日本橋浜町にあるブックカフェ「ハマハウス」

日本橋浜町で、ブックカフェ「ハマハウス」を運営する、グッドモーニングス社代表の水代優さん。写真(上)にあるように、カフェに並ぶ本は、全て水代さんがチョイスしたものという「本好き」です。今回は、昨年、水代さんが読んで「イチ押し!」と思った本を紹介してくれます。

『黒い海』(伊澤理江、講談社)

圧倒的1位「黒い海」

 大宅壮一ノンフィクション賞受賞作品をナンバーワンにするのは若干気が引けるのですが、面白すぎるので、これしかないと思います。

 著者の伊澤さんは1979年生まれで、僕と同世代です。英国の大学でジャーナリズムを学び、現地の新聞社などで勤務した後、フリーのジャーナリストになりました。

 本書の解説に「本書は実話であり、同時にミステリーでもある」という通りの一冊です。2008年、太平洋で停泊したいた中型漁船「第58寿和丸」が突然、沈没します。近くには僚船もいました。結果として17人の犠牲者がでる大惨事になりました。

 事故の調査報告では、船員の杜撰な管理と、大波によって転覆し、沈没されたとされました。一方で「二度の衝撃を感じた」という生存者の証言は無視されました。「第58寿和丸」は5000メートルの海底に沈み、真相は「藪の中」となっていた中で、伊澤さんが取材に着手したのです。

 僕は、元々調査報道モノが大好きで、潜入ルポも好きです。震災後、福島県のいわき市にも通っていたのですが、この事件のことは知りませんでした。まさに読書の悦び! というか、知らない世界を見せてくれる展開に、ページが止まりません。

 しかも、伊澤さんは、本書がデビュー作。間違いなく言えるのは、伊澤さんが本を出すたびに必ず買うと断言できるくらいのファンになりました。

『妻の実家のとうふ店を400億円企業にした元営業マンの話』(鳥越淳司、日経BP)

2位、次点『妻の実家のとうふ店を400億円企業にした元営業マンの話』

 そういう括りでいいのかどうかは一考の余地がありますが、2023年ダントツ1位のビジネス本だと思います。

 会社を経営する上で、みんなを引っ張っていく上で、この上なく、大事なことが散りばめられすぎてます。前年比や減価率には決してとらわれない。そして何より燃える集団を作ることの重要性とか、バンバン心に入ってくる本です。

 僕自身も経営は、掛け算割り算(なんとか率とか、なんとか比)より、足し算、引き算(足したものを引いて、残ってれば良い!)だと思っています。

 タイトルを見ると???と思ったのですが、読んで良かったと心から思います。

 もともと、雪印乳業で営業マンをしていた著者の鳥越さんは、奥さんの実家である群馬県の豆腐メーカー「相模屋食料」に転職します。目にした方もいると思いますが、機動戦士ガンダムの「ザクとうふ」を開発した人といったほうが分かりやすいかもしれません。どのようにして、20年で売上を23億円から400億円にしたのか、ぜひ読んでみてください。

3位タイ、というかここから選べれれば!

『消えた核科学者──北朝鮮の核開発と拉致』(渡辺 周、岩波書店)

その1、『消えた核科学者──北朝鮮の核開発と拉致』

 帯にある通り1972年、茨城県東海村にある動力炉・核燃料開発事業団(動燃)のプルトニウム製造係長が姿を消し、40年後に警察の北朝鮮拉致関係リストにその名が載ることになります。北朝鮮の核開発に、日本の研究者が関わったのでは? という疑惑に迫ります。

 面白さだけなら、これかと。ただ、まだまだ続きが読みたいです! なので、欲を言うと、もうちょっと書いてから出してもらっても良かったかな、とは思ったりもします。

 僕は、著者の方向性、考え以外にも、違った事実とかもあるんじゃないかなって思ったりして、そう言うの考えながら読むのも楽しかったです。

 著者の渡辺さんは、日本テレビ、朝日新聞記者を経て、現在「Tokyo Investigative Newsroom Tansa」の編集長をしています。今後に期待したいです。

『イェール大学集中講義 思考の穴 わかっていても間違える全人類のための思考法』(アン・ウーキョン〈著〉、花塚恵〈訳〉、ダイヤモンド社)

その2、『イェール大学集中講義 思考の穴 わかっていても間違える全人類のための思考法』

 認知の罠に引っかからないように、またフィルターバブルの中に入らないように、謙虚に、いろんなことを知って吸収して行きたいと思って、毎日を生きています。

 認知の罠に引っかからないだけでなく、その後の行動まで、たくさん書いてくれた、まさに「奇跡の書籍」だと言っても過言ではありません。

・人は論理的でも合理的でもない
・戦略的に「論理的思考力」を向上させる
・人は「自分のこと」がとても知りたい
・あえて「偶然」に身を委ねる

 「シンキング(Thinkiing)」という講座名で行われる授業は、面白すぎて毎週、イエール大学の大講堂が満員と聞いて、腹の底から納得の1冊です。

その3、『2050年の世界 見えない未来の考え方』

『2050年の世界 見えない未来の考え方』(ヘイミシュ・マクレイ〈著〉、遠藤真美〈翻訳〉、日本経済新聞出版)

 こちらは、大ベストセラーなので、何を今さら? ですが、地政学や歴史、もちろん経済を通じて、その先の景色、展望を、これでもか、と言うファクトを積み重ねながら進めていく筆致にめくるページが止まりません。

 基本、僕はポジティブなので、専門家バイアスによるネガティブな未来ではなく、ファクトを積み重ねた先にあるポジティブな未来を、とても感じることができる名著です。

 最後に、単に読書の喜び、と言う意味では、高野さんの『イラク水滸伝』も、面白かったです。めちゃくちゃ捨て難いですね。

『バルサ・コンプレックス “ドリームチーム"から“FCメッシ"までの栄光と凋落』(サイモン・クーパー〈著〉、山中忍〈訳〉)

その4、『バルサ・コンプレックス “ドリームチーム"から“FCメッシ"までの栄光と凋落』

 英紙『フィナンシャル・タイムズ』の著名コラムニスト、サイモンクーパーによるバルセロナ徹底解析本です。毎年のように、夫婦で5月にヨーロッパにサッカー観戦に行くほどサッカー観戦が好きなので、軽い気持ちで購入したのですが、衝撃でした。

 いわゆる、サッカーチームとしてのバルセロナの歴史を深堀している本だと思って読み始めたのですが、想像のだいぶ斜め上をいくストーリー構成で、ぐいぐい引き込まれます。バルセロナのソシオ制度、株主、それらを支える人々、愛憎劇、及び権力闘争の描写が鮮やかに書かれています。

 バルセロナという街とクラブを舞台に、歴史、戦術、政治、文化が交錯する展開に引き込まれます。あと、バルサ=サッカークラブで、バルセロナという街のことはバルナという名称だという豆知識が、とても面白かったです。