーレ(牡3歳/父レイデオロ)、ダノンエアズロック(牡3歳/父モーリス)といったデビュー2連勝中の素質馬たちが、それぞれ1番、2番人気に支持されながら、馬群に沈んだ。

 さらに同レースでは、ホープフルS2着馬で断然の実績を持つ良血馬シンエンペラー(牡3歳/父シユーニ)も2着と敗戦。6番人気のコスモキュランダ(牡3歳/父アルアイン)になす術なく屈したことで、信頼を失いつつある。

 こうして、圧倒的な本命馬が不在のなかで迎える皐月賞。その一戦を前にして、現時点での3歳牡馬の『Sportivaオリジナル番付(※)』を発表したい。なお今回も、皐月賞に出走予定のレガレイラは牡馬ランキングの対象馬とした。
※『Sportivaオリジナル番付』とは、デイリー馬三郎の吉田順一記者、日刊スポーツの木南友輔記者、JRAのホームページでも重賞データ分析を寄稿する競馬評論家の伊吹雅也氏、フリーライターの土屋真光氏、Sportiva編集部競馬班の5者それぞれが、今春のクラシックに挑む3歳牡馬の、現時点における実力・能力を分析しランクづけ。さらに、そのランキングの1位を5点、2位を4点、3位を3点、4位を2点、5位を1点として、総合ポイントを集計したもの。



 1位は、前回と同じくレガレイラ。ポイントは前回から5ポイントアップした。しかしそれは、ライバルたちの脱落によるところが大きく、押し出された1位評価といった感があるのは否めない。

吉田順一氏(デイリー馬三郎)
「つなぎは少し短めですが、クッションが抜群。回転の速いピッチ走法で速い脚が使えるタイプです。道中でゆったりと走れて折り合いがつき、馬込みやキックバックをまったく気にしない精神的な強さが、牡馬相手にも結果を残せた要因でしょう。

 発馬に課題はありますが、適度に荒れた内回りの中山・芝2000mは、高いパフォーマンスが発揮できる舞台設定。逆に、GI日本ダービー(5月26日)の舞台となる東京・芝2400mは、一瞬の脚をどう引き出すかがポイントとなりそう。だとしても、今年の牡馬戦線なら堂々と主役を務めてもおかしくありません」

伊吹雅也氏(競馬評論家)
「3月24日終了時点の一走あたり賞金は2716万円。JRAに所属する現3歳世代の馬としては、アスコリピチェーノ(3440万円)、ジャンタルマンタル(3280万円)に次ぐ単独3位です。

 近年の皐月賞は血統が重要。父にディープインパクト系種牡馬を持つ馬は2020年以降、1勝、2着0回、3着0回、着外18回(3着内率5.3%)、父にキングカメハメハ系種牡馬を持つ馬は2020年以降、0勝、2着1回、3着0回、着外10回(3着内率9.1%)と、それぞれ期待を裏切りがちです。

 レガレイラはこの両父系に属さないスワーヴリチャードの産駒。不安要素は比較的少ないと見ていいでしょう」

 2位も前回同様、シンエンペラーが入った。弥生賞では人気薄馬の2着と不覚を取り、安定感はあるが、パンチ力に欠けるという印象を残した。本番までに上積みがあるかどうかが、巻き返しへのポイントになる。

木南友輔氏(日刊スポーツ)
「前回上位に挙げた馬たちがトライアルでがっかりな結果に終わってしまいました。そのなかで、2着に敗れはしたものの、弥生賞で安定感のある競馬をし、ここまでの激戦を生き残ってきたことを踏まえると、(牡馬クラシックでは)この馬が中心かな、と見ています」

吉田氏
「ホープフルSで走っている舞台に再度参戦した弥生賞。頭が高い走法で、まだまだトモ腰に甘さがあり、本番に向けての不安を解消するには勝つことが一番だったと思いますが、結果的には伏兵のタイミングのいいマクりに屈してしまいました。

 ともあれ、長くいい脚を使って2着と崩れなかったあたりは地力の高さでしょう。現状では心肺機能の強さを生かす、早め早めの競馬を試みてタフな流れに持ち込んだほうがよそそう。上がりの速くなる東京・芝2400mよりは、適度に荒れた中山の芝2000mが合いそうです」


 前回、ポイントタイで3頭が入った3位は、ジャスティンミラノ(牡3歳/キズナ)が単独でランクイン。共同通信杯で2歳王者ジャンタルマンタルを2着に下し、同レース7着のミスタージーティー(牡3歳/父ドゥラメンテ)が次走のリステッド競走・若葉S(3月16日/阪神・芝2000m)を快勝していることから、評価が上がった。

本誌競馬班
「出世レースの共同通信杯をデビュー2戦目で完勝。同レースで破ったメンバーを考えても、現状この世代では最上位の存在と見ます」

 4位は、前回ランク外に落ちたジャンタルマンタルが再浮上。共同通信杯で初めて土がついたが、先を見据えた一戦だったことを思えば、見限るのは早計かもしれない。

伊吹氏
「3月24日終了時点の本賞金は1億3120万円。JRAに所属する現3歳世代の馬としては、牝馬を含めても単独トップです。

 近年の皐月賞は、関東圏の重賞で好走したことのある馬が優勢。東京か、中山の重賞で"着順が2着以内、かつ4コーナー通過順が2番手以下となった経験がない"馬は2020年以降、0勝、2着0回、3着0回、着外42回(3着内率0.0%)とまったく上位に食い込めていません。

 その点、同馬は2着止まりだったとはいえ、前走の共同通信杯で関東遠征を経験したことがプラスに働くはず。素直に中心視していいのではないでしょうか」

 5位には、2頭の馬が新たにランクインを果たした。1頭は、3戦無敗でスプリングSを制したシックスペンス(牡3歳/父キズナ)。春のクラシックは、皐月賞をパスしてダービー1本に絞って全力を注ぐ予定だ。

吉田氏
「回転の速いピッチ走法で折り合いがつき、仕掛けてからのギアチェンジが素早く、瞬発力に秀でたキズナ産駒。同産駒としては異色のタイプと言っていいですが、前述した武器をいかんなく発揮できたのがスプリングSでしょう。

 行き脚よく好位で折り合って、終始ノンプレッシャーで追走。スローの上がり勝負を最高の形で直線に向くと、ラスト3ハロン33秒3という好時計を計測して突き抜けました。

 ただ、馬体や走法などから、この条件がベストだったことは明らか。上がりを要するタフな設定やスタミナ色が濃い舞台になると、不安が出てくる可能性があります。ダービーでは、上がり勝負になることが好走のポイントとなるでしょう」

 5位に入ったもう1頭は、京成杯で2着となったアーバンシック(牡3歳/父スワーヴリチャード)。同レース以降の前哨戦で評判馬たちがふるわず、それらに代わって評価を上げた。

土屋真光氏(フリーライター)
「祖母のランズエッジはディープインパクトの半妹で、ダンスインザダークの子。その娘、エッジースタイルがハービンジャーの子で、同馬にスワーヴリチャードをかけたのが、アーバンシック。その血統からは成長がゆっくりなイメージがありますが、同じく祖母がランズエッジで父がスワーヴリチャードのレガレイラを見てもわかるように、仕上がりは意外と早いです。叔父のヴァルコスがGII青葉賞(東京・芝2400m)で2着となっており、クラシックでの適性の高さも感じます。

 前走の京成杯は後手後手に回った分、不器用な競馬になりましたが、それでも非凡な爆発力があることを示しました。札幌(新馬戦)、東京(1勝クラス)と異なるタイプのコースで連勝したことも、能力の高さをうかがわせます。相手が強化されるクラシック本番でも楽しみです」

 桜花賞前の牝馬戦線以上に混戦の様相を制している牡馬戦線。皐月賞で世代を代表する"主役"が登場するのか、注目である。

著者:text by Sportiva