宇宙の謎に迫る大型加速器「国際リニアコライダー(ILC)」の誘致を目指す岩手県は22日、ILC推進本部会議を開いた。誘致をめぐっては2025年が一つのメドになるとの見方があり、県は日本政府に前向きな判断を促すとともに国民にILCの重要性を啓発して機運を高めたい考えだ。

 ILCは国内外の研究者が進める国際プロジェクト。岩手・宮城両県にまたがる北上山地に全長約20キロのトンネルを掘り、電子とその反対の性質を持つ陽電子を光の速さぐらいまで加速して正面衝突させる実験施設を作ることを目指す。大きなエネルギーを一点に集中させて、宇宙誕生のビッグバンが起きた直後の状態を再現するという壮大な計画だ。

 会議の中で達増拓也知事は世界的に大ヒットした中国のSF小説「三体」を取りあげた。世界中の加速器が異常をきたすところから物語が始まることに触れ、「過去、素粒子物理学をメインに扱ったフィクションが世界的に広まったことはなかった。ILC実現に向けた機運が高まっている」と述べた。

 次世代の大型加速器の建設をめぐっては、欧州合同原子核研究機関(CERN)も次世代円形衝突型加速器(FCC―ee)の建設を目指しており、ILCと競合している。CERNはFCC―eeの建設が可能かどうか、25年に結論を出すとしており、国内でILC計画に関わる研究者は「25年が(誘致の)一つのメド」と説明しているという。

 FCC―eeは2兆円を超える建設費用がネックとされる。一方、ILCは約7700億円で建設が可能とされるが、日本政府が誘致に及び腰だ。準備研究所の設立を「時期尚早」とする有識者会議の報告書を22年にまとめている。

 今年7月には、東京で国内外の研究者が集まる国際会議が予定されている。県は著名人らを起用したイベントを開くほか、国への要望や研究者の取り組み支援を強める方針だ。(小泉浩樹)