スーパーGT第1戦、開幕戦岡山での予選。Q1のアタックで8号車ARTA MUGEN CIVIC TYPE R-GTの松下信治はセクター1で全体ファステストタイムをマークし、トップを狙える速さを見せたが、最終コーナーで膨らんでしまい四輪脱輪でタイム抹消。8号車ARTAはピットレーンスタートとなり「申し訳ない」と謝罪の言葉を述べる松下。その姿を見て、チームメイトの野尻は今季に向けて逆に大きな手応えを感じた。

 Q1の松下信治の四輪脱輪を受けて、8号車ARTAはQ2での走行を行わないこととなった。ベストタイムを抹消されたQ1のタイムは107パーセントルールを超えていたため、その時点でピットレーンスタートが決まっていたからだという。Q2を担当予定だった野尻智紀が話す。

「アタックしなかったのは、チーム判断です。もうピットスタートは確定していたので、走行するかどうかの判断はチームに任せました」と野尻。

 8号車ARTAとしては、練習走行で36号車au TOM'S GR Supraに続く2番手タイムをマークしており、予選Q1でも松下がトップと同等以上のタイムを出した可能性が高かった。

「松下もすごく手応えがあったようですし、実際、タイムを見てもそうだと思うのですけど、ある意味、期待以上のパフォーマンスだったんじゃないかなと。それは我々もそうですし、見ているファンのみなさんにとっても『ちょっとシビック、苦しいんじゃないかな』と言われていた中で、あのセクター1での全体ファステストタイムは、今後に向けても非常に明るい出来事だったという気がしています」と、予選後に笑顔を見せた野尻。

 その野尻の視点は、鈴鹿でのスクール時代の教え子でもある松下への愛情にも溢れていた。

「松下は全然、落ち込まないタイプだと僕は勝手に思っていたのですけど、すごく落ち込んでいて、『やっぱそうだよな』と。それくらい彼の強い気持ちを感じました」と野尻。

「彼のミスですけど、僕がそのミスに腹を立てることはないですし、これから彼と一緒にどう挽回していくかを考えている自分がいるので、そう考えることができるチームメイトの存在は、このスーパーGTではすごくいいことだと思います。僕ですら、松下と一緒にやるのが楽しみだなという感覚があるので、ファンのみなさんにも楽しんでもらえるレースをしたいです」

 ミスを責めるのではなく、その前の速さを認める野尻。一時トップを伺うようなシビック・タイプR-GTの速さには、ホンダ陣営の首脳陣たちも驚きを隠せなかった。

「1カ月〜2カ月前には他車とは差があると感じていました。特にこの岡山では公式テストでも差が大きくて、その後のホモロゲーション直前までアップデートを続けてきて、今日の予選、岡山でここまで戦えることがわかった」と話すのは、ホンダGTプロジェクトリーダーの佐伯昌浩エンジニア。

 タラレバで、松下信治の四輪脱輪がなかった時のタイムを聞くと「2番手以上のタイムだったでしょうね」と、微笑む。

 8号車ARTA、そしてホンダ陣営にとって今回の予選は、悔しさ以上に、自分たちの立ち位置、そしてポテンシャルを理解する貴重な機会となったようだ。