利用者のニーズに沿った商品づくりとそこから得られた気づき。日本企業はまだまだやれることがあるはずだ。

CASE1 
ランチ中の会話からヒット商品を生み出す
パナソニックサイクルテック×子乗せ自転車「ギュット・クルームR・EX」。豊富なカラーバリエーションも魅力の一つ(PANASONIC CYCLE TECHNOLOGY CO.,LTD)(イラストレーション・ニシダミク)

 「私、男女雇用機会均等法施行の翌年に入社したんです」

 こう話すのは、多種多様な自転車を販売しているパナソニックサイクルテック(大阪府柏原市)の人事総務部主幹土岩恵さん。会社の女性社員と社内ランチをしていた時、主力商品の一つである「子乗せモデル」、通称〝子乗せ自転車〟について「社員の自分たちが使いづらさを感じているが、お客さまには本当に喜んでいただけているのだろうか」という話で、よく盛り上がっていたという。

 「社内行事の場でこの思いを社長に率直に話したら、翌朝社長から『子乗せプロジェクト』発足を告げられました。『失敗しても私が責任はとるから』と言っていただき、3カ月の期限で始まりました」(土岩さん)

 そこからは挑戦の日々だった。子乗せプロジェクト」は、子どもがいる社員を中心に結成された。予算はなく、廃材の段ボールなどをリサイクルして試作品を作った。商品企画部門のメンバーはおらず、自分たちの仕事と並行しながら活動した。

 3カ月後、メンバー全員で商品をプレゼンテーションした。

 小柄な女性でも子どもを乗せ降ろししやすく、駐輪時にバランスを崩さずにスタンドを立てるため、他社も含め前22インチ(外径約56センチメートル)、後26インチ(外径約66センチメートル)のタイヤが当たり前だった時代に前後20インチ(外径約51センチメートル) のタイヤを採用したほか、子どもの座面シートを洗えるように取り外し可能にするなど、利用者の声を踏まえた案を出した。

 「開発者の気持ちがこんなにもこもった商品があるのか、と言われて、割れんばかりの拍手をもらいました」

 こうして商品化が決まった。プレゼンでは好評だったものの、前例がないため「売れるわけがない」という声もあった。しかし、土岩さんたちメンバーは自信があった。プレゼンから約1年後の2011年、念願の「ギュット・ミニ」が発売され、大ヒット。22年までに売り上げは約4倍に増えて看板商品となった。

 現在も「ギュット」シリーズの進化は止まらない。利用者からの声を踏まえて、子どもへの直射日光を防ぐためのサンシェードを導入したり、子どもの体を衝撃から守るクッションも取り入れたりもした。

 プロジェクトを通して、女性社員は社内で意見を言いやすくなり、他の社員も広く声を聞くようになった。「改めて、上司や周囲の応援が大きな支えだと感じました」と土岩さん。利用者に寄り添い、良いものを作るためには妥協せずあきらめない。挑戦する女性たちを支えるために、男女関係なく、意見を受け止め合い、共に歩んでいくことが必要なのだろう。