【ノースヒルズと日本ダービー/2】

ダービーを制したワンアンドオンリー(左から橋口調教師、横山典、前田幸治オーナー)
ダービーを制したワンアンドオンリー(左から橋口調教師、横山典、前田幸治オーナー)

 時には距離が明らかに長いと思われる馬でも出走させ、ダービーに出られない年には、雰囲気だけでも味わうために同日東京の目黒記念に管理馬を出走させる。ホースマン人生の一番の目標にダービーを掲げ続けた橋口弘次郎元調教師らしいエピソードだ。

 そんな“ダービーの鬼”になかなか競馬の神様はほほ笑まなかった。「俺はダービーに出す方法は知っているけど、勝つ方法は知らない」。毎年のように出走はさせ、2着は4回も記録したがもうひとつ上に届かない…。半ばあきらめムードも出かけていた、あと2世代残し定年というタイミングだった2013年、ワンアンドオンリーが厩舎にやってきた。ノースヒルズが生産したハーツクライ産駒の2歳馬だった。

 新馬戦は見せ場なく12着大敗。が、ここからありえない成長を見せクラシック戦線に乗った。最速上がりで4着に猛追した皐月賞を終え、知り合いの新聞記者と会食した橋口元調教師はこんなことを口にしている。

「これが本当のラストチャンスだと思っている」

 管理馬20頭目の挑戦。決戦の6月1日、鞍上・横山典の叱咤に応えてワンアンドオンリーは先頭で駆け抜け、ついに悲願を達成した。前年にキズナで制覇していたノースヒルズにとっては生産馬2年連続のダービー制覇という快挙となった。

 その後はGⅠタイトルに手が届かなかったワンアンドオンリー。当時は記者に言われても馬の将来を信じ、否定していた橋口元師だが、今は「自分にダービーを勝たせるために生まれてきた馬だったように思う」とダービーを頂点にした競走生活を肯定している。新馬戦12着から奇跡のダービー制覇――。誰よりも勝つことに執念を燃やしたトレーナーの願いが凝縮した10か月だった。

著者:東スポ競馬編集部