人型兵器は実用性に乏しいという意見がSF考察でよく見られます。ただ、アニメ『超時空要塞マクロス』に出てくる可変戦闘機「バルキリー」は、人型になれる方がメリットあるとか。実在したら活躍できるのでしょうか。

変形パターンが実に3段階も

 1982(昭和57)年より放映されたアニメ『超時空要塞マクロス』(以下『マクロス』)は、『機動戦士ガンダム』以降のリアルロボット路線を継承し、かつ「主役メカの変形」という要素でも注目されました。

 それまでも合体・変形するロボットが登場するアニメは見られましたが、それらはリアル志向の作品ではありませんでした。一方、『マクロス』では、実在するアメリカ海軍の戦闘機F-14「トムキャット」に類似した、リアルな変形戦闘機VF-1「バルキリー」が登場。これが、視聴者にとって衝撃だったと言えるでしょう。

 しかも「バルキリー」は、戦闘機そのものの「ファイター」、戦闘機から変形して、手足のみを展開し、地上を滑空しつつ高速戦闘できる「ガウォーク」、身長10m程度ある敵種族「ゼントラーディ人」との白兵戦を想定して、人型に変形する「バトロイド」の3形態を取ることができました。

 実在する戦闘機によく似た航空機が、ロボットに変形して敵と戦う。アニメだからこその設定と言えばそれまでですが、では「バルキリー」が実在したら兵器として有用なのでしょうか。

 現実世界では、このような変形航空機は、ほぼ実用化されていません。2024年現在、最も近しい可変機と言えるのは、ノズルの向きを変えられるアメリカの「F-35戦闘機」、あるいはヘリコプター(回転翼機)と飛行機(固定翼機)の両方の特性を併せ持つティルトローター機でしょう。

 可動する翼の両端にプロペラを備え、角度を変えるティルトローター機は、垂直離着陸と巡航飛行時で、最適な角度に変形するというものです。この種の航空機としてはアメリカが開発したV-22「オスプレイ」が有名ですが、始まりはソ連が1972(昭和47)年に開発した民間機「Mi-30」です。

 Mi-30は失敗に終わったものの、長年にわたって研究を続けたアメリカが2005(平成17)年にV-22「オスプレイ」を初めて実用化。さらに現在、イタリアのアグスタウエストランド社が民間機としてティルトローター機「AW609」を開発中です。

 ティルトローター機は、航空機モードでは迅速に移動でき、遭難者の救助時はヘリコプターモードでホバリングできるという万能機で、ある意味では「バルキリー」のように汎用性の高い航空機とも言えます。

オーバーテクノロジーの賜物「熱核反応エンジン」

 改めて『マクロス』のストーリーをひも解いてみると、1999年(!)に地球外生命体が造った恒星間宇宙船が地球上に墜落することが端緒です。

 いわゆる「オーバーテクノロジー」(劇中ではOTM:オーバーテクノロジーオブマクロスと呼称)に触れた地球人は、同船を修復・改修し、2009年に宇宙戦艦「マクロス」として再就役させます。そして、その直後に「マクロス」を追ってきた異星人「ゼントラーディ人」と接触・交戦するという内容のため、現実世界よりやや昔の時代を舞台としています。

 この世界では現実とは異なり、「マクロス」の解析で得られた異星人の科学技術が導入されています。特にバルキリーの動力源である「熱核反応タービンエンジン」は、とてつもない性能を備えています。

 このエンジンは大気圏内では「空気」、宇宙では「水素」を圧縮し、反応炉の熱エネルギーでこれらを加熱・膨張させることで、高温プラズマ波を噴射して推力を得るというものです。

 この「熱核反応タービンエンジン」は燃料消費が極めて少ないため、胴体内の燃料スペースを大幅に小さくさせることが可能。その結果、空いたスペースに可変機構を組み込むことができるようになったことで、「バルキリー」は前出したような変形が可能になったとされています。

 さらに飛行の必要がない、人型形態バトロイド時には、装甲に電気エネルギーを流すことで分子結合を強化する「エネルギー転換装甲」により、陸上兵器としての防御力も備えていると設定されています。

 それでは、このような特徴を有した2008年製という設定の「VF-1バルキリー」が実在したら、役に立つのか見てみましょう。一般的には、人型兵器は戦車より発見されやすく、被弾率が高いうえに火力が弱く、航空機よりも移動力がないので、実用化できる化学力があっても使い物にならない――こうSNSなどでは言われています。「バルキリー」はどうでしょうか。

ステルス性だけはF-35Bの方が上?

 まずは、実在する航空機と比較しましょう。VF-1バルキリーは全長14.23m(ファイター形態)、最高速度マッハ2.81(高度3万m以上でマッハ3.87)、重量13.25t、推力3万1333kg、航続時間700時間という設定です。

 一方、外観が似ているF-14D「トムキャット」は全長18.87m、最高速度マッハ2.3、重量18.75t、推力1万2224kg(119.88Kn)、航続距離2430kmです。

 ちなみに、最新の戦闘機であるF-35B「ライトニングII」の場合は全長15.61m、最高速度マッハ1.6で巡航可能、重量14.65t、推力1万2246kg(120.1Kn)、航続距離1667km以上となっています。

 こうして比べてみると、「バルキリー」と性質が近いのはF-35Bですが、推力は3分の1です。「バルキリー」は燃料を気にする必要がなく、「バトロイド」形態から「ガウォーク」形態へと変形して加速し、さらに「ファイター」にもなれるため、滑走路がなくとも運用可能です。

 ステルス性は形状から考慮するとF-35Bの方が上だといえそうですが、「バルキリー」はどこからでも飛び立てるため、発進基地を特定することも難しく、対処しにくい機体と言えるでしょう。

 ちなみにガウォークは、地上をホバリングで高速移動しつつ、対空対地ミサイルや、レーザー機銃、55mmガトリング砲であるガンポッドを放ってくる兵器です。ファイター状態での空戦中でも変形することが可能なため、あえて形を変えることでスピードを落として追い抜いていった敵機を撃墜したりもしています。

敵の軍服を奪って着るなんて動作も

 戦闘中の変形にパイロットが耐えられるのか……という問題はさておき、「バルキリー」は現有戦車どころか戦闘ヘリコプターより速いスピードで移動しつつ、離れたらミサイル、近づくとガンポッドで戦車の薄い上面装甲も狙ってきますから、陸上兵器としては厄介な存在と言えるでしょう。

 なお、劇中では「ゼントラーディ」兵を、展開した腕部で殴るといった描写も見られました。強度も、歩道橋に突っ込んでも大破しないほどなので、現用兵器より上なのは確実です。

 他方で、人型形態である「バトロイド」では、指で卵が掴めるほどの作業性を持っているため、劇中では「ゼントラーディ」兵の軍服を奪って着るという、ある意味「人間味あふれる」細かな動作も確認できます。

 この手先の器用さを活かせば、塹壕を掘ったり「竜の歯」のような対戦車障害物を手に持って配置したりと、重機や建機などと同様の作業機械として大活躍しそうです。加えて前出したように「エネルギー変換装甲」で撃たれ強いので、ドローン攻撃程度では破壊できなさそうですし、状況によっては戦車を「踏みつぶす」ような立体運動も可能化もしれません。

 たとえるなら「ファイター」形態はまさしく戦闘機、「ガウォーク」では戦車および攻撃ヘリコプター、そして「バトロイド」は戦車と作業機械とでも言えるでしょうか。

 さすが異星人の技術を導入した可変戦闘機「バルキリー」。実在したらかなり活躍しそうですが、それだけの高速力と可変機構を動かすための動力源となる高出力エンジンをまず生み出すのが先決なのかもしれません。