3月下旬に全30球団が開幕を迎えてから約10日が経過した2024年のメジャーリーグ。パイレーツ、タイガースの好スタートも話題を集めているが、今季ここまで最大のサプライズはレッドソックスの快進撃ではないだろうか。10試合を消化した時点で7勝3敗。得失点差+26は地区首位のヤンキースをも上回ってリーグ2位に位置する。

【関連記事】魔球“ヨーヨーカーブ”の割合が急上昇する一方でカッターはほぼ封印?...開幕3登板に見る山本由伸の「修正能力」<SLUGGER>

 このレッドソックスのロケットスタートは、二重三重の意味で「意外」だった。

 まずは単純に前評判が低かったこと。ヤンキース、ドジャースに次ぐ人気を誇るレッドソックスだが、過去4年間で3度も地区最下位に低迷。オフの補強も至って地味で、熱狂的なことで知られる地元ボストンのファンから経営陣に激しい批判が集中するほどだった。各媒体の順位予想でも、今季も超激戦のア・リーグ東地区で「四強一弱」の一弱と評価する声が大半で、つまりは蚊帳の外とみなされていた。

 もう一つの驚きは快進撃の「中身」だ。具体的に言えば、チーム最大の弱点と思われた投手陣の健闘である。現在、チーム防御率は1.49(!)でMLBトップ。開幕10試合時点では球団史上ベストで、アメリカン・リーグ全体でも1982年のエンジェルス(1.31)以来の数字だという。

 近年のレッドソックスは投手力不足に苦しみ続けていた。22年のチーム防御率は4.53でリーグ13位、昨季も4.52で11位。にもかかわらず、昨オフの目立った補強はルーカス・ジオリトだけで、そのジオリトはキャンプ中に右肘手術を受けてシーズン絶望となった。つまり、実質的に昨季とほぼ同じメンバーで開幕を迎えたにもかかわらず、急激に成績が改善されているのである。

 その要因は、アンドリュー・ベイリー新投手コーチにある、という声がもっぱらだ。 現役時代はクローザーとして活躍し、昨季まではジャイアンツで投手コーチを務めていたベイリー投手コーチの哲学は「各投手の最高の球種を惜しみなく多投すること」。新投手コーチは就任早々、全投手とZoomで面談して個別のメニューを用意。オープン戦でも、詳細な攻略プランを伝授してシーズンに備えた。

 そして迎えた今シーズン、レッドソックスの多くの投手は昨季から球種の配分を一変させた。

 特に劇的に変化したのがタナー・ハウクとブライアン・ベイオで、ここまで2先発時点で何と4シームを1球も投げていない。代わって、ハウクはシンカーとスプリッター、ベイオはシンカーとチェンジアップの割合が増えている。カッター・クロフォードは4シームの割合こそ微減にとどまっているが、ナックルカーブとスプリッターをほぼ封印し、スイーパーを多投するようになった。

 これらはもちろん、ベイリー投手コーチの「最高の球種を惜しみなく多投する」という方針に基づくものだ。結果、ベイオを除く4人が2先発時点で防御率0点台の好スタート。新投手コーチの指導がいきなり最高の結果を出したのだから、「オフの最大の補強はベイリー投手コーチ」との声が上がるのも納得だ。

 9日からはいよいよフェンウェイ・パークでホーム開幕を迎えるレッドソックス。相手は昨季リーグ最多の102勝を挙げたオリオールズを相手に、生まれ変わったチームを印象付けることができるだろうか。

構成●SLUGGER編集部

【関連記事】デビュー直後のTJ手術にイニング制限論争、大型契約の不良債権化...常に論争の中心にいた“ドラフト史上最高の大物”ストラスバーグ<SLUGGER>

【関連記事】ゲッツーで試合終了のはずがまさかの悪送球でサヨナラ...意外な快進撃を続けるパイレーツが2試合連続の劇的勝利<SLUGGER>

 【関連記事】現地でにわかに注目を集める“今永の13球”。ジャンケンに例える独自の投球哲学にチームメイトの頭脳派右腕も感服<SLUGGER>