猛勉強で明大進学



明大の152キロ右腕・松本[左]は日立製作所との社会人対抗戦で好投。この春のオープンを通じて、田中監督[右]からの信頼を得ている[写真=BBM]

 明大・田中武宏監督が思わず、漏らした。

「俺と一緒だな!!」

 試合後の取材対応。指揮官の横にいた180センチ右腕・松本直(2年・鎌倉学園高)が発言した、大学入試における「明治を乱れ打ちしました」を受けてのリアクションである。志望校に入学するため、いくつもの学部を受験したという。

 松本は日立製作所との社会人対抗戦(4月3日)で、二番手で救援した。2回1失点。この日の最速は146キロで、打者9人から3奪三振とキレのあるボールを披露した。田中監督は「戦力として考えている。信用できる投手」と、春季リーグ戦でのベンチ入りを示唆した(試合は日立製作所が3対2で勝利)。

 高校時代は最速148キロを誇り、NPBスカウトからも注目された。だが、3年春は県大会初戦(2回戦)で敗退し、最後の夏も神奈川大会3回戦敗退と力を出し切れなかった。

「明治のユニフォームを着て、東京六大学で活躍したい。高校の1学年上に(捕手の)中村さん(凌輔)が明治に在籍しており、チームの雰囲気も聞いた上で高校3年夏、引退した時点で、明治を第一志望にすることを決めました。3年間、文武両道でやってきましたので、一般受験の選択をしました」

 ボールをペンに持ち替えて半年間、猛勉強。「情報コミュニケーション学部情報コミュニケーション学科」に現役合格した。

「昨年1年間は神宮に立つどころか、ベンチ裏でのサポート。一冬を越えて、リーグ戦で活躍をしたいと思い、取り組んできました」

 神宮のマウンドは、昨秋のフレッシュトーナメント(2年生以下でチーム編成)の3位決定戦(対法大)以来。気負いはなかった。

「(雨天で)コンディションは悪条件でしたが、社会人さんが相手なので、チャレンジャーとして向かっていくだけ。神宮でも、明治のグラウンドと変わらず、打者との勝負に集中することができました」

制球力の高さに心の強さ


 この春のオープン戦では、自己最速を152キロに更新。田中監督が求めるのはスピードではない。「まずは、コントロールが良い」。投手陣全体で「四球撲滅」をテーマとしており、ベンチとしては最も安心できるタイプ。そしてもう一つ評価しているのは、心の強さだ。

 現役時代、外野手だった田中監督は兵庫の県立校・舞子高から一般入試で明大入学。当初は地元・関西の名門大学でのプレーを希望していたが、セレクションで良い返事をもらえなかった。そこで、東京六大学に志望校を切り替え明大、法大、早大、慶大の練習を見学。リーグ戦メンバーを見渡すと「明治は無名の選手でも使っている」と、甲子園経験のない自らの立場を見据えた上で、明大一本に照準を定めた。受験可能な文系の学部、すべての入試に挑戦し、文学部に合格。当時、明大野球部を率いていたのは島岡吉郎監督。自身が応援団出身という足跡も影響してか、地道に努力する部員に対して、高校時代の実績に関係なく、平等にチャンスを与えた。田中監督は武器であった足と鉄壁の守備力で、レギュラーを手にした苦労人。田中監督は言う。

「松本はこの1年で、素晴らしく成長した。(2年秋から左翼手のレギュラーである)飯森(太慈、4年・佼成学園高)みたいに這い上がってきた(飯森は指定校推薦で入学)」

 過去のキャリア、学年も関係ない。力のある選手を起用する。田中監督の一貫したスタンスだ。松本は強気な一面を見せている。

「スポーツ推薦組に負けたくないという思いはもちろんありますが(一般入試組という)レッテルはなしにして、明治の一人として見てもらえるような選手になりたいです」

 明大は好投手がひしめき、ベンチ入りでさえも、大変な競争が展開される。登録25人の1枠をつかむのは、相当な価値がある。学生の本分をまっとうする松本は、まさしく部員の鑑。本人の意に反するかもしれないが、明大の学生、そして、東京六大学野球を目指す高校球児にとっても、励みになる存在である。

文=岡本朋祐