すでに日本仕様に関するアナウンスがおこなわれ、上陸を待つだけの状態にあるBMW新型「X2」。ポルトガルで開催された国際試乗会でひと足先にその実力をチェックしたモータージャーナリストの島下泰久さんが、気になるその印象をレポートします。

SACらしいスタイリッシュさと広いキャビンを獲得

 巷にあふれるSUV=スポーツ・ユーティリティ・ビークルではなく、あえて独自の“SAV=スポーツ・アクティビティ・ビークル”という呼称を用いるBMWが、プレミアムコンパクトクラスで唯一の“SAC=スポーツ・アクティビティ・クーペ”と謳うモデルが「X2」です。

 2世代目となる新型は、昨秋に開催されたジャパンモビリティショー2023で世界初公開されました。その新しい「X2」に、先日、筆者(島下泰久)はポルトガルで試乗してきました。今回はその印象をお伝えしたいと思います。

 現地に用意されていた「X2」は、ガソリンエンジンを搭載する高性能版「X2 M35i xDrive」と、初設定となるBEV(電気自動車)仕様の「iX2 xDrive 30 Mスポーツ」の2台です。

 まずインパクトが大きいのがそのデザインです。従来の「X2」はチョップドルーフのハッチバック的なデザインで、同じSACを名乗る兄貴分の「X4」や「X6」といったモデルの、強く傾斜したリアウインドウを持ついかにもクーペライクなフォルムとは一線を画するものでした。おそらくサイズやパッケージングの制約もあったのでしょう。

 それに対して新型は、大幅なサイズアップと引き換えに、まさにSACらしい伸びやかでスタイリッシュな外観を手に入れました。正直、その変身ぶりは、先代と同じ車名のクルマとは思えないほどです。

 フロントマスクも、基本骨格を共有する「X1」と雰囲気は近しいものの、実際には目つきはよりシャープで、キドニーグリルは薄くてワイド。しかも輪郭にLEDが組み込まれ、夜間にあやしく光る“アイコニックグロー”も装着可能となっているなど、よりスペシャルティ感が強められています。

●新しいインフォテインメントシステムは上々の完成度

 新型「X2」のボディサイズは、全長4555mm、全幅1845mm、全高1575mmで、先代に比べると180mmも長く、20mm広く、40mm高くなっています。

 先代の、多くの機械式立体駐車場に入庫可能というメリットは失われましたが、一方で、もはやクラスが違うといってもいいほどのサイズアップによって、室内空間は大幅に拡大されました。

 実際に乗り込んでみると、前席だけでなく後席も頭上や肩回りに十分な余裕があって、先代との大きな差を実感します。

 荷室容量も後席使用時で従来比90リットル増の560リットル、後席背もたれを畳むと115リットル増の1470リットルにも達します。なんと、いずれも数値も兄貴分である「X4」を上回っていることは見逃せないポイントです。これはエンジン横置きプラットフォーム採用の恩恵に違いありません。

 ちなみに、BEVとなる「iX2」は、フロア下に大容量のリチウムイオンバッテリーを搭載しており、その影響で後席の足元がわずかに高く、荷室も微妙に小さくなっています。ただし、その差はきわめて小さく、居住性も使い勝手もほぼ差はないといっていいでしょう。

 新型はインフォテインメントシステムも注目です。搭載するのは最新の“OS9”。スッキリと整理されたレイアウトや新しいオンラインマップの採用などにより、より直感的な操作が可能になっています。

 ここ数年、BMWのこの領域における変化の勢いはとても急でしたが、ようやくいいカタチにまとまってきたな、というのが実感です。

クルマとの一体感を強く感じられる俊足の「X2 M35i」

 さて、新型「X2」の走りはどんな仕上がりなのでしょうか。

先代に比べてカッコよく、さらに室内&荷室も格段に余裕が増したBMW新型「X2」。BMWの面目躍如といった出来栄えの走りのよさも魅力的

 最初に試した「X2 M35i xDrive」が搭載するのは、2リッターの直列4気筒ターボエンジン。最高出力317ps、最大トルク400Nmというアウトプットを、7速DCT(デュアルクラッチトランスミッション)とxDriveを介して4輪に伝達します。

 このパワートレインの印象が、とにかく鮮烈でした。アクセル操作に対する反応にまるで遅れがなく、クルマとの一体感をとても強く感じられるのです。低速域からしっかりとトルクが出たエンジンはもちろん、トルコンATではなくDCTの採用などが、このレスポンスのよさにつながっているのでしょう。

 特に「SPORT」モードに入れたときは排気音がワイルドさを増し、吹け上がりがさらに鋭くなって、ますます刺激が強まります。シフトパドルも備わりますが、ここで面白いのは、左側パドルをホールドすると起動する「ブースト」モード。そのときに選択できる最も低いギアにシフトダウンされ、ブースト圧が高まり、10秒間のカウントダウンつきで最大の加速を得ることができるのです。

 しかも、シャシーの出来栄えも秀逸。このパワートレインのうま味をしっかり堪能させてくれます。操舵応答性は正確そのもので、大きく切り込むような場面でもアンダーステア知らず。まさに意のままになるフットワークを実現しています。

 それでいて乗り心地も上々です。高剛性ボディと電子制御ダンパーの効果で、決してソフトというわけではないですが、先代のような突き上げ感とは無縁。フラットで快適なクルージングを楽しめます。完成度、相当なレベルにあるといっていいでしょう。

●水を得た魚のようにコーナーを駆け抜けるBEV版の「iX2」

 続いて「iX2 xDrive30 Mスポーツ」を試します。

 前後2モーターを合計したシステム最高出力は、試乗したヨーロッパ仕様で313ps、最大トルクは同494Nmです。日本仕様は最高出力272psとされていますが、いずれにせよかなり強力。バッテリー容量は66.kWhで、一充電走行距離は449kmとされています。

 そんなハイスペックだけに、こちらも走りは軽快。電気モーターらしくアクセルオンと同時にパワーとトルクが瞬時に立ち上がるのでダッシュは俊敏ですし、その先の伸び感も上々で、とにかくなめらか、そして力強い。BEVのメリットを活かしながら、ちゃんとクルマらしさもある。いかにもBMWらしい仕上がりといえるでしょう。

 BMWの他のBEVモデルと同様、“BMWアイコニックサウンド”と名づけられた電子音も用意されています。こちら、加速感に応じてリニアに盛り上がるサウンドでなかなか悪くないのですが、この「iX2」についていえば、これはオフにしてスマートな速さを味わう方が合っているように感じました。

 フットワークも、やはり爽快でした。車重は増えていますが重心は低く、前後バランスもよくなっているので、ステアリングを切り込んだときの反応は、むしろシャープに感じられるほど。コーナーの連続する区間では、まさに水を得た魚という楽しさを味わわせてくれます。

 それでいて、速度を上げていった際にも落ち着きが不足するわけではなく、総じてドライビングプレジャーは「X2 M35i xDrive」にも負けていないと感じられるほどでした。

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 新しい「X2」のセールスポイントは、まずはその直球のカッコよさ。サイズは大きくなりましたが、その分、室内、荷室は格段に余裕が増しています。大きくなったとはいっても、全高以外はマツダ「CX-5」とほぼ同寸ですから、つまり日本の多くのユーザーにとって、ちょうどいいサイズといっていいはずです。

 しかも、肝心な走りっぷりは大幅に進化。さらにBEVも用意されるということで、新型「X2」は先代を上回るヒット作になるのではないでしょうか。