2024年MotoGP第4戦スペインGP決勝レースのハイライトは、残り5、4周と2周にわたる、フランセスコ・バニャイア(ドゥカティ・レノボ・チーム)とマルク・マルケス(グレシーニ・レーシングMotoGP)による優勝争いだろう。

 ホルヘ・マルティン(プリマ・プラマック・レーシング)が11周目に転倒したあとトップを走っていたバニャイアは、マルケスが追い上げてきていると知り、さらに攻めてタイムを上げた。だが、マルケスは周回ごとにギャップを詰めてくる。そこでバニャイアは、ラップタイムを上げてマルケスとの差をコントロールするのではなく、終盤に迎える戦いに備えることにした。

「いずれにせよ彼は追いついてくるわけだから、タイヤにストレスを与えすぎないようにしよう、と思った。残りの3周でもう少しタイヤがもつように」

 バニャイアとマルケスの激しいトップ争いは残り5、4周で展開された。チャンピオン同士の接戦であり、ポルトガルGPの5コーナーのクラッシュという最近の因縁もあった。ただ、今回の優勝争いは、接触はあったものの、それは「激しいポジション争い」として許容されるものだった。バニャイアは、「バトルをとても楽しんだよ」と、MotoGP.comのインタビューに答えている。

 バニャイアは、マルケスが7、8コーナーで非常に強いとわかっていた。そして、自分の強みが9コーナーであることも知っていた。残り5周でマルケスが仕掛けたのは9コーナーのブレーキングで、両者は接触しているのだが、バニャイアは10コーナーの立ち上がりでトップを守った。その翌周も同じ場所でマルケスが仕掛け、しかし、バニャイアがトップをキープしている。

「『8コーナーではあまりリスクを冒さないようにしよう。だけど、9コーナーではちょっとアドバンテージをつくるために、かなりハードブレーキングをしよう』と考えた。これだけハードにブレーキングをすれば、彼がちょっとワイドになると思っていた。そうして僕はラインを閉めて、また前に出たんだ。こういうバトルでは、接触があるだろうと考えているよ。スムーズだしスマートなバトルだったと思う」

 シーズン序盤にチャタリングに苦しみ、ライバルから遅れをとってきたバニャイアにとって、開幕戦カタールGP決勝レース以来の優勝だった。

 一方のマルケスは、レース序盤、トップ走行中に転倒したスプリントのミスが肩に重くのしかかっていた。加えてMoto2クラスで多くのクラッシュが発生しているのを見て、堅実に走ることにした。序盤は抑え、その後、ペースを上げてバニャイアに追いついた。

 14周目にマルコ・ベツェッキ(プルタミナ・エンデューロVR46・MotoGPレーシングチーム)を抜いたとき、マルケスはハッとしたという。バイクはよく走り、自分も流れるように走っていた。

 マルケスはスペインGPの金曜日、「(デスモセディチGPへの)順応はすでに終了した。今は細かい部分について取り組みをする時間だ」と述べている。「次の2戦で、表彰台を獲得するというのはいい目標になるだろう」とも。マルケスはすでに、デスモセディチGPを乗りこなしているようだった。

「最初にオーバーテイクを仕掛けたときは、そのときだとわかったからだ。そうしなければフロントの温度が上がって、バイクを止められなくなるからね。かなり限界の状況だった」と、マルケスは終盤のバニャイアとの勝負について言及する。タイヤの状況によって前に出る必要があった、という要因もあったのだ。限界だったのはマルケスというよりも、フロントタイヤだった。ここで前に出られなかったことが、勝負を決めた。

「10コーナーで、(2023年)バレンシアでマルティンが僕に似たようなことをしたのがよみがえった。そのときは僕が転倒した。ミスではないかもしれないけど、0ポイントで戻ることになる。だから僕はバイクを起こしてポジションを落とすほうを選んだ。そして次の周でもう一度挑戦してみたけど、僕のフロントタイヤの温度にとっては、もう遅かったんだ」

 バニャイアから距離をとったマルケスは、フロントタイヤの温度が上がったことでロックしてしまい、何もできなかったという。あきらめたわけではなかった。その証拠に、マルケスは最終ラップに自己ベストを記録している。だが、全力で攻めることもできなかった。

 とはいえ、マルケスにとっては、ドゥカティ移籍後、決勝レースで初の表彰台獲得である。満面の笑みで表彰台に立ったマルケスは、満足のいく優勝争いの結果だったことをその表情で伝えていた。

 ポルトガルGPで邂逅したふたりのチャンピオンは、早くも優勝争いという形で相まみえた。彼らの激しい戦いは、今季、あと何回、見られるだろう。