アストンマーティン・レーシングは、WEC世界耐久選手権がハイパーカー・メーカーにLMGT3エントリーの優先権が与えられるという考えを持っているにもかかわらず、来季2023年からシリーズに導入される新しいGTカテゴリーのグリッドを確保することを望んでいる。

 イギリスの老舗スポーツカーブランドは現行シリーズの初年度である2012年からLMGTEクラスで活躍しているが、プロトタイプクラスでのプログラムを持たない唯一のメーカーである。

 WECのCEOであるフレデリック・ルキアンは先月、第2戦が行われたポルティマオで、チャンピオンシップはハイパーカーに参戦しているメーカーのLMGT3エントリーを優先することを検討していると記者団に語った。

 さらに、LMGT3への参加を認められた各メーカーには、チームに割り当てることができる2台分のエントリーが与えられると考えられている。

 ルキアンはまた、WECはアストンマーティンのようなケースを「考慮しなければならない」と述べたが、ハイパーカーのエントリー数が拡大し続けるなかで、グリッドスペースはよりプレミア性を帯びることになることは間違いないだろう。

 以前、アストンマーティンはロードゴーイングタイプのV12エンジン搭載ハイパーカー『ヴァルキリー』をベースにしたノンハイブリッドLMHプロトタイプの開発を計画していたが、このプログラムは同ブランドのF1復帰にともない2020年初頭に計画が中止された。その後アストンマーティンは2019-20シーズン終了までLMGTEプロクラスでファクトリープログラムを実施したが、現在はGTEアマクラスでのカスタマーサポートに注力している。

「ACOフランス西部自動車クラブがとっているアプローチは理解できると」と、アストンマーティン・レーシングのパートナーレース責任者であるヒュー・タスカーはSportscar365に語った。

「実際1メーカーにつき2台のエントリーに制限し、より多くのメーカーがグリッドに並ぶことができるようにすることは、チャンピオンシップにとって良いことだと思う」

「我々はWECに当初から参加しており、プロクラスやカスタマーカーでレースを楽しんできた。ACOが示したように、ハイパーカーのエントリーが最優先されるとしても、チャンピオンシップへの忠誠心も重要な要素であることを願っている」

「現時点で具体的な答えを出すのは難しいだろう」

「彼らはハイパーカーの台数を把握する必要があるし、グリッドに並べられる台数にも限りがある。しかし、彼らはその考え方にオープンだと思う」

 現在の予想では来シーズンのハイパーカーは約20台がエントリーし、WECからLMP2が除外されると仮定すると36台分のグリッドに8〜9社のLMGT3メーカーが入るスペースが残ると推測される。

 いずれもハイパーカーメーカーではない、アストンマーティンやアウディ、フォード、メルセデスAMG、マクラーレンといったGT3メーカーを追加できるかどうかは、FIA公認のGT3マシンを持つハイパーカー6社(フェラーリ、トヨタ/レクサス、ポルシェ、BMW、シボレー/キャデラック、アキュラ/ホンダ)のうち何社がこの新クラスにコミットするかにかかっている。

■アストン、ポルシェ、フェラーリはエントリー台数を減らす

 タスカーは、アストンマーティンが受け取る可能性のあるふたつのグリッドスペースよりも多くの需要があると示唆したが、ふたつの異なるチームよりもひとつのチームで運営されることが好まれるかどうかを判断するのは時期尚早であると考えている。

 現在、GTEアマクラスのグリッドには3台のアストンマーチンがあり、2台はクラスチャンピオンのTFスポーツが(内1台はDステーション・レーシングとして参戦)、もう1台はノースウエストAMRのバナーの下で活動するハート・オブ・レーシングチームが所有している。

「現時点では、エントリーを得るまでは理論的な課題である」とタスカーは述べた。

「我々はパートナーから得られたもっとも強力なプログラムを構築したいと考えている。それがどのように機能し誰がエントリーするかは、まだ何も決まっていない」

「チャンピオンシップの期間も長くなってきおり、その分のコストはつねに上昇している」

「そのレベルでレースをしたいチームや顧客を見つけなければならない。それでも2台以上のグリッド枠を埋めることはできるだろう」

■各メーカー2台の制限がもたらす新しい状況

 ポルシェ・モータースポーツのボスであるトーマス・ローデンバッハによれば、LMGT3の各メーカーのエントリー台数を2台に制限し、その配分について責任を持つという計画は、「まったく新しい」状況を示しているという。

 アストンマーティンやフェラーリと同様に、ドイツのメーカーも現在のLMGTEアマのグリッドに2台以上のマシンを所有しているため、2台ルールが適用されれば、市販車ベースのエントリー台数を減らすことになる。

 ローデンバッハは、ポルシェがLMGT3でファクトリープログラムを実施することは不可能であり、カスタマーチーム主導のGT3レースという通常のアプローチを適用することを強く促した。

「我々はいま、これまでにない状況に置かれている」と同氏。

「ワークスチームでやるなら簡単だ。エントリー枠がふたつ与えられたのならファクトリープログラムを行う。カスタマースポーツをやる場合は、私たちのチームをエントリーさせることはない。それは初めてのことだ」

「私たちはすでに『公平でありたい』と話し合っている。なぜなら、我々が受け取れるエントリー数に対してそれを望んでいる顧客のほうが多いためだ。私たちは、どのように彼らを選ぶかについて明確な基準を持っている」

「これはまったく新しい状況だ。私たちはメーカーとして(どのチームが)レーシングシリーズへのエントリー(にふさわしいかを決定する権利を)を与えられている」

「我々に好き嫌いはない。もっとも公平な方法で見つけようとしている」

「10チームあってふたつしかエントリーできない場合、『この人が好きだから』という理由で決めることはない。これは明確な基準によって決定される。100パーセント公平なものだ」