レアル・ソシエダの久保建英はラ・リーガ31節アルメリア戦、後半25分からの出場となった。
代表ウィーク明けとなった前節のアラベス戦、久保は前半終了間際にピッチへ座り込むとそのまま交代を余儀なくされた。
右ハムストリングの負傷が伝えられ、チーム練習へも参加できない日々が続いた。チームからの、久保のチーム練習復帰の報が出ないまま時間は過ぎていったが、アルメリア戦の2日前の練習に合流することができた。幸いなことに国王杯決勝(6日)が行われた週末にリーガの試合は組まれなかったため、約2週間を回復に充てることができた。
来季の欧州カップ戦出場権を獲得できるかどうかの瀬戸際のソシエダにとって、今季リーガで1勝しか挙げることができず、最下位のアルメリアからは確実に勝ち点3を手にしなければならない試合だったが——。
TAKEユニの少女…推しの理由は「だって上手いから」4月14日、対アルメリア戦撮影のため、バスク州サンセバスチャンを訪れた。
日差しは暖かく、ソシエダのホームスタジアムであるレアレ・アレーナ周りではマロニエの花が春の訪れを知らせていた。
キックオフの3時間ほど前、いつもならすでにサポーターで賑わう飲食店は、やや閑散とした様子。「暖かくなったから、みんなビーチの方に行っちゃってるんだよ」と店主がぼやく。
それでも21時のキックオフに合わせて、徐々にサポーターの数が増えていく。
その中には、TAKEユニホームのファンの姿も。14番のユニホーム姿で、空のペットボトルでミニサッカーを繰り広げていた少女ファンに話を聞くと、今年からクラブに入りサッカーを始めたという。
そして初めて買ってもらったユニホームにTAKEを選んだと教えてくれた。
推している理由を尋ねると、「だって上手いから」と単純明快。
ピッチ投入前、笑顔でボールボーイの肩に触れる姿もその久保は残念ながら、冒頭の通りベンチからのスタートとなった。
試合前のアップでは、技ありのボール回しを見せながら、満面の笑みを見せるようなシーンもあった。
久保不在のソシエダだったが、多くのチャンスを作り出した。しかしゴールを奪うことができずにいると、前半30分、1本のロングボールから守備ラインの裏を取られ先制点を奪われてしまった。
しかし直後の32分に久保に代わって右WGとして先発出場のシェラルド・ベッカーがゴールを奪い同点とし、その後もソシエダは好機を得るが、得点できないまま前半を終える。
ハーフタイムのピッチ上では、サブ組として久保がアップに励む姿が見られた。
目立ったテーピングなどはなく、その軽快な動きからは、後半途中での投入を予想させるものがあった。
後半に入ってベンチよりピッチ脇のアップエリアに久保が姿を見せると、拍手が起こり、また最前列から久保への歓声が送られた。
その久保は、ボールボーイの肩にそっと触れてコミュニケーションをとるようなリラックスした雰囲気を見せていたが――アップに入ると激しさを増し、ストップアンドダッシュを繰り返すなど、怪我の影響を感じさせなかった。
オヤルサバル先制弾のち久保投入で流れは良かったが試合は後半14分、ベッカーのアシストからミケル・オヤルサバルがゴールを奪い、ソシエダがリードを奪った。大怪我からの復帰、そして順調にコンディションを上げてきたキャプテンの逆転ゴールに会場はヒートアップ。ゴール裏ではファンが一塊となって喜びを爆発させ、またピッチ脇ではアップ中の選手も拍手を送った。
そして25分、アンデル・バレネチェアに代わって久保がピッチへ投入された。
ソシエダがリードしている緊急性のない状況での投入だったことや、アップ時の様子からも怪我の不安は払拭されており、チームへの復帰が遅れたことが先発回避につながったようだ。
またアルメリアも同タイミングでFWアントニー・ロサノを投入し、攻撃の機運を高めている。
久保は、早々に相手に囲まれながらのドリブルを見せた。それ以降は右サイドに張りボールを要求したが、なかなかボールを引き出すことができず、試合に関与することがあまりできなかった。
終了間際、ソシエダに訪れた痛恨の瞬間それでも、このまま勝利で試合を終えることができるのでは――さらには怪我明けの久保にはちょうど良い実戦での調整になったのではないか。
そんな楽観ムードや、混雑を避けるために早めにスタジアムを後にしようというファンの姿が見え始めていた。
終了間際の41分、アルメリアのサイド攻撃時、ボックス内ではソシエダCBのイゴール・スベルディアが、走り込むロサノに対応していた。
最後の砦として、身体を密着させ相手ユニホームにも手をかけながら、“確実に失点を避ける”そんな気迫と共に……。
ただロサノも一枚上手だった。
パスを受けて、冷静にターンすると倒れ込んだ。
即座に鳴らされたペナルティーキックを示す笛は、一方には歓喜の、そしてもう一方には悲哀の音となったはず。
ロサノのターンのタイミングで、スベルディアの指がかかったユニホームが大きく伸び、まるで振り回して倒したように見えてしまった。気合いの裏返しでもあったが、軽率なプレーによるPK献上とレッドカードであったことは否めない。
このPKは、先制点を決めているアドリ・エンバルバが冷静に決めきり、2-2で試合は決着を迎えた。
終了の笛とともに、放心したかのような久保が終了の笛と共に、久保からはどっと力が抜けて放心したように、また相手選手と健闘を讃えあう際には悔しさを隠しきれない――そんな風に感じられた。
残り7節の中に3強との戦いを残すソシエダにとっては、最下位のアルメリアからは確実に3ポイントを獲得したかったはずだが、最後の最後に貴重な勝ち点がすり抜けていってしまった。
この日の2失点は、どちらもミスと不運が重なり合ったような失点だった。ミスがつきもののサッカーにおいて、100パーセント失点を避けることは不可能だろう。
そんな中で勝利するには“決めるときに決め切る”、という単純なところに行き着いてしまう。
ソシエダの攻撃を牽引する久保には、チームに勝利をもたらすゴールを期待してしまう。
次節は21日、古巣ヘタフェのホームでの一戦となる。
文=中島大介
photograph by Daisuke Nakashima