埼玉県に住むトルコ国籍のシルバンさん(仮名)は中学1年生。サッカー好きで、将来は「プロの選手になりたい」と笑う。
 だが、非正規滞在で、出入国在留管理庁の施設への収容を一時的に解かれた「仮放免」の状態だ。住民票はなく、アルバイトもできず、県外に出かけるには入管の許可が必要になる。
 父で40代のファリドさん(仮名)は嘆く。「日本に計14年間も住んで、建設の仕事に就いて税金も払ってきた。悪いことは何もしていないのに」
 ファリドさんは少数民族のクルド人。「国家なき最大の民族」といわれるクルド人は、トルコやシリア、イラク、イランにまたがる地域に推計約3千万人が暮らす。日本にも、埼玉県を中心に3千人程度いる。(共同通信編集委員=原真)

 トルコ東部で生まれ育ったファリドさんは、独立闘争を続けるクルド労働者党(PKK)に関わっていると疑われ、何度も逮捕された。2001年、1人で日本に逃れ、難民申請したものの、棄却される。入管に収容され、やむなく帰国したイスタンブールの空港で、警官に取り囲まれた。
 PKKとの関係を追及されて、釈放後も取り調べが続く。13年に再び来日し、妻と子ども6人と共に難民申請した。しかし、異議も退けられ、22年3月に全員が在留資格を失った。現在は2回目の難民申請中だ。

 ▽子ども在特の対象外に
 23年8月、当時の斎藤健法相が、在留資格のない子どもの人権に配慮し、家族ともども在留特別許可(在特)を出すと発表した。日本初のアムネスティ(非正規滞在者の一斉正規化)である。
 ただし、対象となるのは、日本で出生し、学校教育を受けている約140人に限られる。ファリドさん一家は末っ子のシルバンさんも3歳で来日したため、該当しない。
 シルバンさんは言う。「不公平だよ。僕はトルコで生まれたけど、向こうのことは何も覚えていない。トルコに帰らされたら、いじめに遭うと思う」
 トルコ国籍クルド人は、欧米諸国では難民認定される例が多い。一方、日本では、裁判で国に勝訴した1人が23年に認定されただけだ。
 在日クルド人を支援する大橋毅弁護士は指摘する。「トルコは北大西洋条約機構(NATO)加盟国で、『テロとの戦い』で日本と協力関係にある。防衛、治安政策が難民審査に影響してしまっている」
 難民と認定されず、帰国を求められても、母国が危険だと考える人は、難民申請を繰り返す。入管難民法により、申請中の強制送還は禁じられてきたが、入管庁は、日本にとどまりたい外国人が難民でないのに難民申請するなど、同法の規定を乱用していると法改正を提案。23年6月に改正入管難民法が成立し、申請を3回以上重ねた場合は送還可能になった。
 「トルコに帰れば、家族みんな捕まって、殺されるかもしれない」。そう言って、ファリドさんは目を伏せた。